中嶋朋子さんが語る、100万人のキャンドルナイト 

放送日:2007/6/23

昨夜から明日の晩(6月22日~24日)まで連続3夜、今年もまた沢山の市民グループや民間企業等が参加して、「100万人のキャンドルナイト」が行なわれている。
環境省の「CO2削減/ライトダウンキャンペーン」と同時開催のこのイベントは、「でんきを消して、スローな夜を。」という呼びかけで、夜8~10時まで身の回りの電気を消して、キャンドルの灯りでゆっくり過ごそうというシンプルなものだ。2003年から毎年、夏至と冬至の頃に実施され、今年で5年目を迎えた。
イベントがスタートして以来、ほぼ毎年参加して重要な役割を果たしている、女優の中嶋朋子さんにお話を伺う。

■柔らかい入り方で、参加者急増中

このコーナーでも、初めての年の本番2週前に「間もなく開催」と紹介したが、その初回にライトダウン(消灯)した施設の数は、全国で2,278ヶ所。一昨年の第3回(夏至)には22,716ヶ所。第5回の今年は、今週木曜日(6月21日)現在で63,044ヶ所に達している。

――どうしてこんなに、参加が急増しているんでしょう?

中嶋: 私は、「皆きっと参加してくれるだろうな」って、最初から思っていたんです。「ちょっとライトダウンして、静かな時間を持ってみたらどうですか?」という《柔らかい入り方》で、すごく気軽というか、心に訴えて来るじゃないですか。「あ、そうだよね。やってみようかな」って思えるっていう…。「何かやりたいんだけれど、何をしていいか分からない」「なかなか踏み出せない」っていう方も、沢山いらっしゃるはずなんですね。そういう方達には、「あ、そうか。この時間に、皆と気持ちを合わせて、電気をちょっと消してみるっていうこと(だけ)で、参加できるの?」っていうこの柔らかさが、広まっている理由だと思います。

ライトダウンする施設の名前を聞くと、錚々たる顔ぶれだ。北は札幌・時計台や函館・五稜郭タワーから、南は沖縄・首里城まで。東京タワー、六本木ヒルズ、横浜ベイブリッジ、ナゴヤドーム、大阪城天守閣、広島平和祈念公園(原爆ドーム)等々、全国各地のシンボルのライトアップが、フッと消える。

■フードマイレージからソウルタワーまで

灯りの消えた東京タワーの足元、港区の芝公園 (去年までは芝・増上寺)では、大勢がロウソクを持って集まり、暗い中で毎年盛大にイベントが開かれるという。“お江戸八百八町”にちなんで「東京八百夜灯2007」と銘打ったこのイベントは、明るいうちから盛り沢山だ。

★15:00~ 「フードマイレージ屋台」
フードマイレージというのは、その食べ物が産地から食卓に届くまでにどれぐらい輸送距離があったか=《どれだけ運搬にCO2を消費してしまったか》を表す数値のこと。普通マイレージはせっせと溜めて多いほど嬉しいが、これは逆。屋台には、そのマイレージの少なさを誇る食べ物が並ぶ。なるべく地元の近くで穫れた物を食べれば、表示される数値はゼロに近づくわけだ。CO2ばかりでなく、買う側の立場で見れば、鮮度や保存料使用可能性の程度まで見当を付ける目安になりそうだ。

★19:00~ 「アコースティックキャンドルライブ」

★19:50~20:00 「東京タワー 消灯カウントダウン」

中嶋: これ、凄いんですよ、ホントに! 皆でカウントダウンをして待つんですけど、フッて消える瞬間に、ゾワって鳥肌が立ちますね。何でしょうね? もちろん賛同して下さった企業(で東京タワー)の近所のビルとかも、フワッフワッとまた呼応するように消えていくんですよ。気持ちが届いているみたいで、もう、凄いんです。本当にこれは感動するので、ぜひこのライトダウンのカウントダウンにいらっしゃるといいな、と思います。

★20:00~「キャンドルナイトタイム」
ここで、中嶋さんは壇上に登場する。

中嶋: 私は、朗読をさせて頂いています。ま、(朗読の内容は)いろいろなんですけれど。今回は、木原健太郎さんというアーティストの方のピアノとのセッションで、私の大好きな絵本作家の方の作品を読ませて頂くんです。

――え? でも、暗いんでしょ? どうやって…

中嶋: 暗いですね。(笑い) もちろん、皆さんに見て頂くライブなので、最低限の光量はあります。あとは、参加してくださった方々の灯し火っていうのがありますから。

――それで、ぼぉって明るい?

中嶋: そうですね、はい。

――そこで朗読していらっしゃる時、中嶋さん自身の心持ちとか会場の空気って、どんな世界になるんですか?

中嶋: 《柔らかく、ひとつになる》感じ。(会場が)凄くリラックスして下さるんですよね。キャンドルを自分が手にしてやって来て、基本的に地面に座って、皆さん思い思いにリラックスして聴いて下さるので、演者として届きやすい感じがします。
 木原さんのピアノの音っていうのは、本当に優しくって美しいんですよ。詩人ですね。リハ-サルで「こういう風に語りたいの」って私が抽象的なお話をしても、木原さんは「じゃあ、こんな音?」って。例えば「星の瞬き…」っていうと、「こんな感じ?」「ああ、そうそう!」なんて、盛り上がってやってます。
 ある時は、(ピアノと朗読が)かけ合わせみたいになったり。逆に、言葉で語らない分をピアノで語って頂いたりっていうのを、繰り返して行くんです。

★20:45~ 国内のライトダウン施設をライブリレー中継

★20:55~ 韓国・ソウルタワーが消灯される瞬間をライブ中継
昼のうちに溜めた太陽発電の電力で賄われる中継画面を、皆で見守る。日本で始まったキャンドルナイトは、外国にも広がり始めているのだ。

★21:05~ 原田真二さんらのライブ

そして夜10時にイベント終了で、再び電気が灯る。

■2時間の消灯は、自己満足か?

――この“再び灯る”ということについて、「《そんな短時間の消灯》に、どんな意味があるのか? 自己満足じゃないか」という批判もあり得ると思いますが、どうお考えですか?

中嶋: 《そんな短時間の消灯》も出来ないのは、どうかしら?

――なるほど、そう切り返す!

中嶋: 本当に、自分の思いが叶う瞬間なんですよね。「皆で1つの事をやってみようよ」っていう、ある瞬間に皆で固まって1つの事に向かうってことが、凄く大事で尊くて、大きな1歩なんですよ。
  どんな事でもいいはずなんです。たまたま、灯りっていうのは凄く美しいし、人の生活にも心にも物凄く大事なものだからこそ、それだけ私達に感動を返してくれる。「消えた」って瞬間が美しかったり、また、「灯った」っていうと、その文明の有難さっていうのを考えて、「自分達なりに向上して行けるように考えようよ」ってなればいい。別に、灯りがいけないとは言っていないので。だから、灯っていいんです。

元々このイベントの発案者達も、たった2時間の消灯分でエネルギー大量消費が緩和されるなどとは考えていない。そういう直接的な目的を持った消灯ではなく、「エネルギー大量消費の生き方について、考え始めるきっかけとなる2時間を持とうよ」という趣旨だ。

――これが最終目的じゃなくて、“初めの1歩”なんですね?

中嶋: 心の中で、何かが動き出すっていうことだと思うので、第1歩だと思います。

■自然観は、北の国から

――そもそも中嶋さんは、こういうエコロジーの取組み全般に、どうして積極的に関わるようになったんですか?

中嶋: 私、北海道の富良野に、本当に長いこと、行ったり来たりではありましたが、生活するようにお仕事をさせて頂いた経験がありまして。

――お仕事って、『北の国から』?

中嶋: そうです。8才、9才という、凄くいろんなものが育つ時期に、放り込まれた大きな自然だったんです。

――それを“蛍ちゃん”(中嶋さんが演じた女の子の名前)は受けとめてしまったと?
 
中嶋: 楽しいし、美味しいし、「綺麗!」とかいうアンテナが、私の中に一杯立ってしまって。そこからですね、自然が大好きとか。あとはやっぱり、北海道だったので、自然(のサイズ)も大きなものだったんです。
 ホント、人間って、ちっぽけなんですよ。撮影隊なので、
(普段の収録では)暗幕を張ったりして、昼さえも夜にしてしまったりすることがあります。(ところが北海道の大自然の中では)そんなこと、してられないわけですね。もう、自分のエゴイスティックなものとして、自然を操作するなんてこと出来ない。「ちっちゃいなぁ、翻弄されるんだなぁ」っていう経験を小さい頃にしたので、生かされてるっていうか、もう「参りました! 生かされたいです」って思うようになったんですね。

■東京の舗道の草にも教えられ

中嶋さんは、北海道の大自然の中での経験を、「ああ、《富良野は》良かった」で終わりにせず、東京という大都会で暮らしながら、今は《東京流に》実践している。

中嶋: たまたま私は、東京生まれの東京育ちで、撮影の間、富良野と(東京と)の往復をかなりの頻度でしていたわけです。それが凄く良かったんですね。
 北海道の自然の偉大さを知り、北海道に培われた《自然観》っていうのを、子どもだから東京で捜したくなるわけですよ。そうすると、東京では、捜さないと無いんですね。都会では、捜さないと自然の息吹きに出会えなくて。その“捜す”のが、今度は楽しくなっちゃったんです。捜すと、コンクリートから割って出て来る草とかを発見して、(北海道で)偉大な大木に出会うのと同じぐらいのカルチャーショックで「強いなぁ!」って思ったり。
 都会の自然に教えられた事も、凄く大きかったんです。《強さ》を学んだんです、都会では。で、北海道では、母なる者みたいな《雄大さ》を感じて。その2つがあったからこそ、「自然と共にっていう風には、どうしたらいいかなぁ」っていうのを考えるのが好きになっちゃったんです。
 緑を保ってくれている場所とか、(都会には)結構あるんですよ。もちろん、鎮守の森とかもありますし。そういう所で、子ども達と捜し物をするのって楽しいんですよね。大人って、決まった物しか見つけられないんですよ。“自然”って言ったら“大木”、とかね。(笑い) でも、子どもは凄く低い目線で、どんな物も発見する《喜び》っていうのをフルに活躍させてくれるので、「こんな物見つけた」「あんな物見つけた」って。大したこと無いものだと思っても、見ると凄いっていうのを一杯見つけてくれるので。

――息子さんは、今小学3年生ですよね。環境情報の総合サイト『環境goo』に、母子で新宿御苑に行った「子どもと一緒に自然かんさつ会」の話がありますが、まだまだ、そういう感性はフルに向上中って言う感じですか?

中嶋: ええ。もうもう、大騒ぎですね。(笑い) 子どもとの自然観察っていうのは、「大人がリードしなきゃいけない」ってことは全然無くて、逆に「リードしてもらう」ぐらいで楽しめます。

■民間企業へ、各家庭へ―――それぞれのキャンドルナイト

冒頭では、ライトダウンを実施する施設として大きな所だけを紹介したが、一般の民間企業等も沢山参加している。コムスン問題で介護施設の引受け先候補として何かと話題のワタミグループは、全国の有料老人ホームと外食チェーン店652ヶ所。民放テレビの各キー局も、東京本社のシンボル等の消灯に全局参加する。(TBSでは、屋上の巨大な円盤を縁取るウェザーライトや社名・ロゴの看板が消灯。)身近な所では、セブン-イレブン、ファミリーマート、エーエム・ピーエム、ローソン、サークルKサンクス、ミニストップ、スリーエフ、セイコーマート、デイリーヤマザキ…等々、多分あなたの街のコンビニも、15分~2時間、何らかの形で消灯に参加する。
また、中嶋さんが参加する「東京八百夜灯2007」の他にも、全国で沢山のイベントが行なわれる。その数も年々急増しており、初回(2003年)が63件、第3回(一昨年)には355件、そして第5回の今年は、最終集計はまだ出ていないが、900件前後にも上りそうな勢いだ。北は北海道・名寄市から南は沖縄県・石垣島まで、全国各地でそれぞれの趣向を凝らしたイベントが開催される。
海外では、先ほどご紹介した韓国・ソウルタワーの他にも、米国シアトル、サンタモニカ等でも、イベントが予定されている。
更に、明日(6月24日)の晩8~10時の間は、環境省が「ブラックイルミネーション2007」と銘打って、各家庭の電気も一斉に消すことを広く呼びかけている。

――中嶋さんは、もし朗読の出演が無くて、この時間にご自宅に居られたとしたら、どんな消灯タイムを過ごしますか?

中嶋: 私は、ロウソクの灯りで、息子と影絵をして遊びます。楽しいですよぉ! 普段からやるんですけど、特にこの日は張り切ってやりますよ!

――良いアイデア! それぞれの家庭が、それぞれの過ごし方をすればいいんですよね。

中嶋: そうです。ホントに素敵な時間になると思う。話したいことがあったら話してみるのも良いだろうし、恋人との素敵な時間にもなるでしょうし。様々に、皆さんで考えて頂きたいと思います。

この《2時間の過ごし方》については、4年前のこのコーナーでも事例を列挙しているので、ご参考まで。
何らかの形でこのイベントに参加する人は、環境省の推計では、既に600万人を超えていると言う。一見大袈裟かと思われた「100万人の…」というネーミングは、今や、むしろ実体に合わない小さすぎるタイトルになった。

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