在日コリアン学生フェスティバル

放送日:2001/12/15

先週末(01/12/8)、私=下村は、在日本朝鮮留学生同盟(留学同)の年に1度の祭典『民族サラン!留学同フェスティバル』に行ってきた。日比谷公会堂で繰り広げられたこのイベントでは、民族の歌や踊りも良かったが、特に劇が新鮮だった。在日の人々が抱える状況を、全く力まず、コミカルかつ的確に表現しており、自分が学生の頃(わずか20年前!)の雰囲気とのあまりの違いに、隔世の感に打たれながら見入ってしまった。

スタジオ・ゲストは、私をこのイベントに誘ってくれた、友人の崔玲花(チェ・リョンファ)さん(津田塾大学3年生)と、フェスティバル実行委員長の鄭栄桓(チョン・ヨンファン)君(明治学院大学3年生)。

―まずは劇の1シーンから紹介します。イベントを主催した留学同メンバーの男子学生が、無所属で民族意識も薄い在日の女子学生とパソコン上でチャットするシーンなんですが、「総連」「民団」等の言葉が、実に気楽に使われていますね。「留学同は総連なんやけどな〜」というセリフもありましたけれど、つまり"北"系の団体、ということですか?

鄭:
そうです。朝鮮学校でなく、日本の一般の大学・短大・専門学校に通っている、在日コリアンの学生達の組織なんです。
崔:
私は韓国籍ですが、この団体に参加しています。"北"系とは言っても、私のように韓国籍の学生も何割かメンバーにいて、学生達はそのことをそれほど意識していません。

―お二人のように在日3世ともなってくると、生まれた時からずっと日本で暮らしていることもあって、南北の意識の差、というものはあまり無くなっているんですね。
"北の行事"ということで無意識のうちに《整然たるマスゲーム》をイメージしていたところがありましたけど、コテコテの関西風の劇に見事にやられ、まだまだステレオタイプな見方をしていたんだと反省しきりです。こういう、先入観に縛られた日本人へのアピールも1つの目的だったんですか。

鄭:
今回の観客1300人のうち、日本人は200人弱ぐらいだったと思います。我々も、日本の方にいかに自分たちのことを伝えるか、ということに力を入れてます。内輪でやっているだけでは、単なる自己満足で終わってしまいますから。
崔:
私もそう思って、日本の市民団体や大学を回ってポスターを貼ったりして、イベントを広めていきました。終った翌日、私の誘いで来てくれた日本人の友人から、こんな感想メールをもらいました。

> 今回の留学同フェステバルを拝見させていただいた一番の感想は
> 「うらやましかった。」ということです。
> 私には日本人としての突出した民族意識などはありません。
> だから、はっきり言って、在日の方々の「国・民族」に対する思い入れを理解することは難しいです。そして、在日の人の存在を知ってからまだ日の浅い私にとって、日本が行ってきた諸政策や、日本社会の中の差別を自分のこととして冷静に捉えることはとても辛い作業です。
> しかし、今私はそれをしなければいけない。と思っています。

> 今日の劇の中で「朝鮮を知ることは自分を知ることだ」というせりふがありました。
> 私も「自分を知るために日本を知らなければ」いけないのでしょう。
> しかし、私達には教えてくれる人もいませんし、環境も整っていないように思います。
> 私の周りの友人で「新しい歴史教科書の問題」をきちんと理解している子は多くありません。私にとっても歴史の勉強は「記号の暗記」であり、大学入学の手段でしかありませんでした。私は「教科書に載っていない歴史について知りたい」と思っています。

> 冒頭で「うらやましかった」と書きましたが、なにがうらやましかったかというと、
> 一緒に同じ気持ちで一つの歌を歌える仲間がいる。ということがうらやましかったです。そんなきれい事じゃないと思われてしまうかもしれません。でも、やっぱりうらやましかったです。
> 私にはそんな仲間もいないし、歌もない。
> こういう時日本人なら何をうたうのかな。と考えながら聞きました。
> 「君が代」なのでしょうか。でも、きっと今の日本社会で「君が代」を合唱したら日本人からも気味悪がられるでしょうね。

> 「教科書に載っていない歴史」を少し勉強してみて、私は日本人であることがイヤになりかけた時期があります。いままで、信じてたものに裏切られた。と思った時もあります。でも、私はその中で「自分」をみつけて生きていかなければいけないのだと思っています。

―日本人にもアピールできるイベントにしよう、と実行委員会メンバーが相談しているシーンも、劇中にありましたね。委員会メンバーが、在日学生に一生懸命、誘いの電話をかけるけど、劇の中では断わられ続ける。…あれはホンネの悩み所なんですか?

鄭:
ホンネもホンネ、大変な悩みどころなんです(笑)。今は価値観の多様化と言われている中で、「そんな事にこだわる必要ないじゃん」という在日の学生もたくさんいるんです。ですが、権利問題とか社会的状況で変わっていないところがすごく多いのに、それを直視しないということは、結局、後々、自分の問題として降りかかってきてしまうと思います。楽しく参加できるようにすればいいと思うんですが、「触れない方が面倒臭くなくて良い」といって軽視されてしまうのが、現状ですね。
崔:
私自身も、こういう誘いの電話を受けて留学同に参加した一人なんです。最初は猜疑心があって断っていたんだけど、1度全国イベントに参加したら、友達も多くできました。

―劇中では、冷めた在日学生が発した「コリアン・ジャパニーズ」という言葉に、実行委員会の学生が噛みついて、冷めた在日学生が「歴史問題はもう昔の話だ。現実はね・・・」と切り返すシーンもありましたね。
ところで、「現実」と言えば、先日の朝鮮総連の家宅捜索の影響は?このイベントはその直後にあったけれど、その事件に関しては、一切何も触れませんでしたね。

鄭:
自分自身の中にも、抗議という気持ちはありましたが、あくまで「日本の中にはこういう文化が存在している」と伝えることに徹する形がよい、と考えました。また、留学同の活動家の人達からも、特に抗議活動をやれ、ということは言ってきませんでした。

―そしてイベントの最後には、ヨンファン君が壇上で何百人もの同胞を背にして、「留学同宣言2001」を朝鮮語で読み上げました。リョンちゃん、通訳して下さい。

崔:
留学同は、21世紀にも変わりなく『もう1つの同胞大学』としての伝統を誇り、祖国の統一と繁栄、仲睦まじく豊かで力強い同胞社会構築において、常に先頭に立っていくことを、声高らかに宣言します。2001年12月8日、日本・東京!

―この壇上でのアピールの他に、実行委員長としての思い、訴えたいことは?

鄭:
いろいろと固いことばかり言ってきましたが、留学同で活動しているのは第一に「楽しいから」なんです。今回は打楽器の演奏にも参加しましたが、とても気持ちよかったし、そういう場があるということは素晴らしいことだ、と思っています。
今は大学の学園祭にゲストで呼ばれたりすることもありますが、それは「在日」が、まだまだ特異な立場として見られているからだと思います。でも、そうではなくて、この日本という国にはごく普通にチョンさん、キムさん、パクさんという人がいるんだよ、ということが自然に分かり合える社会がいい社会なのではないか、と考えてます。
崔:
私は、留学同に加わるまでは、自分が朝鮮人だということを表に出して話をするということがありませんでした。ですが、留学同で、「自分って何だろう、民族って何だろう」って自分と向き合い、自分なりの答えが出来た後に、日本の人達にそのことを話して、すごく深い人間関係を築くことができました。他にも、こういうラジオのような場所で朝鮮人として発言することで、朝鮮人としての自分に自信を持てました。そういう気持ちを後輩に伝えていきたいと思うし、また留学同のイベントに身近な友人を呼んで、私がどういう活動をしているかということも知ってもらい、さらに深い友人関係を築いて行きたいと思っています。
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