今回の下村はスタジオから飛び出し、ワールドカップ・サッカー因縁の対決=イングランドvsアルゼンチン戦が昨夜終わったばかりの札幌から、生リポート!
今(午前6時)現在、札幌市の中心・大通公園には、まだ数百人もの人が残っていて、「一夜明けた」というよりも「試合終了8時間後」という表現の方がぴったり来る状況だ。日本人はさすがにベンチでへたり込んでいるが、イングランド人達の中には、芝生でサッカーをやっている人達も居て、喜びを未だに消化しきれない様子。逆に、アルゼンチン人はほとんど見かけることができない。ホテルに帰って、ふて寝かな?
フォークランド戦争に始まり、4年前のベッカム退場も絡む因縁の試合だっただけに、フーリガンについても最も心配されたが、要所要所で日本各地(私が目撃しただけでも、警視庁、大阪府警、愛知県警、広島県警…)から集まってきた警察官が厳重警備に当たっており、何も大事には至らなかった。フーリガン入国阻止作戦も効果が立証されたし、何より、試合結果もラッキーだった。サポーターが遥かに大勢入国していた方のチーム(イングランド)が勝利して、警備陣も本当にホッとしたことだろう。
ここに至るまでの警備陣の緊張感を象徴するエピソードが、試合前夜にあった。イングランド人たちの溜まり場と化していた、すすき野の『サッカーカフェ』にいた私が、店を出ようとしたところ、入り口を屈強な警察官8人程に突然封鎖され、事実上“軟禁”されたのである。刺股(サスマタ)を手に仁王立ちの警察官は、何を尋ねても一切状況説明してくれず、黙ってこちらを睨みつけるばかり。かえって一般客の不安感を増長してしまいそうな不器用な対応で、緊張感が高まった。やがて、一転して「危険だから外に出て!」と言われ、店外に押し出されてみると、なんとそこには赤色灯を回した機動隊用のバスがズラリと5台も待機! 何事か、と集まってきた報道陣や野次馬も加わって、とんでもない大事件発生現場のような様相になっていた。…で、結局コトの中味は、《店内に飾ってあったユニフォームをはがして失敬しようとした外国人1人が、窃盗容疑で逮捕》だと…。絵に描いたような“大山鳴動ネズミ一匹”だったが、どんな小さなトラブルも暴動のきっかけになり得る、という警備陣の認識が、はっきり見てとれる対応ぶりだった。
「警備が仕事」とハッキリしている警察よりも、もっと対応が悩ましかったのが、一般の店舗だ。歓迎もしたいが警戒もしたい、「ハムレット」状態。臨時閉店を選ぶ店、営業して大繁盛する店が、クッキリと分かれる結果となった。ある大きなクラブでは、連日ワールドカップの試合を大スクリーンで放映し、お客さんを集めていたのだが、この試合だけは臨時閉店とした。店長さんにインタビューした所、「“関係諸方面”とも相談の結果…」と、やはり苦渋の選択だったようで、先程の『サッカーカフェ』が大繁盛していることを知らせると、なんとも悔しそうな表情だった。一方、満員電車なみの混雑となった『サッカーカフェ』の方では、「今日閉めているような店はダメですね! 我々はみんながサッカーファンですから、今日の閉店など、一度も考えませんでした。」と明快コメント。結局はこの選択が大成功だったわけだが、それは正に結果論。閉店派を「判断ミス」と批判するのは酷だろう。
ただ、こうして外国人が良く行くような店も相次いで臨時閉店してしまったため、試合前夜は、行き場を失った多くの外国人達が、すすき野を寂しそうにウロウロ歩き回っていたのが、ちょっと気の毒ではあった。「なんでこんなに閉めちゃうのか、全然わからない」と悲しげなイングランド人、「僕ら、札幌でイングランドのサポーターと友達になったよ。ケンカなんか、しないよ!」というアルゼンチン人。彼らに、日本人として、どう答えればよいのか、悩ましかった。
選手たちの行動ペースに振り回されたキャンプ地の自治体、JAWOC対バイロム社のチケット・トラブル、そして今度はフーリガン対応の戸惑い。ワールドカップで次々に遭遇する場面場面を見るにつけ、我々はまだまだ島国暮らしで、異文化ギャップにオタオタしちゃうんだよな〜、と思い知らされる。
だが一方で、こんなエピソードもある。札幌ドームの目の前のラーメン店『ふくはち』を切り盛りする鈴木美智子さんは、「フーリガンが怖い」ということで、試合前後約1週間の臨時閉店を早々に決めた。ところが、イングランドからの取材陣が何度も店を訪れるうちに、その人たちとすっかりうち解けてしまい、今さら閉店取り消しは出来ないけれど「今じゃもう、頑張れイングランド!という気持ち」というのだ。「知らないと怖いけれど、知り合っちゃえば、仲良くなれるのねー」という鈴木さんの述懐は、国際イベントのプラス面を、端的に象徴しているではないか。
ところで、この逸話には、もう一ひねり有る。鈴木さんは、この話を私にしてくれた時、「すまないねぇ、皆さんの期待に沿ったこと、言えなくて…」としきりに詫びるのだ。つまり、彼女の中で、《自分は、報道陣の前では、フーリガンを恐れおののく役を演じなければいけない》という意識があるのだ。そう言えば、大通公園の屋台のとうもろこし屋さんも、雑談の時は「意外に、いつもより売れないよ」とこぼしていたくせに、カメラを回したらコロッと「お陰様でよく売れてます!」なんて笑顔を作った。静かに歩いていたサポーター達が、カメラの照明が点いた途端に急にバカ騒ぎを始める、ということなど、当たり前の光景だ。《イベントかくあるべし》というイメージに忠実な人達を、メディア側が選り好みして採り上げる傾向のみならず、実は被写体の人達の側でも、求めてもいないのにそうやって“お利口”に演じてしまうという現象。「メディア論」のテーマだなぁ、と考え込んでしまうこと、度々だった。
それにしても、先週このコーナーで採り上げたチケット問題のその後の展開には、驚くばかりだ。大量の空席発生だとぉ?「JAWOCやバイロム社の発表を鵜呑みにした報道」を批判する姿勢で先週はお伝えしたが、まさかまさか、「チケット完売」という大前提までがデタラメだったとは、ただ唖然。何の事はない、結局私も、この大前提部分は発表を鵜呑みにしていたわけで、反省することしきりだ。
「入場者が想定より少ない分、ちょっと楽になりました」と、警備の人がポロッと空席歓迎の本音を現場で私に漏らしたが、試合を見たくて散々苦労して果たせなかった人にとっては、悔しくて悔しくて、どうしようもないだろう。
早く一連の問題が少しでも解消して、残り期間だけでも、心から楽しめるお祭りになって欲しい。