防災の日! 2学期開始! 校舎耐震は大丈夫?

放送日:2007/9/ 1

今日(9月1日)は、防災の日。そして、週明けから2学期開始という学校もかなり多いだろう。この2つに因んで、今朝は、学校の校舎の耐震強度問題に眼をツケる。
公立小中学校の建物のうち、震度6強レベル(先日の中越沖地震級)の揺れで倒壊する恐れのあるものが、全体の実に1割弱、1万棟を超えるというゾッとするような推計データが、先月上旬に文科省から明らかにされた。この問題でずっと警鐘を鳴らし続けている、『まちづくり計画研究所』の渡辺実所長にお話を伺う。

■根拠も脆弱、示唆も抜き

――この文科省発表の数字、どうご覧になりましたか?

渡辺: 子供の安全を、この国はどう考えているんでしょうかね。日本列島は、地震の活動期に入っています。政府が地震発生確率を公の情報として公開してますが、例えば、東京首都圏直下の地震が今後30年以内に70%の確率で起きる。あるいは、仙台、宮城県沖地震が99%の確率で起きる。これ、一学者の数字ではないですよね。政府が、国民に対して地震の危険度を、数値に、確率に直して公開しているわけです。
 そういう状況の中で、今回の文科省の数字が出て来る。これ、実は毎年更新して出してる数字なんですけれど、受け手側―――つまりこの数字を知る国民の側は、この数字を知って《どうすればいいんだ》というところが、何も示唆されない。今、この問題で議論しなければいけないのは、まさにその点なのに。そういう示唆抜きの数字って、どんな意味があるんでしょうかね。

――この数字にしても、「推計」とされてますけれども、実際、どうやって弾き出されてるんでしょうか?

渡辺: 各学校は、公立の場合には市町村が作って管理をしてる、あるいは県立ということになれば都道府県になるわけです。そこに「耐震強度はどうなってますか?」というお問い合わせを、文科省がしてるわけですね。で、いわゆるアンケート形式で挙がって来た数値を足し合わせて、文科省がまとめた数字として公開してる。それじゃあ、その都道府県とか市町村、学校を管理してる所がどれくらい耐震度診断をしてるかというと、これも実は、末端の数字というのが非常にいい加減というか危ういんですよ。
 と言うのは、「診断してるか・してないか」というのは、すぐに出ますよね。じゃあその「診断をしてる」という時に、どれくらいの精度でこういう公的な施設の診断をしているか。実は耐震診断ってお金がかかりますから、それぞれの自治体が専門の業者に発注をして診断をしてるかどうか、これが実は危ういんです。

――つまり、足し算をしている元になる個々のデータすらも、ちょっとサンプル調査を行なって「こんなもんだろうと」…?

渡辺: …ですね。だから、公立の学校などの実態は、多分、文科省が発表している数字以上の危険な状態にある可能性が十分に秘められてると思ってるんです。

■ある県立高校長の“本気”

実に幸いなことに、阪神大震災以降の、日本国内で大きな被害があった地震は皆、早朝・休日・夕方など、学校に子供がいない時間にばかり起こっている。だから、問題が表面化せずに先送りされている。

――学校の先生達は、危機感って、どうなんでしょう?

渡辺: 私が関わった神奈川県下の公立高校があるんですけれども、ここの校長先生が物凄い危機感をお持ちになったんです。神奈川県下では初めて、防災の専門家である私を呼んで、子供達とPTAの皆さん、そして学校の先生方を集めた、防災講演会というのを開かれたんです。この予算を採るのが、もう至難の技だったという話を校長先生から聞きました。
  自分の学校を県が耐震診断してくれたらしいんですが、これが「危険だ」と言う結論が出て、当然、建て替えになるだろうと、校長先生は思っていたんです。ところが、「予算の都合上、順番があります」ということで、実際にいつ耐震補強をしてくれるのかということが、まだ分からないという状況にあったんですね。校長先生は、「学校の一番トップにいる立場で、このまま放っておいていいんだろうか?」ということを、非常に真剣にお考えになって、私に講演のご依頼がありました。「専門家として、まず事実を子供達に、PTAも含めてしっかり伝えて欲しい」、そして「まだ耐震補強がされない中で、大地震が来たら、どうやったら自分達の身を守れるのか?」という、この2点がご依頼事項だったわけです。
 で、私は事前に校長先生と会って、2つの点を確認しました。「ご依頼は受けますけれども、まだ県の耐震補強の見通しが立たない中で、子供達にあるいはPTAに、そういう危険な《負の情報》をストレートに伝えてしまって、問題が起きないだろうか?」というのが、第1点。それから、当然、現状の学校の危険な場所を私が事前に調査して、それを前提として、子供達に知らしめないといけない。危険な要素を知らなければ、どうやったら身の安全を守れるのか、その方策って出てこないんです。ですから、「具体的な危険箇所を、情報として子供達に与えても問題はないだろうか?」というのが第2点。
 そしたら校長先生は、「実はその事を伝えるために、渡辺先生にお願いをしたいんです」という風に返答してきたんですね。僕は「これは本物だ」と思って、もちろん快く受けまして、事前調査のため、すぐ県の教育委員会に飛んで行きました。

■危険校が多過ぎて、後回し

渡辺: そしたら、実は、学校に示されている耐震評価の結果だけではない、ということが分かりまして。資料が一杯あるんですよ。それをもちろん全部学校に示してもいいんだけれども、基本的に学校の先生は(言ってみれば)素人の方ですから、これを全部示しても意味が無いだろうということで、主要な部分、主にリスクが高い所を情報として学校に提供してるようなんです。
 それ以外にも沢山の情報がありまして、それを見せて頂いたら、かなり悪い状況にある。ですから、「これは耐震補強の優先度は高い学校だろう」ということを確認したら、「もちろん高い」と。しかし、高いレベルにある学校というのが数多くあるんです。それを順繰りに年度予算でやらなければいけないから、この学校の順番はもう少し先になる。「もう少し先というのは、いつなんだ?」「それは分からない」というのが、県の教育委員会の対応だったんです。

――神奈川県立高校という中だけでも、(耐震強度の)非常に危ないレベルの学校が一杯あって、優先順位をつけざるを得ないと?

渡辺: 皆さんにもぜひ覚えておいて欲しいんですが、日本の建物の耐震基準が大きく変わったのが、昭和56年(1981年)。これを境にして、それよりも古い建物は、大きな地震に遭うと、構造の如何を問わずに大変に大きなダメージを受けるということが、12年前の阪神・淡路大震災のときに、被害の建物の全棟調査をやってわかった事なんです。
 で、公立の学校は、56年以前に造られた学校というのが、実は大半なんです。ですから、耐震診断をすれば、あの耐震強度偽装事件の時に騒がれた、耐震強度の数字で“1”を下回る学校が、ほとんどを占めているんです。

――ちなみに、先ほどの校長先生の高校というのは…

渡辺: 校舎毎によってもちろん違うんですけれども、1番低いもので、0.67だったかな。半分ちょっと位しか強度を持ってない校舎があったんです。これは、補強する方が安いのか、取り壊して新しい建物にした方が安いのか、経費のかけ方として、ぎりぎりのところだと思うんですね。

■これこそ「政治とカネ」の話!

文科省は、先月のデータ発表のときに合わせて示した「耐震化推進計画案」の中で、来年度から5年間で対策を講じようと謳っている。渡辺さんの言うように、改築は金も時間もかかるから、とりあえずの補強を優先してやっていくという事を求めている。

――やはりなかなか即応は難しいんですかね、現実には。

渡辺: だけどね、日本は、耐震補強っていう技術があります。それから、材料ももちろん、途上国ではないですから一杯あります。要は、お金さえかければ、すぐにでも出来る仕事なんですよ。これは、途上国に行くと、材料の問題だったり、工法や技術の問題っていうのが当然出て来ますから、そう簡単には行かないんですけど。日本の場合には、どこが障害かというと、予算なんです。他に何も障害がない。お金さえかければ、今耐震性の問題のある学校を、それこそ数年のうちに地震に耐える建物にする事は可能な国です。
  子供達の命を守る―――施策の中の優先順位、つまり税金をどうやって使っていくかという予算を組む時の、優先順位の問題だと、僕は思うんです。お金さえあれば片付くような問題なのに、文科省から情報が発信されているにもかかわらず、国家が予算を配分しないということ自身が、僕には全く理解できないですね。

――渡辺さんがずっと前からこの問題をおっしゃり続けているのに動かないっていうのは、予算配分って言う、まさに政治判断ですね。

渡辺: これは、《政治問題》なんだと、僕は思うんです。考えてる時代は終わったんですよ、日本は。

防災の日だと言って訓練をすることももちろん大事だが、こういう問題を「考えなきゃ…」と繰り返すだけではなく、抜本的に先へ進まなければならない。

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