小下村塾/投球の仕方--自分で発信!

静岡大学集中講義

1日目 「郵便ポスト物語」から抽出されるポイント(抜粋)
2003年2月12日 【 ノート1 】
いつ伝える?―タイミングを狙う

作品より:
主人公に選ばれた丸型ポストが、撤去された後に行きついた先は、幼稚園だった。多くの丸型ポストは役目を終えると壊されてしまうが、学校や博物館に引き取られる例が稀にある。

この題材についてある程度の基礎取材を終えた後、実際にポストが幼稚園などに引き取られる機会が来るのを待っていた。プロは常にいくつかのネタを抱え、ニュースにするタイミングを見計らっている

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誰が伝える?―進行役の選定

作品より:
進行役となったのは、丸型ポスト自身。「近頃の若いモン(角型ポスト)はどうもカドがあっていけない」「昔が懐かしいねェ」と、丸型ポスト自身の声がナレーションを務める

丸型ポストを進行役にした理由は二つあった。一つは、視聴者に丸型ポストへのシンパシーを感じてもらうため。丸型ポストが少し哀愁のある声でユーモアたっぷりに喋ると、視聴者は「このポスト、この先どうなってしまうんだろう」とニュースに集中する。もう一つは、丸型ポストが幼稚園に引き取られる結末を、視聴者が「騙された」と感じることなく受け入れられるようにするため。結末を知っている作り手自身がナレーションを務め、結末を引っ張ると、嘘っぽくなってしまう。

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何を伝える?―情報に立体感を

作品より:

・実社会と関わっている姿(今) 中年の女性が丸型ポストへ投函するシーン
・歴史の厚み(昔) 明治時代からスタートした日本の郵便とポストの歴史
・データ紹介 年々、丸型郵便ポストが減少して角型へ移行していく様子を表したグラフ
・世論の紹介 街行く人にポストの絵を描いてもらい、角型を描く人と丸型を描く人の数を比較
・証言の発掘 丸型ポストを製造する工場で働いていた人のインタビュー
・≪非A≫を描くと≪A≫の輪郭が見える 丸型ポストの特徴を浮き彫りにするため、最新の角型ポストの特徴を紹介して比較

テレビで見ている内容には、いまいち現実感が伴わない。ニュースを"テレビの中だけの話"にしないために、情報に立体感を持たせることが重要なポイント。また、博物館やインターネットなどで簡単に見つかる≪資料≫だけでなく、生身の≪証人≫を探すこと。≪証人≫を見つけるのは難しいが、≪証人≫が登場すると説得力が高くなる。

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何を伝える?―情報に立体感を

= 取材の留意点 =

【 事前 】
・周到な撮影計画

作品より:
丸型ポストが掘り起こされ、トラックに積まれて移動されるシーン。ぽっかり穴が空いたコンクリートの土台の先に、走り去って行くトラックが見える。


このシーンは、事前のロケハン(撮影現場の下見)でカメラマンと入念に打ち合わせて撮影した。現実に起こっている出来事を撮るのに、やり直しはきかない。周到な撮影計画を立てておくことが必要。

・出来事の事前把握

作品より:
丸型ポストを引き取った幼稚園では、ポストを迎える"歓迎会"を行った。


幼稚園から事前に"歓迎会"のプログラムをファックスしてもらい、どんなシーンを撮影するか計画を立てていた。また、"歓迎会"の数日前にこの幼稚園に行って子供達と遊び、カメラに慣れてもらっておいた。"歓迎会"当日、子供達をカメラに注目させず、自然な映像を撮影するためだ。

・サンプリングの配慮

作品より:
街行く人にポストの絵を描いてもらう取材では、老若男女がなるべく均等になるように声をかけた。


不特定多数にアンケートを行う場合、分母が偏ってしまわないように配慮する。

【 現場 】

・想定がひっくり返るまで聞く
・「必要条件」が「十分条件」に転じないように
・「へーっ」を探せ!

作品より:
街行く人にポストの絵を描いてもらう取材では、予想に反して、年配の人までが四角いポストを描いた。丸型ポスト全盛の時代を生きた人ですら、今や「ポストと言えば四角」になってしまったことがわかる。


こういう街角インタビューでは、「必要条件」(これだけの声が必要だ)が「十分条件」(これだけの声で十分だ)に転じないように。周到な撮影計画は重要だが、「計画していたものが撮れたから」と取材を打ち切らず、事前の想定がひっくり返るまで取材する。作り手が予想できることは、視聴者にも予想がついてしまう。視聴者に「へーっ」と思わせるような情報(ニュース・バリュー)を探せ!

・取材は芋ヅル

作品より:
丸型ポストの製造工場で働いていた人は、工場の周りを訪ね歩いて見つけた。ポイントは、「工場で働いていましたか?」ではなく、「工場で働いていた人を知りませんか?」と聞いて回ったこと。


芋ヅルを掘るように、人と人、出来事と出来事のつながりをたどって行けば、取材は際限なく続けられる。

= 表現の留意点 =

・演技の誘惑に負けない!

作品より:
中年の女性が丸型ポストへ投函するシーンは、実際に投函する人が来るのをひたすら待ち、やっと撮影した。


ポストへ投函するシーンを"やらせ"で撮ってしまった方が楽だ、という誘惑に負けてはいけない。映像には、"やらせ"の嘘っぽさが必ず透けて出てしまう。

・芋ヅルの終止符の打ち所(食わせすぎ×)

作品より:
丸型ポストの幼稚園でのその後は、取材しなかった。丸型ポストが本来の役目を終えて幼稚園に引き取られた、というところまでがニュースの本筋だったからだ。


芋ヅル式の取材で集めた情報を全て盛り込もうとすると、逆にニュースはわかりにくくなってしまう。例えるなら、作った料理を全て食べさせようとせず、一番おいしくできた一皿だけを出そう、ということだ。芋ヅルのどこに終止符を打つか、見極めよう。

・集中力を高める工夫≠過剰演出

作品より:
ポストが"最終の地"に到着するクライマックスシーンでは、心臓の鼓動の効果音などではなく、まったくの無音、という効果が採用されている。この結果、緊張感はかえって高まっている。


"工夫"をこらすということは、過剰に演出をすることではない。

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