新年度…フレッシュ介護士達が語る「介護はカッコいい!」

放送日:2008/4/12

新年度がスタートして、全国各地の職場で、社会人1年生たちが仕事を始めた。今朝は、数多ある職業の中から、特別養護老人ホームで介護福祉士の仕事に就いた新人たちに眼をツケる。
去年のコムスン事件以降、仕事のキツさ・給料の安さで、「介護業界は大変な仕事」というイメージが定着してしまったが、そんな中で、彼らは何故この仕事を選んだのか? 

■最高の接客業、自然に笑える場所、カッコいい資格

今月初め、その新人たちに、まずは動機から尋ねてみた。答えてくれた3人は、東京・町田市のアルファ福祉専門学校の卒業生たちだ。
久保田泰史さん(29歳)は、アパレル業界で社会人として勤めた後に介護士に転身した。

久保田: 自分が社会人をやっているときに、祖母が特別養護老人ホームに入っていました。そのときに介護士さんたちの姿を見て、「これこそ最高の接客業ではないか」と、自分の中で感じました。目指したのは、そこからですね。

下村: 一般の接客業と、介護という接客業の最大の違いは、何ですか?

久保田: 利用される方がお年寄りなので、それまで生きて来た人生経験とか、様々な背景を感じ取らないといけないんです。今までは商品を売っていたんですけれども、《商品じゃなくて人》というところが違いですね。人なので、数字では計れない部分が一杯あるんです。そういうところに一番の魅力を感じたんです。本当に、お金じゃない、と思います。

越野早苗さん(20歳)は、高校からこの専門学校に進み、ストレートで介護の道に入ったと言う。

越野: 中学のとき、クラスに障害者の子がいて、この子に対して私は何をしてあげればいいのか、(この子は)何をして欲しいのか、何を望んでいるのかを知りたいと思ったので、この世界に入りました。わざわざ作って笑うとかしなくても、自然と素直に笑える場所だと、私は思っています。

下村: 他の仕事だと、作って笑ったりすることありますからね。

越野: そうですね。(笑) アルバイトのときとか…

荻野真樹さん(24歳)は、別の職業に就くつもりだったが考え直し、大学卒業と同時にアルファ福祉専門学校に入り直した。

下村: 何故、この業界を目指したんですか?

荻野: 大学に行っていたときに教師を目指していて、教職(課程)を取っていたんです。その中に介護体験というのがありまして、施設に行って利用者さんと関わる中で、「ありがとう」とか、ねぎらいの言葉にも、関わっていく楽しさがあったんです。あとは、大学3年生の時にずっと入院する機会があって、その時たまたま、隣に高齢者の方がいたんです。その方に対して、介護士の方や看護士の方が懸命にケアしているのを見て、「凄くカッコいいな」と思って。自分も、そういうカッコいい資格を取りたいな、と。

■「収入よりやりがい」という心構えの“諸刃の剣”

3人が口々に語る介護という仕事は、本当に光り輝いている。だが、現実に収入は低い。一昨年のデータで、日本の全労働者平均年収が488万3千円なのに対し、施設で働く介護要員の年収は、299万5千円。この現実について、彼らはどう考えているのか。

下村: 収入っていうのは、そんなに重要な選択基準ではなかった?

越野: 「重要じゃなかった」って言ったら、嘘になります。でも、一人暮らしで生活できる範囲だったらいいな、と思ってました。いろんな求人(の収入条件面)を比べて見たという方ではないので。

下村: そのまますんなり、先生になっていた場合と比べて、今月からの収入はどんな感じですか?

荻野: そうですね、収入はもしかしたら先生になってた方があるかもしれないんですけど、僕はやりがいで選んだので。

下村: アパレル時代と比べて、年収はどう変化していますか?

久保田: 今の時点ではもちろん、2割くらい減りました。

下村: 今後高齢化が進んでいく中で、仕事の持っている価値と比べてこの報酬はどうか、と考えた場合、「もっと評価されてもいいじゃないか」という思いはありませんか?

久保田: それはもちろんあります。他の職種に比べたら「少ないのかな?」と思うこともあります。でも、あとは自分の心の持ち様だと思います。捉え方、どう自分が受け止めるか、そういった部分が一番大事なのかなと。

このインタビューの時点で、荻野さんと越野さんはまだ入社して数日、久保田さんは丁度1年目を終えたところだ。やはり実際に一度、別の業界で社会人体験をしてきた久保田さんが、一番厳しさを実感している。
しかしそんな彼でも、声高に不平をぶつけるのではなく「心の持ち様だ」と言う。こうしたポジティブな心構えは、本当に立派で頭が下がるが、その一方で、問題点を改めるべき立場の政治家や役人等を、「じゃあこの現状で良いや」と甘えさせてしまうような気がしてならない。

■「どこで死んだらいいんですか」

現に、介護士のなり手は、急速に減っているという。その深刻な人手不足の現実をどうすればいいのか?

下村: なり手が減っていくことは、仕方ないですか? 嘆かわしいですか?

久保田: そうですね。悲しい現実には思いますけども、仕方がないような気もするし、嘆かわしい気もするというのはあります。

荻野: このまま高齢化が進んで、団塊世代が入ってくるとなったとき、(介護士の)人数が少ないのはやはり辛いし不安もあるんです。逆に、(僕らが)一線で凄く頑張って、若い人たちを引きつけて、「やっぱりこの業界は、良いんだ」っていうのを巻き起こしていけたら、もしかしたら(人材も)続くのかなとも思います。

下村: 実際、お薦め業界ですか?

荻野: そうですね。僕はお薦めします!

荻野さんは、とことん前向きだが、新人として介護の仕事の壁にぶつかり、悩んだ経験も既にあるという。

荻野: 実習の初日に、利用者さんから「どこで死んだらいいんですか」って言われたのが、すごい衝撃的で…。ターミナル段階で末期の方だったんですけれども、不意に言われてしまって、本当に絶句してしまいました。

下村: 初日で、そういう場面に遭遇…?

荻野: そうです。コミュニケーションには凄く自信あったんですけど、絶句して、笑顔しか出来なかったんです。そしたら、すぐに職員の方が来て、うまく対応してる姿を見て、「やっぱりプロは違うな」っていうのを凄く感じて、僕もそういう風になれたらなって感じました。

■先輩介護士と支え合い、お年寄りと支え合い

専門学校も今の職場も荻野さんと一緒で、1年先輩として見守っている久保田さんは、先輩の目から見て、これから荻野さんが多分ぶつかるであろう壁について、次のように語った。

久保田: 彼は非常に真面目な方なので、言い方は失礼なんですけども、真面目すぎてしまうと、お年寄りと接した時に重く捉えなければいいなという点が心配になります。もちろん、わからないことがあれば何でも聞いてもらいたいですし、それに応えられるように、僕も日々努力したいです。お互いが良い意味で向上していければいいな、というのがありますね。

皆、こういう体験を重ねて、一人前の介護士になっていく。それだけに、やっと一人前になる年齢の頃、結婚して子供が出来て、「とてもこの年収では家族を養えない」とこの業界を離れていく人が続出している現状は、本当に何とかしなければならない。
インタビューの最後に、「一般の人にわかってもらいたい事は何か?」と荻野さんに尋ねてみた。

荻野: (介護の仕事をよく)知らない人から、「大変な仕事だね」とか「おむつの交換とか、そういうの僕はできないよ」って言われるんです。そこはマイナス面なのかなと。日常的に自分たちもトイレ使うわけですし、そういった一部分だけ見ちゃうんじゃなくて、全体的な事をもっとプラスに、「この仕事をしたら、皆はどういう事を得てるんだろうか」とか、もっと興味持ってもらいたいなと思います。
 この業界、利用者さんと関わっていく中で、自分自身も成長できるし。仕事的には相手の方を《支える》んですけど、《支え合い》なのかなって。こっちも関わっていく中で、《支えられている》っていう…。感動が凄く大きくて、とてもいいと思うんですけどね。

下村: お年寄りから荻野さんが逆に《支えられる》部分っていうのは、具体的に言うとどんな場面ですか?

荻野: 肉体的にキツいときもあったり、キツい言葉を言われたりして悲しいときもあると思うんです。でも、「また来てね」とか、「あなたに会うのが楽しいわ」とか、心が通じたんだというのが自分にとって「明日も頑張らなきゃ」とか、「あの人のためにもっと頑張れることがあるかもしれない」とか(励みになる)。そういうところです。

■「私は好きになれました」

学生時代の越野さんは、人との付き合いがあまり得意なタイプではではなかったが、この仕事に就いたことで、人間を肯定できるようになったと言う。

越野: (周囲の人は)本当に「大変だね」って言いますけど、「大変」はどの仕事もどこかで大変な部分があるはずです。私は「ずっと楽な仕事は無い」と思っている中で、この仕事をしたくて入ったので、今はとても幸せですし、こうやって利用者さんと話せることで、凄く癒されるんです。

下村: 越野さんが癒される?

越野: とても癒されますね、ほんとうに。

下村: さっきも(施設利用者のお婆ちゃんと)手をつないで話してたけど、逆に“つないでもらってる”っていう感じ?

越野: そうですね、はい。「つないでもいいですか?」って、ちょっと手を出して、やっとつないでいただけたので。―――人間を好きになれますね。私は好きになれました。

介護の現場が抱える様々な《問題点》に焦点を当てて取材していると、いつも介護士の人たちに「そういう報道ばかりしていると、ますます世間から介護は暗い職場だと思われてしまう。だから、この仕事の素晴らしさや、私たちのプライドを伝えてほしい」と言われる。そこで今朝は、そんな《美点》に絞って、お伝えした。
先週から、荻野さんは久保田先輩と同じ、横浜の特別養護老人ホーム「都築の里」で、越野さんは町田市に新しく開業したばかりの特別養護老人ホーム「花美郷」で働いている。
―――あなたの地元の福祉施設でも、きっとこの3人のような若者が、今、新しく仕事を始めたところである。

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