外務省改革案で浮上!“駐妻”の実情

放送日:2002/5/25

川口外相が設置した、外務省改革に関する「変える会」が、先日中間報告を発表した。きれい事に留まることなく、かなり恥ずかしい実態にまで踏み込んだものとなっている。
その中で私が眼をツケたのは、「夫人間に上下関係がないことの確認」という一項目だ。中間報告の文面をそのまま挙げてみると、「在外公館においては、館員夫人が一定の役割を果たす必要があるが、職員の夫人の間に命令関係・上下関係は存在しないので、これを通達等の形で徹底する。ましてや、在留邦人など、外部の人との関係でもそのような関係は存在しないことを徹底する。」とある。
「徹底する」ということは、実際には上下関係が存在しているということを物語っているし、しかもそれを通達で出さなければならない程、根深く染み込んでいる、ということだ。日本にいるとなかなかピンとこない部分があると思うが、下村が米国に4年暮らした間の見聞からしても、こういう世界は、大使館絡みだけでなく、一般企業も巻き込んで、本当に存在するのだ。
もちろん、全ての駐在社会がそうなっているわけではない。君臨するトップ夫人のキャラクターにより、千差万別ではあるが、時には日本人ムラ社会の象徴的な一面が色濃く表れ、“文化人類学的”に(!?)非常に面白い。

「駐妻」(チューツマ)という言葉をご存じだろうか? 日本企業の海外駐在員の妻のことを指し、現地では皆こう呼んでいる。今日はその駐妻を代表して、上村さん(仮名)という方に電話で伺う。

−上村さんは、ある公務員夫人として、ある海外の都市に赴任されたということですね。そこで実際に見聞された駐妻同士の世界で、気を遣って大変な場面は?

上村:
もの凄く厳しい、ヒエラルキーの世界ですね。夫の序列と、着任の順番によって、電話連絡網から、ものの言い方、お手紙の書き方までもが全て決まっているんです。
やはり、ご両親様が企業の偉い方だったり、大使の経験者であったり、議員の方であったり、いろいろそういうことはあると思います。面白かったのは、おじい様が陸軍の偉い方で…というように、先祖にさかのぼっていろいろ言われることですね。日本国内では全然考えられませんが。
「どちらにお勤めですか?」と大使館勤務の奥様に聞いたところ、「たいしか〜ん?」と語尾を上げるような感じで自慢げに答えられた、ということは良く聞きます。

−一般の所よりも、大使館員の奥様の方が上ということですね。その大使館の中でも、大使、公使、書記官…という上下関係があるわけですが、その奥様方の個人的なお付き合いにまで、何故上下関係が表れて来るんでしょう?

上村:
外国に行くと、何故か、日本が古くから持っている《男性社会》が顕著に表れ、女性の人間関係にも影響して来るんです。まるで、今から50年も60年も前の日本じゃないか、という社会が、海外に行くと、出て来たりするんです。人数も少なく、地理的にも逃れられない状況にあるので、そういうことが起きてくるのかも知れません。しかも、大都市ではなくて小さな場所だったり、とても寒い所だったりすると、乳飲み子を抱えた奥さんでさえも、ブリッジや麻雀などの集まりに、人数合わせで出なければならないこともあります。

−上村さんも、そういうことをきっちり守って生活していらしたんですか?

上村:
やはり、「日本じゃない」ということで、私の人間関係が夫の人間関係に影響するとか、子供社会に影響するということがありますので、私の一存で家族に迷惑を掛けたくない、と思いました。「幸せに在外期間が終われば良いな」と願って、日本にいるときのように、自由にはできませんね。

《幸せに在外期間が終われば良い》―――これは、1つのキーワードだ。つまり、何年か我慢すれば脱出できると思うから、この居心地の悪い状態を改革しよう、と言う気には誰もならない。その為、昔からの因習が、ずーっと残ってしまっている。
また、序列が上の方にいれば居心地は良いし、滞在期間が長くなればなるほど地位も徐々に上がっていく。そうすると、赴任した最初の頃は嫌だと思っていても、在外期間が終わる直前には、さして気にならなくなってしまうのだ。

−上村さんご自身も、滞在が長くなるにつれて格は上がりましたか?

上村:
何年もいると、最後の方は結構好きなように出来るようになりましたね。

−そうすると、今回の外務省改革での「通達」話も、大げさではないと…。

上村:
そうですね。既に、こういうことが体に染みついてしまっている人もいます。しかも、外務省と一般企業との違いとして、外務省は非常に駐在期間が長いということもあるかもしれません。例えば、企業ならば5年駐在して日本に帰る、ということもありますが、外務省ですと十数年も海外、ということもあり得ます。そのために、日本では時代が変わっていても、外にいると全然変わらない、ということもあるかもしれません。

はてさて今回の「通達」、海外日本人ムラの掟を、打破することが出来るのだろうか…?

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