子供専用ホットライン、今日から1週間全国で!

放送日:2007/5/ 5

今日(子供の日)から来週金曜(5月11日)までの1週間、世界的に広まりつつある「チャイルドライン」が日本国内でも開設される。これは、大人に何か話を聞いてもらいたいと思っている子供たち(18歳まで)専用の無料電話システムで、開設期間中は、毎日午後3~9時の間、全国どこからでも無料で電話が繋がるようになっている。
主催者であるNPO『チャイルドライン支援センター』常務理事の徳丸のり子さん(眼のツケドコロ・市民記者番号№48)にお話を伺う。

070505_4_1  ■子供たちとの“4つの約束”

徳丸: 「チャイルドライン」は、子供たちに、子供の日に相応しいプレゼントをしたいということで始まりました。今年で8回目です。

去年は、子供の日からの1週間で、5万4千件もアクセスがあったという。回線数の限界で、繋がったのは1万7千件だが、それでも単純に計算すると、1日に203時間、子供たちはこの「チャイルドライン」で大人と会話をしたということになる。

――子供たちがこんなに「チャイルドライン」に殺到する“人気の秘密”って、どういうところにあるんですか?

徳丸: 「チャイルドライン」は、子供たちと4つの約束をしているんです。まず、[名前は言わなくていい]、匿名性ですね。それから、[イヤになったら、いつでも子供の方から電話を切っていい]、これは子供の主体性を大事にしています。それから、これが民間の電話で出来る最大の特徴なんですが、[秘密は、ホントに守る]、子供たちとそれは堅く約束しています。そして、[どんな事でも一緒に考えますよ]、大人と子供がパートナーとして、同じ目線で考えます。子供の気持ちを、徹底的に大事にします。説教や指示命令はしません。こういった趣旨が、子供たちにウケているのかなぁと思っています。

■気持ちに寄り添い、解決力の発芽を待つ

実際、子供達とどんなやり取りが交されているのか? 「チャイルドライン」のホームページには、「今までにこんなお電話がありました」という例が掲載されている。“4つの約束”の中に「秘密は守る」という項目があるので、プライバシーはもちろん分からない形になっているが、その中から、幾つかご紹介しよう。

相談事例(1)「授業中に意見を言って友達に笑われたらイヤだから、手を挙げられません」

――ホームページには回答までは掲載されていませんが、例えば徳丸さんがこの電話を受けたら、どういう風に応えますか?

徳丸: そうですね。マニュアルがあるわけではないんですけれども、私だったら、《子供たちがどういう状況にあるか》をまず想像します。子供たちがどういう気持ちでいるか、を忖度する(考える)ことから始まるんです。笑われたらイヤだ、と感じさせるクラスの状況があって、そこに(子供が)いるわけですね。ですから、「もうちょっと話を聞かせて」とか、「どういった感じなの?」「誰か、笑われたことがあるの?」と言うと、子供が「実はね、この間Aちゃんがこういう事を言って、笑う事じゃないのに、皆が笑ったんだ。私もAちゃんのようになりたくないから、しゃべりたくないんだ」と(言ったりします)。電話の受け手の方に状況が分かってくると、「そうなんだ…。笑われたら、ホントに悲しいよね。寂しいよね」と、笑われたら寂しいから手を挙げられないという《その子の気持ちに寄り添う》わけです。
そうすると、子供たちは「分かってくれた」と思うので、「この状況じゃいけない」「私が黙っているのも良くないし、皆も良くないので、私が○○ちゃんと相談して、笑うのをやめようかな。△△ちゃんに言おうかな」と、子供たちが考え始めるんです。
まず(子供たちと)一緒に考えていく姿勢。それによって、(子供たちの方から)答えを見つけ出すんです。それは本当に不思議です。結局、こちら側のリアクションとか聞き続けることによって、「笑われるのがイヤだ」と思っていることの《問題が整理される》んです。笑われることがイヤである原因は、実は、「皆の空気の中に、人を笑っちゃうようなところがあるのがいけないんだ」と、その子自身が分かったら、そこを解決する方に、気持ちが向いていくんですね。

――電話でやり取りすることで、子供たちの側に問題解決能力が身に付くみたいな…?

徳丸: そうだと思います。自分たちの自治というんですかね。主体性というか。

■「変える」救いでなく、「支える」救い

しかし、子供たちの自治では対応の仕様がない事例もある。

相談事例(2)「うちのお父さんは、お母さんを殴るんです。お母さんを守れないから、ツラい」

――これは、応えにくいでしょうね…。

徳丸: 彼女の辛さって、どこから来るかって想像すると、「自分が何もしてあげられない」という事ですよね。子供でいながら、両親の諍いを見ているのも辛いんだけど、もっと辛いのって、「自分の力が及ばない」というところです。そこを、「ホントに辛いよねぇ」と、じっくり聞いていく。辛さの中身が段々と詳らかになってくると、子供はちょっと自分が解放された気分になる。状況は変えられないですよね、こんなシビアな問題。私達もただ聞くだけで、状況は変えられない。けれども、子供たちが辛い状況にあっても、「私のことを分かってくれる大人がいた」―――これが、実は大事かなと。

状況を変えようが無い話なら、その状況に潰されないだけの精神面での支えをしていく、という姿勢だ。

■密着する大人ばかりで、疲れる子供たち

次はホームページからではなく、徳丸さんが最近ある雑誌で紹介した、女子高生からの電話。

相談事例(3)「私は成績優秀で、生徒会長をやってます。家ではお母さんに期待されていて、学校の先生も私のことを褒めまくる。でも、本当の私は違います。親や先生が思うほど、いい子でもありません。もう疲れた」

徳丸: この子、ホントに疲れてて、本音を言う所が欲しかったんだろうなぁと思います。「そうだよね、いつも良い子でいるって、ちょっとしんどいよねぇ」と、私だったらまず応えるのかなぁと。じゃあ、《良い子を強要しているのは誰か》っていうと、やっぱり親や先生、大人なんですよ。でもね、考えて下さい。親(が期待するの)は、当たり前なんですよ。私だって子供がいて、下村さんも子供さんがいらっしゃって、やっぱり子供には良い子であって欲しいと思うのが、親の感情ですよ。親なればこそ、当たり前です。先生も、自分が直に教えてるとなれば、100点取って欲しいですよ。もう当たり前の感情なんですよ。
 問題なのは、子供たちの周りに、《そういう大人しかいなくなった》ということです。だからやっぱり、「良い子でいなくちゃ」と思ってしまう。特に今の子供たちって人数が減ってるし、健気なので、「お母さんに迷惑かけたくない、裏切りたくない」って頑張っちゃうんですよ。だけど、ちょっと離れた大人―――おじいちゃん・おばあちゃんであったり、親戚のおじさん・おばさん、それから近所のおじさんとかお兄ちゃんとか。そんな人達なんかはね、この子がたとえ100点取ろうが生徒会長であろうが、あんまり関係ないんですよ。《いるだけというのを丸ごと認めてくれる存在》、これは私達が子供の頃って、当たり前にあったんです。今は、いないですよ。
 丸ごと受け止める、「存在しているだけでいい」というような眼差しを送る大人っていうのは、子供たちの育ちや心の安定に、凄く大事だったと思うんです。これはやっぱり、子供たちに今一番欠けてて、私達大人は「欠けたのだったら、何か(代わりのシステム)を 作らないといけないのかな」と。

昔は、利害関係の薄い大人が近くにいてくれたのに、今はいない。その代わりを務めるのが、「チャイルドライン」なのだと、徳丸さんは言う。

■“第3の大人”のスキルを養う

徳丸: 子供達の本音、例えばいじめられてるっていう深刻な話って、やっぱり親や先生には出来ない。だけど、ちょっと離れた大人だったら、ふっと本音を言える。「100点取ろうがいじめられていようが、あなたはあなただよ」って認めてくれる大人―――私達はそれを、“第3の大人”って言ってるんですけど、そういう眼差しを持った大人の存在っていうのは、子供達が生きて行く中で、やっぱり凄く大事なのかなぁと思いますね。

子供の世界は、大きく変わってきている。それに対応できない大人も多い。去年、いじめ自殺が相次いで報道された頃、「誰かに相談しよう」という原稿を棒読みした文部大臣もいた。教育行政のトップが、あそこまで子供の心に届かない喋り方をしている一方で、なぜチャイルドラインのスタッフ達は、これだけ対応できるのか?

徳丸: (電話に出るスタッフのことを)私達は「受け手」って呼ぶんですけれども、訓練が必要です。今、(このホットラインをやっている所が)全国に59団体あるんですけれども、その「受け手」の養成に3ヶ月から半年かけているんです。さっき言った“4つの約束”を守るとか、本能的にというか《共感するスキル》を勉強してもらうんです。
 頭で分かっちゃ、やっぱりダメなんですね。大人も《心で感じる》ような訓練、子供の状況がどうなっているかという学習、電話の受け方の実践などを繰り返しながら、「受け手」を養成して行くんです。それはやっぱり、大変な作業ですね。

全国33都道府県にある「チャイルドライン」は、一昨年の1年間に、59団体合計で122,436件の子供たちからの電話に対応した。普段の担当者達がその実績・キャリアをもとに、全国統一で今回の無料キャンペーンに臨むというわけだ。

■支援することがステイタス

イギリスでは、365日24時間、いつでも無料で「チャイルドライン」に電話が出来る。フリーダイヤルということは、受けている側が電話代を負担するわけで、年間予算も10数億円に上るという。そんな資金が、どこから出るのか?

徳丸: イギリスの「チャイルドライン」は、1986年に生まれたんです。その時の首相は、“鉄の女”と言われたサッチャーだったんですが、彼女が「チャイルドラインは、イギリスの“国宝”だ」と言ったんですよ。それで、急速に人権意識が高まったんです。
もともと「子供は社会の宝だ」ということを実践している国ですから、政府予算が大体2~3割付きます。そこに、ダイアナ基金などのいわゆる基金や、名だたる有名企業が資金援助しているんです。レシートの裏に「チャイルドライン」の電話番号が書いてあったり、公衆電話に貼ってあったりもします。「チャイルドラインを支援している」ということが、企業にとって1つのステイタスになっているんですね。日本もそうなると、いいですね。

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今日から5月11日まで1週間開設される日本の「チャイルドライン」の電話番号は、

       【0120-7-26266】(毎日午後3~9時)

語呂合わせは、「なぁ‐ふむ・ふむむ」。じっくり聞いてくれる大人が、電話の向こうで待っている。

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