エイプリルフール・ジョーク収集家と、日本の4・1を考える

放送日:2008/4/ 5

世界のエイプリルフール・ジョーク集
鈴木拓也(著)『世界のエイプリルフール・ジョーク集』
中央公論新社/798円(税込)
今週火曜のエイプリルフール、あなたは気の利いた嘘で楽しめましたか? 
―――世界中のメディアに載った、今までのエイプリルフールの嘘記事を集めた本、『世界のエイプリルフール・ジョーク集』(定価798円税込)が、先月、中央公論新社から出版された。著者の鈴木拓也さん(眼のツケドコロ・市民記者番号No.65)に、お話を伺う。

■常識を知らないと、嘘も分からない

――この1冊に、何本の実例が掲載されているんですか?

鈴木: 68本です。ページ数に制限がありましたので、それでも大分削った方なんです。最初、80本の予定でした。

――嘘記事を集めるのに、ご苦労は無かったですか?

鈴木: 大分、苦労しました。と言うのも、海外の新聞は、「これがエイプリルフールの記事ですよ」という風にネタ晴らしをしないんです。例えば「去年のこの新聞、どれがエイプリルフールの記事かなぁ?」と探しましても、あくまでも、本物の記事と同じ体裁で書いてますので、どれがどれだか分からないんですよ。新聞社の人も担当者が転職したり、教えてくれなかったりで、全然手がかりが無いので、そういった意味では、探すのは本当に大変でしたね。

――じゃあ、本当にその国の常識が分かってる人でないと、判別が付かないっていう感じですね。

鈴木: 英語が読めるようでしたら、さり気なくヒントが紛れ込んでいたりするので、それが手がかりになるんですけどね。例えば、「エイプリルフール」という言葉に似た単語が記事の中にちらっと入ったりとか、そういうのが手がかりになります。

■タコベル vs ホワイトハウスのジョーク合戦

この本に紹介されている新聞は、大手のものが多い。
まず、最初のページに登場する例がいきなり、1996年4月1日付のニューヨーク・タイムズ紙。日本にもあるメキシカンファーストフードのタコベル・チェーンの全面広告で、「タコベル社は、リバティ・ベル(自由の鐘)を買い取りました。鐘の名称は、今後、『タコ・リバティ・ベル』となります」という話が、鐘の写真と共にデカデカと載っている。リバティ・ベルは、アメリカ合衆国にとって自由・独立の精神を象徴する存在だ。

――これは、実際どういう反響だったんですか?

鈴木: 皆さん、米国の方が読者なんですけれども、ほとんどの人が真に受けました。それを元に、米国の約650の新聞や雑誌、数百のテレビ番組で紹介されて、反響がどんどん飛び火して行きました。米国人の2人に1人がこの広告を知るところとなりましたから、販促効果は相当高かったと思います。タコベル社自体が、一番驚いていると思います。

――売り上げにも貢献したんですか?

鈴木: しましたね。同月前年比の数百倍というような客の入りで。ただ、4月の間だけでしたけど。毎月毎月、エイプリルフールをやるわけには行きませんので。(笑)

この本で紹介されている、ホワイトハウスのマカリー報道官のエピソードが面白い。この“タコ・リバティ・ベル”について記者から質問された報道官は、「ついでにリンカーン記念館も(自動車メーカーの)フォード社に売却します。ここは、『リンカーン・マーキュリー記念館』と名前が変更されますよ」と、すっとぼけて応えたという。

――本当に、そう応えたんですか?

鈴木: そうです。ある種のネタ晴らしだと思うんですけれども、それで「あぁ、あの話はエイプリルフールのネタなのか」と皆気づいてくれましたから、かえって良かったかな、と。

■受け止める側の上手・下手

こういった、ジョークを受け止める側(大物政治家など)が、如何にユーモアを込めて切り返すかで、その人の“大人の度合い”が測れる。

鈴木: 政治家関係の仕事に就いている人ですと、気の利いたジョークを話さければならないというプレッシャーが常にありますので、こういった即興的なジョークの得意な人は多いですね。

このエピソードは、旧ソ連のフルシチョフ首相に関する有名なロシアン・ジョーク(エイプリルフールではないが)を思い出させる。公衆の面前で「フルシチョフ首相は大馬鹿者だ!」と叫んで回っていた男が逮捕され、「罪名は何だ?」と報道陣に訊かれたフルシチョフ首相が、「国家の最高機密を漏らした罪だ」と切り返したというお話。マカリー報道官の切り返しは、まさにこのウィットに通じるものがある。

タコベル社の話は、《ジョークとして》面白い、として広まったケースだが、この本には、エイプリルフールの記事が《本気で》転載されてしまった事例も紹介されている。19世紀後半に、「(発明王の)エジソンが、水からワインを直接製造する機械を発明した」とニューヨーク・グラフィック紙が報道し、その記事が全米の様々な新聞社にこぞって転載されてしまったというのだ。

鈴木: (19世紀後半は)メディアのエイプリルフールの黎明期だと言えます。こういった事は、最近も結構あります。本物らしい記事というのは、「これは本物だ」という先入観がありますので、皆疑わず、新聞社の人達も騙されることは、結構ありますね。

――騙された新聞社は、情報源に確認を取らずに他社の記事を受け売りしているんだっていうことが、これでバレてしまったわけですよね。

鈴木: まぁ、当時の米国の新聞というのは、毎日がエイプリルフールみたいな感じでしたから、記事の半分位は作り話だったようなんです。ですから、それほど読者が怒ったりとか、そういった話には繋がらなかったみたいですね。

■騙されたときの爽快感が大切

――騙されるというのは、その人の《地金が出る》というか、この例の様に、ネタ元を確認していないという実態がバレてしまったり、教養の程度がバレてしまったりと、なかなか怖いものがありますよね。

鈴木: そうですね。でも、騙されるということは、結構(「やられたぁ」という)《爽快感》が伴うことなんですよ。私自身が経験あるんですけれども、2003年のヤフー・ジャパンのウエブサイトのコンテンツで、脳の中にある情報を画像としてパソコンに映し出すというテクノロジーが、ニュースとして発表されたんです。私は、これをすっかり本物の記事だと思い込みまして、周りの人に「遂にヤフーが凄いテクノロジーを発明したぞ!」と吹聴してしまったんですよ。で、午後になって、そのヤフーの記事に「これはエイプリルフールの記事です」という文字が付け足されたので、騙されたということに気づいたんです。こういう、本人が傷つかないような形で、金銭的に害を被らない形であれば、騙されるということは、結構楽しい経験だと思います。

――“害の無い範囲で”という所がポイントですね。

鈴木: ええ。これで実際に(害を)被ってしまうと、怒り心頭になってしまうと思いますので。だけど、エイプリルフールの記事を読んで何が面白くないかっていうと、「あ、これは明らかにエイプリルフールだな」と分かりながら読むことなんですよね。

この本で紹介されている実例の中で、最も気合いが入っているのは、英高級紙ガーディアンによる「サンセリフ」という国の観光情報記事だ。延々7ページも費やして大特集を組んでいるが、実はそんな国は存在しない。
また、68例の中で私が個人的に一番好きなのは、ニュージーランドのラジオ局が流した、「スズメバチの大群がオークランドに向かっているので、外出する時には、ズボンの裾を靴下に入れて履いてください」というニュースだ。

――こういう軽い行動の指示を伴うものは、騙されたという感じが明確になって面白いですよね!

鈴木: ラジオのエイプリルフールの場合は、パーソナリティの方がリスナーに対して「~してください」というパターンが結構あるんです。有名なものですと、「近所のグラウンドにスペースシャトルが着陸しますので、皆、その時間になったら見に来てください」というのを流して、かなり人が集まったらしいです。もちろん、これは嘘だったんですけれども。こういった、罪の無いレベルの嘘でしたら、ラジオでやってもいいかなと思います。

■袋叩きに遭った、下村健一と朝日新聞

その点、日本では、報道機関がこういうジョークを言うことは絶対に許さないという社会の空気が強い。
私の忘れられない「エイプリルフール事件」は、1990年の4月1日朝のこと。メインキャスターを務めていたニュース番組のオープニングで、「今日から新年度。日本もいよいよ夏時間に変わります。このニュースが終わって午前7時の時報と同時に、時計を8時に進めてください」という、嘘の告知をした。夏時間移行などという大イベントなら当然前々から国民的議論になっているはずで、こんな見え見えのジョークに騙される人など全国に1人もおらず皆ニヤリと聞き流してくれると思いきや―――数十秒後に「今日はエイプリルフールです。先程のようなジョークにはご用心ください」と言うまでの、その僅かな間に、日本中の系列局に問い合わせの電話が殺到してしまった。番組が終わってからも、「私は何十年もJNNのニュースを信じてきたが、今日から信じない!」など抗議の連続で、先輩達が営々と築き上げてきた信頼を一瞬で叩き壊してしまった。(この事件は、報道局長口頭注意ということになり、私のホームページのプロフィール・賞罰にも汚点として刻まれている…。)

鈴木: 日本のマスコミの方、実際に情報を発信する側の記者やニュースキャスターの方は、「エイプリルフールのネタを出したい」という願望が凄くあるようなんですけど、日本の場合、受け止める側はその辺がちょっと厳しいんですよね。

――朝日新聞も、何年か前に、私と同じような目に遭ったんですよね。

鈴木: そうです。朝日新聞は、かなり前から「エイプリルフールの記事をやりたい」というのが結構滲み出ていたんですよ。毎年4月1日になりますと、「海外の新聞ではエイプリルフールのこういうネタがあった」という記事をよく出してましたので、もともとそういった願望はあったみたいです。そこで、この本書に収録されているように、エイプリルフールの記事を2回に渡って展開しました。

朝日新聞は、政治面に大々的にジョークの記事を載せたのだが、抗議が殺到して、翌日に謝罪記事を載せる羽目になってしまったという。だが、普通なら「お詫びします」と書くところに、この謝罪記事では「ごめんなさい」という表現を使って、依然として茶目っ気・洒落っ気を残しており、騙した側の記者の“気骨”のようなものが感じられた。

鈴木: (朝日新聞は)今年か来年、また(ジョーク記事を)始めるかなぁと思ってるんです。『天声人語』で、私の本について言及されてましたから、多分、来年(のエイプリルフール)あたり、やりそうな感じですよ。そういう願望は滲み出てると思うんですよね。

■残りの364日、騙されないために…

そもそも、日本社会は、どうしてこんなに許容範囲が狭いのか。生真面目なのか、心に余裕が無いのか…。

鈴木: 日本だと4月1日というのは年度代わりで、入学式があったり新入社員の歓迎会があったり、厳粛な日というイメージが結構強いですから。

――なるほど。西洋は、9月が年度替りですものね。

鈴木: ええ、その辺が一番大きいと思うんです。もう1つの理由は、ホワイトデーとかバレンタインデーみたいに、企業がマーケティングの材料として、なかなか使いにくいというのがあるんです。これがもし、エイプリルフールを記念日化して、エイプリルフール限定商品っていうのを出せるようなマーケティングの方法があれば、もしかしたら日本でも流行っていくかもしれませんね。企業の絡みが出てこないと、定着はなかなか難しいと思います。

そんな生真面目な日本社会の中で頑張っているのが、東京新聞だ。毎年「特報」面で見開き2頁を割き、嘘記事を載せている。今年のエイプリルフールの同紙記事は、「(米国大統領選挙の)オバマ候補の腹違いの弟が日本にいた」。その弟だと言う写真は、私のとても仲の良い友人記者がモデルになっていて驚いた。記事は一目でジョークと分かるのだが、結構、真に受けた問い合わせもあったらしい。(とほほ…)

今回ご紹介したジョークの事例は、鈴木さんの著書『世界のエイプリルフール・ジョーク集』の「前書き」部分だけからの引用で、この後に本文で、延々と世界各国で報道されたジョークが続く。
ユーモアセンスを磨き、相手(メディアでも!)の言う事を鵜呑みにしない眼力を鍛えるトレーニングの場として、エイプリルフールは今後の日本社会にとっても大切な行事だと思う。今年の4月1日は過ぎてしまったが、ユーモアセンスは通年必要だ。その起爆剤として、この新刊、ぜひご一読を!

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