注目ビデオ「アフガン戦場の旅」発売

放送日:2002/10/12

アフガニスタン空爆開始から、今週初めで丸一年が経った。去年の今頃から、世界中の報道陣がアフガニスタンに殺到したわけだが、今回、その報道陣を主役にしたビデオ作品が売り出された。このビデオを撮影・編集した、東京新聞の吉岡逸夫記者に伺う。

−吉岡さんは新聞記者でいらっしゃるのに、どうしてこのビデオを撮影されたんですか?

吉岡:
撮影というよりも、何となくメモ代わりにビデオを持って行っただけなんですね。それが、日本に帰ってきた後、知り合いの映画学校の先生から「これを劇場でやろう」といわれて、周囲から押される感じで作ってしまいました。ですから、カメラも市販の一番安い、8万円くらいの小型のものです。

ビデオの一部をご紹介しよう。タリバン政権陥落直後、報道陣が首都カブールになんとかして入ろうとする悪戦苦闘が描かれた後、大回りをして首都に辿り着いた途端、「なんだ、平和じゃないか」と拍子抜けしているシーンだ。映像メディア『アジアプレス』の刀川和也さんと、吉岡さん自身の独り言(ナレーション)。

吉岡:
「どうですか、カブールは?」
刀川:
「平和ですね。」
吉岡:
「想像と違ってました?」
刀川:
「そうですね、ずーっと昔から平和があった感じです。」
吉岡:
「注意しなければならないことがあります。それは、米軍の空爆による、市民への直接の誤爆による被害は、実際には極めて少なかったということです。米軍は、軍事施設しか狙わなかった。それも、きわめて正確にです。カブールの人達もそれを知っていました。だから、ほとんどの人は、空爆の下でもいつもと変わらない生活をしていたのです。店も、市場も、お風呂屋さんも、空爆の間、全く変わらず営業していたのです。私は、カブールにいる二週間の間に、誤爆を受けた民家を探そうとしましたが、見つかりませんでした。それくらい、誤爆は少なかったのです。第二次大戦の東京大空襲のような様相を想像していた私は、面食らってしまいました。」

−想像していたものとは全然違ったわけですね。

吉岡:
そうですね。誤爆はもちろんあったのですが、僕の想像していたものよりは少なかった、という意味で言っています。僕が日本に帰った後も、『アジアプレス』の人達は2ヶ月間現地に残って、誤爆を受けた民家を探していましたが、カブール市内で15軒ほど見つけたという話を聞きました。ただ、カブールは100万人近い都市ですから、その中で15軒というのは、東京大空襲などのイメージとは違うな、と思いました。

こうした“平和”な印象は、刀川さんたちが、陥落より10日ほど遅れて到着したから抱いたのだろうか。では、カブール陥落のさなかに同市内にいた、フリージャーナリストの綿井健陽(ワタイ・タケハル)さんの証言シーンを見てみよう。

吉岡:
「ここの、カブールの人達は、市民はどういう顔をして(北部同盟の進軍を)迎えていたんですか?」
綿井:
「子供達は、やっぱり戦車の所に群がって手を振ったりとかしてたんですが、(北部同盟が市内に)入ったとき、市民達は一斉に出迎えるとかじゃなくて、普通にお店を開いて、通常の生活をしてる一方で、北部同盟の戦車が入ってきたり、という状況だったですね。子供達は、さすがに外国の報道陣とか珍しいんで、かなり群がって外ではしゃいでいたりしましたけど、一般の人達は、淡々と日常の生活を一方でしていて、その中に静かに戦車が入ってきた、という感じでしたね。一つ驚いたのは、北部同盟の戦車が通る一方で、結婚式をやってるところがあって、花飾りをつけた車が通っていたんですよ。『こんな日にも結婚式をやっているんだな』というのが、鮮烈な印象で残っていますね。」
吉岡:
意外だったですね。誤爆はあったにせよ、ほとんど一般の人は普通に生活していたんだな、と思います。戦場といえども、日常の生活は歴然としてあるんだな、ということを知りました。

さて、このビデオで吉岡さんが最も描きたかった本題は、「なぜ記者は戦場へ行くのか?」というテーマだ。この問を、70分の作品の中で色々な国のジャーナリストにぶつけている。

−何故、この問をぶつけていったんですか?

吉岡:
僕自身が、今迄カンボジアとかルワンダとか湾岸戦争とか、色んな激戦地、危ない所に行っています。断ろうと思えば断れるんですが、いつも引き受けちゃうんですね。しかも、結構喜んで行く自分がいるわけです。どうして自分は喜んでそういう所へ行くんだろう?他の人はどう考えているんだろう?という疑問がずっとありまして、それを今回、ビデオを撮りながら追求してみようかな、と思いました。これだったら、新聞の仕事をしながら追求していけるテーマだ、という考えもありました。

この問に対する日本人ジャーナリストの答を、いくつか見てみよう。
まず、隣国パキスタンで足止めをくらい、やきもきしている、某全国ネットテレビ局でおなじみの女性キャスター・Nさん。

吉岡:
「(アフガン出張を)希望したんですか?」
N:
「希望で。でも、ほんとはこんな所でお茶を飲んでいる場合じゃなくて、カブールに行きたいんですけど、なかなかそうは行かなくて、今はイスラマバード。カイバル峠よりも高い《会社の壁》、それを超えられないので、女性はイスラマバードで後方支援というか、情報を集めなさい、と。」

一方、カブール現地には入れたが、「これで良いのか?」と悩み続けている、前出の刀川さんは…

刀川:
「単純な言い方かもしれないですけど、自分の人生が豊かになることをしたいんですね。このニュースをやることによって、何かしら自分の人生に返ってきて、という風にしたいですね。」

−そもそも、吉岡さんは何故カブールにいらっしゃったんですか?

吉岡:
これをやっていくうちに考えたんですけれども、一番大きな理由は、やっぱり好奇心だ、と思いました。会社に対しては、希望を聞いてもらって、断ることもできるようになっています。実際、断る人も多いんですね。私の場合、昔、青年海外協力隊でアフリカにいたこともあり、ルワンダやカンボジアに行ったこともあるので、会社の方でも『あいつだったら大丈夫だろう』ということで話を持ってきます。私の方も、好奇心が強い事もあって、すぐ引き受けちゃうんですよね。実際、行っても、怖いと思ったことはないんですよね。どんな激戦地でも、人間がいれば、水はあるし食べ物はあるし、大丈夫、という自信はあります。

吉岡さんは、このビデオに引き続き、「なぜ記者は戦場に行くのか」(現代人文社 定価1,500円+税)という本も出版されている。この本の中で、吉岡さんは、 「何故記者が戦場に行くのかの答えを求めてきた。その答えは一つではない。会社のオーダー、好奇心、自己満足、使命感、金銭欲、功名心、現実逃避、カタルシス、ハングリー精神など…」と、ずらっと列挙している。非常に多様な動機をそれぞれに抱えて、記者は戦場に赴くのだ。

吉岡:
今迄の戦場カメラマン、ロバート・キャパや沢田教一などは、僕のイメージからすれば美化され過ぎているように思います。実際には、もうちょっと人間くさい理由で行ってるな、ということが、今回はっきりしました。
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