「ただの団体」が「NPO法人」に変わる時

放送日:2002/01/12

21世紀も2年目に入った。これからの日本社会で確実にウェイトを増してくる存在といえば、ズバリ《NPO》。そこで今回は、上記のテーマについて今最もホットな講師、高閑者(たかがわ)清光さんをお迎えした。

高閑者さんは、所属する団体(『ユニークフェイス』…当コーナー01/12/22参照)をNPO法人に格上げする作業に、殆ど1人で取り組んできた。ちょうど全手続きを完了し、いよいよ来週にも認証が降りる段階。今はまさに立会い出産の真っ只中、というわけだ。今日は、実際に提出した書類などを持って来て頂き、具体的に説明して頂く。「今年あたり、そろそろ自分たちの団体もNPOにしてみようかな」という方、「未だにNPOって何だかハッキリわからない」という方、しっかり聴いて頂きたい。

−実は先週の放送後、「ユニークフェイス」の総会があって、下村も行って来たんですが、ラスト2時間はずっと「NPOとは何か?」という説明に充てられていました。
「申請書」以外にも、色々同時に出さなきゃいけないんですよね?

高閑者:
全部で16種類もの書類、延べ100枚には行かないまでも、かなりの枚数になりました。設立趣旨書、設立意思決定の議事録等々で、その中でも重要になってくるのが、事業計画、収支予算書、定款で、時間も掛かりますね。

−実際に書類を書いて役所に持っていっても、「この文書じゃダメ!」と突き返されたりもするんですか?

高閑者:
役所に行くときには、16種類全部の書類がちゃんと揃っていることが条件なんです。その前に色々と打ち合わせをしたり、相談に乗ってもらったりしました。
「相談」にも幾つか種類があります。1つは、東京都(注:
基本的に受付窓口は各都道府県庁)にNPO申請相談を受け付ける所があります。もう1つは、NPOをサポートするNPOがあって、そこに相談を持っていったりもします。
とくに定款は法律用語が非常に多く、日常は使わない単語が多く出てきますので、それらをマスターするのに非常に時間が掛かりますが、NPO事業サポートセンターというところが出している資料を基にやれば、簡単に出来ました。

−「事業の目的」については、かなり自由に、ユニークに書いて良いんですか?

高閑者:
それについては、長さが短かろうが長かろうが良いんです。会として、本当に何がやりたいのかということを熱く語るもOKですし、さらっと流すもOKです。

−一番苦労したことは何ですか?

高閑者:
やりたい事がたくさんあるのですが、それらを文書としてたくさん書いてしまうと整合性が取れなくなったりしてしまうんです。それをなるべく絞り込んで書くのが難しかったですね。最後の最後に東京都に相談に行ったときに「活動内容をもっと絞り込みなさい」と指摘を受けました。

−これらの書類を見ていると、普通の文章のものがあったり、予算書のような数字が入っているものもあったりで、なかなか普通では出来ないですよね。

高閑者:
まさに会社を興すのと、手続きは同じですね。

−市民団体だと、身内でこづかい帳程度の会計報告でやっているところも多いと思いますが、こういうように公的に認められるものを書かなければならないのは大変ですよね。

高閑者:
逆に言えば、しっかり報告することで会の中に対してもきちんと説明できるようになりますからね。今までは杜撰にやっていたところを見直すきっかけにもなりました。

−そこまで苦労して「NPO法人」格を取るメリットって、具体的には何ですか?
こんなに大変なら、内輪の市民団体のようなものでもいいのでは?という気がしますが。

高閑者:
法人格を得ることで、社会的な信用が高まります。企業・行政・学校とのお付き合いをするとき、先方から見ると法人格の有無が重要なポイントになるケースもあります。
もう1つは、銀行の口座を個人・法人どちらの名義で開設するか、ということもあります。

−それは重要だ! 個人名義の口座だと、会計で何か問題が起きたとき、その個人に全ての弁償責任などが掛かってしまいますもんね。それが全部「法人」という単位でお金のやりとりが出来るようになる、ということですね。
逆に、デメリット=「法人にならない方が良い」という点はありますか?

高閑者:
やはり手続きが非常に多いことと、報告義務=手続きが増える、ということですね。それを嫌う団体は数多くあります。

−法律が出来て以来、丸3年余りが経ちます。先週金曜までの時点で調べてみたら、民間の非営利団体が推定8万以上もあると言われる内、NPOの認証を受けたのは5688団体しかありません。現在の「ユニークフェイス」のように、申請は済んでいて認証を待っているのが、977団体。合わせても6600団体位です。他は「申請したけれど却下された」のかというとそうではなく、今までに却下されたのは計25団体しかない。つまり、元々ほとんど申請していない!ということですね。 結局は、デメリットに対して得られるメリットがそんなにない、ということなんでしょうか?

高閑者:
それは特に寄付について特に言えます。欧米であれば、NPOに寄付をした人は、寄付した分の金額を自分の収入から控除できるという税制があります。ですが、日本ではそうではありません。寄付をして収入から控除される対象になっているのは、ユニセフ、日本赤十字社などごく僅かなんですね。

−NPO法を作るときには、NPO法人格を得ることで、「そこに寄付をしたら寄付控除を得られて税金が軽くなる」という形でどんどん寄付しやすくなるようにしよう、と言っていたんですよね。去年の10月1日から一応、税法上はそういう制度に変わったのでは?

高閑者:
変わりました。・・・が、「この団体への寄付は、控除の対象にします」という団体になるために満たすべき条件が、ヒジョーーーに厳しいんです。

−まず、NPO法人になるために16種類の書類を出して、ようやく何ヶ月かかけて認めてもらって、…さらに寄付控除の対象になるには、まだ上があるということですか(笑)。どれほど厳しいんですか?

高閑者:
色々条件があるんですが、色々すぎて私どもは、最初からあきらめています。

−たしかに、10月1日にこの制度になって以降、2ヶ月後の11月末の統計によれば、申請までたどり着いた団体がなんと4団体! どう考えてもこれで「税制優遇措置を作りました」とは言えませんね。つまり、お上の発想の原点には、まだまだ「市民運動なんてうさん臭い、十分吟味せねば」という考えがあるんですよね。
ところで、来週にも認証とおっしゃっていましたが、最初に16種類の書類を作ろうというところからどのくらい時間が掛かったんですか?

高閑者:
提出したのが2001年9月20日で、現在までで4ヶ月弱ですね。
提出して4ヶ月間は、書類を役所が預かることになっています。2ヶ月間の閲覧などがあり、役所で審査があってから認可、ということになります。

−各都道府県によっても異なるんですか?

高閑者:
違いますね。東京都の場合は申請数が非常に多いので、審査には4ヶ月、目一杯かかりました。

−では、これから全国的なNPOを考えている人達は、何も東京で申請する必要はないわけですね。

高閑者:
そうですね。私たちの場合、活動は全国なんですが、事務所として申請するのが東京だけなので、東京都に申請することになりました。

−この申請が通ってしまえば、後はめでたしめでたし、ということですか?

高閑者:
この後、登記の作業があり、さらに法人としての色々な義務、例えば年一回の会計報告があります。

−今日の放送だけを聞くと、ひるんでしまう人がいるかもしれませんね。半年か一年経ったら、「それでもやっぱりNPOになって良かった!」という報告を、是非お願いします。

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