下村健一の中と外

ブロードバンドには肥料が効く

2007年8月14日

まさか、こうしてアラスカの人里離れた場所から「走り書き」が発信できるとは思わなかった。以前この欄に書いた、友人のドッグ・マッシャー(プロの犬ぞり使い)が暮らす広大なスプルースの森の一角を借りて建てた我がキャビン(と言うとカッコいいが、要するに“小屋”)に、例年通り夏休みで来ているのだが、その友人の家に、なんと24時間接続の無線ブロードバンド・インターネットが開通していたのだぁ!

見上げれば、彼の家の脇のひときわ高い木のてっぺんに、周囲とは異質な白い長方形の、表札ぐらいの大きさの物体がしっかり括り付けられている。送受信アンテナだ。そこから幹を下って、枝を伝って家へと伸びる伝送ケーブルには、「リス保険」が掛けられているんだと。―――そう、リスにかじられて断線したときの修理保障。

去年の秋、アンテナ設置工事が済んでから半年余りは、インターネット接続はすこぶる快調だった、と友人は言う。ところが、この春から、だんだん接続がスムーズに行かなくなってきた。パソコンをいくら調べても原因がわからず、友人が最寄りの町(と言っても40km先だが)のネット業者に相談すると、「木の葉が芽吹き始めたからだよ」との答え。やがてやって来た業者は、プロの目で通信環境(=周囲の景色)を見つめ、原因となっている数十m先のアスペンの木の枝を特定して、切り落とした。たちまちブロードバンドは、本来の威力を取り戻した。

キーボードではなくチェーンソーを使ってネット接続問題を解決した業者は、友人にこうアドバイスして、町に帰って行ったという。「お宅の送受信アンテナと、遠くの丘の上にある中継局の大アンテナとの間にある木が1本でも育つと、またアウトだからね。なるべくこのアンテナの木に肥料をやって、高く育てるといいよ。」

今、あなたがこれを端末で読めているということは、友人宅のパソコンから発せられた僕の駄文は、リスにかじられることも、葉っぱに遮られることもなく、無事アラスカの森から飛び出せた、ということだ。恩恵に浴することが出来た御礼に、肥料代ぐらいは僕が出そうっと!