サンプラザ中野くんが語る、農業と路面電車と地域興し

放送日:2008/2/23

中国から輸入されたギョーザの問題がまだ騒然としているが、こうした事件に揺さぶられてしまう背景には、輸入に頼っている日本の食糧事情の危うさがある。
そんな中、つい先日、食糧自給率100%の県や地域を増やそう!という思いを込めて、『チーム100%』という市民グループが結成された。日本の農業や食糧問題に危機感を持つ20代~30代の社会人を中心とした任意団体だ。富山県で行なわれたその結成イベントに、ゲストとして参加してきた「サンプラザ中野くん」さんにお話を伺う。
(注: 最近彼は「くん」までを芸名に取り込んだので、このように表記しないと呼び捨てしていることになってしまい、ややこしい。以後この文中では、25年来の友人という間柄からシンプルに“中野くん”と呼ばせていただく。)

■《世界の変え方》は、《自分の変え方》から

この『チーム100%』結成イベントは、中野くんが出たトークショーの他にも、シンポジウム(タイトルは、「若者が変える!日本の地域と農業~あなたの世界の変え方、教えてください」とカッコいい)、農村体験プログラム、茅葺き屋根の合掌集落の見学…等々、盛り沢山のプログラムが組まれていた。

中野: このイベントに向けて、東京から血気盛んな若者たちが、バスツアーを組んで富山まで行ってましたよ。

――トークショーでは、中野くんはどんな事を語ったの?

中野: とにかく《日本》を変えていくには、まず《富山》から変えていこう、と。それで、(手始めに)《自分》を1歩変えるためにはどうしたらいいかっていう、いろんな話をして来たんです。
  「受け身であれ」っていうことでもないんだけれども、人に何か言われた時に《ピンと来る能力》を高めておく必要があるよね、っていう話。それは(今回のテーマの場合)どういうことかっていうと、「健康であれ」と。「健康な野菜を食え。それで、日本の農業をちゃんと、自給率を高めようよ」という話をして来たんです。
 大体俺は、人から言われた事を素直に、ピンと来た事は、やってる。自分の中の転機が色々あったんだけど、歌を唄い始めたのも、とある先輩に「お前、歌唄えよ」って声をかけられて、「あ、唄います」って言ったの。頭を剃ったのも、「ボーカルが頭を剃ったらコンテストで優勝できるんじゃないか?」って言われて、「いいね」と思って頭を剃ったの。サングラスをかけて唄うようになったのも、「頭剃ってて、サングラスかけて唄ったら、カッコイイんじゃないの?」って言われて、かけてみて唄ったら評判が良かったとかね。で、最近「くん」づけに芸名を変えたのも、とある霊的な女の子から「(名前に
)“くん”って付けたら、凄く運気が上がるよ」って言われたんで、付けてみた。

――その延長線で、近頃は「健康であれ」に《ピンと来てる》のか。実際、今、肉や魚は一切食べないんだよね。

中野: 食わない。ベジタリアンですから。

――そういう自分のライフスタイルに根ざして、「農業、元気になれ」と。この話は、ウケましたか?

中野: ええ、ウケましたよ。

■「こいつらは、日本を変えていく」

ウケた証拠に、このイベントの参加者の1人、湘南で養豚業を頑張る宮治勇輔さんは、自身のブログにこう書いている。

―――ブログ『みやじ豚.com』より―――――――――――――――――――――――――――
サンプラザ中野くんは農業にも関心が深い。「日本農業には個性がない」という言葉に思わずうなってしまった。(とても謙虚で、「僕のような農業のことを全く知らない人間がすみません」とおっしゃっていました。念のため。)
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――「日本の農業には個性がない」っていうのは、どういう意味?

中野: 日本の農家で凄く成功した男の本っていうのがあったんですよ。『信州がんこ村』っていうのを作った人の話なんですけど。そういうのを読むと、受け身の農家だと、やはり農業が衰退していっちゃうんじゃないかなっていう風に思ったわけです。で、「個性がない」と。
  その本によると、日本の農業は、多分戦後だと思うんですけれども、農協という団体が農家に指導をして、農家のほうも農協に言われるままに作って農協に出荷してっていう、非常に受動的な農業になってしまって、それで均一化してしまったと。土地も、農薬とか化学肥料を大量に撒いたことによって痩せてしまったと。で、その人は、「こういう農業のあり方は間違っている」と。

農協という巨大システムが、日本の零細農業経営を支えたプラス面は、もちろん否定できないだろう。しかしその反面で、こうした指摘があるのも事実だ。

中野: その人は、農協が非常に力を拡大している最中に、日本にいなかったんですよ。それで、自分が子供の頃、おじいさんに教えてもらったやり方を、日本に帰ってきてからずっとやってて。「農協のやり方だと、土が痩せてしまう」とか、「農協に出荷しているだけじゃ、俺が作ったこんな良い野菜を皆同じ値段で売られるのは変だ」と思って、自分からルートを開拓して自分からスーパーに持っていくとかね。で、スーパーでも「それ、お客さんにウケがいいんじゃない?」って言うんで、ルートが出来たと。

――そうやって1人1人が創意工夫で個性を発揮して、農業を再活性化して、食糧自給率を100%に近づけて……という目標は、凄く壮大だよね。出来るかな? 結成イベントの手応えはどうだった?

中野: 今回だけではわかんないけど、夜には、宿舎にしていた廃校で、食事会があるっていうんで、僕も出かけていって参加した。皆元気でしたよ。「やる気のある奴らがいるなぁ!」って思いました。そこだけ考えたら、完璧に有望。「こいつらは、日本を変えていくな」と思いました。
 
――あとは、その“元気”が拡げられるかどうかだね。こういう番組や、中野くんのいろんな発信で、拡げていかないといけない…

中野: うん、そうそう。

■八丈島と富山、ニートと食糧自給率

――それにしても、歌手としての爆風スランプの「サンプラザ中野」しか知らない人には、食糧自給率を上げようという団体と中野くんって、とても不思議な組み合わせだと思うんだけど、何で、招かれることになったの?

中野: 柳明菜監督という方とのトークショーに呼ばれたんですよ。(柳監督が撮った)『今日という日が最後なら』という、八丈島を舞台にした映画は、「社会企業家としての立場で、八丈島をどう活性化するか」という視点に立った作品なんです。そのエンディング曲を僕が担当して、ちょっとだけエキストラで出演もしてるんですけど。

――こんな目立つ格好の奴を、エキストラに使っていいのか!

中野: 一応ちゃんと帽子を被ってたんで、誰も分かってないから。(笑)

なんだか話がすぐ脱線してゆくが、要するに、この映画も「島興し」が主題で、今回のイベントも富山の「地域興し」を土台にしているから、それで繋がった、ということだ。

そして、不思議な組み合わせは、もう1つある。この新団体『チーム100%』の事務局は、NPO『コトバノアトリエ』に置かれている。『コトバノアトリエ』と言えば、以前このコーナーで紹介した、あのニート専門のインターネットラジオ局『オールニートニッポン』の仕掛け人だ。
どうして“ニート”と“食糧自給率100%”がつながるのか? 『コトバノアトリエ』代表理事の山本繁さんに尋ねたところ、「農業は“カッコ悪い”というイメージを変えたい」のだと言う。ニート達が魅力的な働く場を色々探す時、今のイメージの農業では、選択肢から落ちてしまう。そこで、農業をカッコイイものにしたいということで、魅力再発見をしてもらうための場として、このイベントが企画された。

中野: あ、そうなの? 農業って“カッコ悪い”んだ、今でも!?

――本当はカッコいいのに、誤解されている。だからそれを何とかしたい、と。

中野: 食糧自給率が下がっているのは、後継者がいないからだっていうのもあるしね。《働き場のないニート》を、《働き手のない農業》と結びつけよう、と。

――短く言えば、そういうことでしょうね。

■時代は反転、路面電車はカッコいい

今回の富山イベントの「開催目的」を見ると、「首都圏の若者に地方暮らしと農業の魅力や可能性をPRする」と同時に、「富山の若者に富山の魅力を再発見してもらう」とある。この“富山の若者に”という部分が、1つのポイントだ。しかし、“柏の若者(?)”も、今回の訪問でだいぶ富山に魅了されたらしい。

中野: 富山、いいよ。僕、もともと色々読んで知ってたんですけど、富山っていうのは、日本で一番住みやすい県だとも言われてるんです。去年からは、路面電車が走ってるんですよ。僕が何故、そこに一番注目してるかっていうと、路面電車は、世界各国の首都圏で、「都市部の交通機関として最も使い勝手がいいんじゃないか」と言われてるんです。鉄道で駅を作っちゃうと、入って、階段を登って、階段を下りて、またいで…って凄く大変だし、駅を作ること自体が物凄く金かかることじゃないですか。だけど、路面電車だと、バス停に毛が生えた程度の物をポンポンって街中に作って、乗る人も信号を渡って、ヒョイと行ってヒョイと乗れると。それが、都市部には凄くいいんじゃないかということで。
  今回富山に行ったら、NPOの人が連れてってくれたんですけど、見に行ったら、カッコいいんだ、この電車が! 電停(路面電車の停留所)もこれまたカッコいいのよ。多分東京のデザイン事務所が完璧に見た目を管理してて、デザインを乱すような変ちくりんな広告は、車体や電停の壁に貼らせない、みたいな。物凄いカッコイイの。ホントだよ! すんごい可愛くて、こんな電車が街の中を走ってたら、それだけでもうハッピーな感じ。

――僕も以前、出身地の東京・町田市で、路面電車を導入しようという運動をしてる人達と交流があって、ヨーロッパの路面電車の写真を見せてもらったけど、たしかにセンスがいいよね。

中野: 俺も、東京や札幌のチンチン電車みたいに、風情のあるものが富山にも走ってるんだろうなと思ってたら、全然違ったから、ビックリしちゃったのよ。

確かに、「都市部は車が多いため、路面電車は廃止する」という時代の流れは、既に静かに逆転を始め、今や「都市部の車を減らすため、路面電車を復活する」という正反対の発想が、世界各地で実践され始めている。混雑緩和のために街の中心部から車を締め出して、代わりの足を確保しよう、という考え方だ。

――じゃあこれから、農業だけじゃなくて、そっちも発信していく? 「路面電車はイイぞ!」って。

中野: 発信したほうがいいですね。そしたらもう、都内に車が入って来なくて大丈夫になりますよね。

■「柏兄弟」から「減脂バトル」まで

――脱線ついでに、「農業再興」という元の話から拡げて「地域興し」をテーマにすると、中野くん自身も、地元・千葉県柏市でいろいろやってるんだよね。

中野: 柏の市民団体『ストリート・ブレイカーズ』というのが、10年前から「柏を元気にしよう」って、いろいろやってるんです。その中の1つに、音楽というのがあって。柏ってストリートミュージシャンが一杯集まってて、しかも、許可制なんですけど、「(路上で)やっていいよ」っていう状況なんですよ。
  で、『ストリート・ブレイカーズ』と私が手を組んで、柏発の地域密着型音楽レーベルを立ち上げたんです。
『柏兄弟』って言うんですけど。これは、ファンドを利用していて、彼らのCDを作るお金を、柏市の人々を中心に1口1万円で募るんです。で、CDを作ってあげて、彼らはそれを売って、ある程度の枚数がさばけて元が取れると、出資した方にも色を付けて(お金を)返せると。柏から出るアーティストを、柏の市民が支えていこうという仕組みなんです。

――ちゃんと回転してるんですか?

中野: 回転してます! 今の所、(CDを)2枚出してます。1枚目は元を取りました。2枚目は、まだちょっとですけど。

――中野くんが、いわばプロデューサー的に動いていると。偉い! これは、地域興しだ!

中野: いやいやいや。柏、元気ですよ!

――それを見て、柏以外の人達が「柏は羨ましいなぁ」と思わないで、「じゃあ俺の町でも」と思わなきゃ駄目なんだよね。

中野: そうなんだよね! ノウハウはいくらでも出せるんで、訊いていただければ。

――訊くって、どうやって訊いたらいいの? 中野くんには、町を歩いててもなかなか会えないんだけど…(笑)

中野: 『ストリート・ブレイカーズ』に訊けばいい。柏市に電話すれば、分かると思います。俺も講師としては行くんですけど、『ストリート・ブレイカーズ』は本当に面白いんですよ。例えば、「柏市の人々から、脂を減らす」っていう「減脂(ヘルシー)バトル」もやってて。去年は50人参加したんですけど、今年は評判になっちゃって300人近く入って。地域に展開してるスポーツジムが、2ヶ月無料でそれを受け入れるわけ。市内で参加しているレストランが、800円とかでカロリーの低いランチを提供して、2ヶ月間に体重を減らそうっていう…。

――効果、上げてるの?

中野: 去年優勝した人は、2ヶ月間で20キロ位痩せてましたよ。

これは、単なるイメージアップ作戦ではない。世界に眼を転ずれば、国民医療費の膨張に苦慮した国が、国策として健康増進プログラムに取り組んでいる、という実際の例も聞く。

――面白いこと、色々やってますねぇ。

中野: 楽しいですよ、毎日!

すっかり話があちこちに散開してしまったが、そういうわけで(どういうわけだ?)『チーム100%』の若者達のチャレンジには、中野くん共々、これから注目していこう。

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