中国人留学生ら、映像リポート発信開始!

放送日:2002/3/9

今や色々な市民グループが思い思いに映像発信を始めているということは、このコーナーでも既に何度もお伝えしている。今回紹介する『東京視点』は、私が今月いっぱい客員助教授として籍を置いている東大・社会情報研究所の中国人留学生を中心とした若者グループで、一生懸命リポートを撮ってはWebで配信している。メンバーの中から、日・中各1人ずつ、スタジオに来ていただいた。

1994年に日本に留学して来た可越さん(中国吉林省長春市出身/東京大学大学院在学中)と、ジャーナリズムの勉強をしている常井健一君(東京大学社会情報研究所・研究生)。

彼らは去年の秋から活動を開始し、既に9つの作品をWebに掲載している。
⇒ http://people.icubetec.jp/video/  どのように、テーマを決めているのだろうか。

可:
例えば、学生なので「学園祭」。中国には、学園祭というものが無いんです。私自身、日本に来てから「こんなに面白いものがあるのかー!」と思って、これを中国の学生に紹介しようということになりました。
それから、中国人が日本に対して関心を持っていることと言えば、自動車。そこで「東京モーターショー」のにぎやかな場面を取材して、中国の人達に紹介しました。
「狂牛病問題」では、日本社会はこれだけ大騒ぎしているけれど、私たちから見るとどうなのか、という視点も加えました。

−プロの特派員が発信する日本発のニュースでは伝えきれないような、ごく普通の日本の姿、断面を拾っていますね。

可:
私たちは、本当に身近な事や小さなテーマから、文化を拾い上げたり、人間の感動を、中国の人達、世の中の人達に伝えたいと思っています。

実は、私(下村)は3日前、『東京視点』のミーティングに参加させてもらったとき、可さん達が作った横浜中華街での今年の旧正月の様子の紹介ビデオを見て、厳しく批評した。
*型にはまっていて、新鮮な切り口が無い。
*いちいち「友好をお祈りします」なんてことを押しつけがましくナレーションで入れるな。
*そういう制作者の気持ちは、どういう映像・シーンを選ぶかで、言わずもがなで滲み出るものだ。
……といったことを指摘した。

−その後、ウ〜ンと頭を抱えていたみたいだね。

可:
大変ですよ、もう。私たちは全くの素人で、今まで映像制作なんてやったこともないし、企画とか構成とか取材とか、ビデオの回し方、編集の仕方も全く知らない、情熱しかない状態だったんですよ。そんな状態の私たちに、下村先生は色々教えて下さいました。

−全部で何人ぐらいでやっている活動なんですか?

可:
学生達を中心にして全部で20人くらいいます。でも、学生の本分はやはり勉強なので、毎回出席するのは大体14〜5人くらいです。
常井:
そのうち日本人は10人くらい、約半々ですね。でも、中国人留学生は物凄くパワーがあって、日本人側は、いつも押されないようにがんばっています。

−こういう事をやるにはお金がかかりますよね。財源はどうしているんですか?

可:
全く資金は無いんです。撮影・編集機材などは大学の備品を貸していただいてるんですが、テープ代や交通費は、全部自腹。「自分は国際交流に対して何かをしたい」という情熱を持っている人達が集まってやっています。
取材する時は、私の場合、もう1人の女性とペアで行くんですが、ビデオカメラを持ちながら取材もするし…なので、階段から転げ落ちてしまったこともあります。でも、借りた物なので、カメラはしっかり守りました。

『東京視点』のホームページ上の文章を見ると、彼らの"変化"が読み取れる。去年の10月10日、これから始めるよ、という予告の文章の時点では、「ネットテレビの可能性を追求し…」云々と、頭で書いたような理屈が並んでいる。
ところが、今年の1月20日、3ヶ月間の試行錯誤の試験放送を完了して、いよいよ正式放送を始めるよ、という文章は、「工夫しながら作った一つ一つの映像カットが集まって作品となった時には、言い表せないほど嬉しいものがあります。」などと、素直に実感がこもった記述になっている。

−正式放送開始に当たっての文章には、「自分達が活躍できる場を提供してくれた、中国人民日報に感謝いたします」とありますが…。

可:
無名の私たちのサイトでは見に来てくれる人も少ないと思って色々な人と相談していたら、人民日報日本語版の担当者の孫さんという方が「環境を提供しましょう」と言って下さいました。そして、人民日報Web版の一つのコラムの場を、タダで提供していただきました。

−でも、人民日報の《下請け仕事》ではない、と。

常井:
1円も貰っていないし、テーマの選択も完全に私たちの自由です。

−現在、独立NPO法人化の準備もしているとか?

常井:
自分たちの作った物にちゃんと責任を持って皆に伝えよう、その為にきちんとした組織にしよう、ということで、NPOという形を整えようとしています。

−きちんとした組織体が出来上がったら、映像リポート作品を発表する先も、人民日報に限らず、色々なところに出していきたいですか?

可:
はい。制作グループは私たち、著作権も私たちが持っていますから。

−自腹も切って、これだけ苦労してまで何故やっているのか、情熱はどこから出てくるの?

可:
私の場合は、日本に留学してきてもう8年間も滞在していますから、日本は第二の故郷になってきています。この愛する日本と中国は、何とかして仲良くしなきゃならないと思っているんですね。その為に、マスメディアを通すのではなくて、自分の感動などをそのまま中国に伝える、そのうちに私が中国で撮ったものを日本人に伝える、そのような相互コミュニケーションによって両国民はもっと有効に繋がるのではないかな、と思っています。皆、口では「日中友好」と言いますが、もっと行動でやり始めたいと思っています。
これは私の最初からの信念で、今後お金が無くても、一生続けていきたいと思っています。
常井:
私の場合は個人的なモチベーションがありまして、一つはインターネット放送という全く新しいメディアへの興味。今までのテレビの方法論、制作論をそのままインターネット放送に導入しても、使えない部分があるんですね。答えのない、自分でインターネット放送の可能性を探していく楽しさがあります。それから、中国人留学生の"目"を見るのがとても面白いんですよ。俺達にはない輝きをもっているんです…。
可&常井:
皆さん、『東京視点』を、是非応援して下さい!
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