『オールニートニッポン』緊急生放送「いじめ自殺を食い止めろ」

放送日:2006/11/18

先月末から、ニートや引きこもりの人達を対象とする専門の情報発信の場として、インターネット・ラジオ局「オールナイトニッポン」ならぬ『オールニートニッポン』が、放送を開始した。まだレギュラー番組もヨチヨチ歩きの局だが、今月3日深夜、いきなり特別番組にチャレンジした。タイトルは、「緊急生放送/いじめ自殺を食い止めろ」!
出演者は、いじめ自殺問題について切実な思いや体験を持っている人ばかりで、評論家的な空論は全く出ない、地に足のついた議論が展開された。

■私はこんな風にいじめられた

このコーナーにも何度か登場している、顔に大きなアザなどのある人達の団体、NPO『ユニークフェイス』の石井政之代表が語った、自らの少年時代の体験。
聴き手は、この特番の進行役、ノンフィクションライターの藤井誠二氏だ。

石井:
「お化け」とか、「気持ちが悪い」とか、言われることはよくあります。僕は男ですけど、女生徒から、ある種のゲテ者扱いみたいな視線を浴びるのは、日常的なことでした。それに慣れるのが結構大変でしたね。慣れざるを得ないというか。
藤井:
学校の中でもそうでしょうし、それから町や社会の中でも奇異な目で見られるとか…そういう事は、もう子供の頃から?
石井:
ええ、子供のときから(それが)普通ですから。通りすがりの綺麗な女の子に「いやあ、気持ち悪い顔してるなぁ。私があんな顔だったら自殺しちゃう」と、独り言のように大きな声で言われたこともありました。誰も見ていない場所で、そういう事を言って来る人がいるんです。
藤井:
今回ね、いじめられて子供達が亡くなっているわけだけれど、石井さんはそうやって、自分の顔の事でいじめられたり、酷い言葉を浴びせかけられてますよね。その時に、死のうと思ったり、ここから“死ぬ”っていう形で逃げ出したいということは考えなかった?
石井:
僕はたまたま無かった。それは、うちの両親が私を受け止めてくれていたんですね。緊急避難の場所が、家ですから、家に帰れば助かる。今は、そういう余裕の無い家庭がすごく多くなっていて、子供のことを、ゆっくり見る余裕の無い人が多いんじゃないかなと思います。

石井代表の場合は、ご両親の存在によって、追い詰められることから回避できた。かつていじめられる体験をして、それでも自殺を選ばず、今も生きている年長者達のこういった“脱出方法”を具体的に聞くことは、今現に苦しんでいる子達にとって、とても有意義だろう。
続いて、作家・雨宮処凛さんは、いじめ脱出体験談を次のように語った。

雨宮:
当時、一番酷かったのは、バレーボール部の部活でのいじめだったんです。下手だったので、すごく怒られて、それでいじめの対象になったみたいです。(部活を)辞めたかったんですけれど、報復が怖くて辞められなかったんですね。辞めたら(裏切り者とか言われて)もっと酷い目に遭うんじゃないかって。先生や親からの「部活を辞めたら、絶対にいけない」という縛りもすごくあったんです。ホントは部活なんか辞めても、全然いいものなのに。先生は「内申書に響く」とか「高校入試に差し支える」とか言うし。親も、意味の無い精神論で、「続ける事が尊い」みたいな事を言うので、すごくがんじがらめになってしまったんです。先生に相談しても何にもならないと分かっていたので、耐えて耐えて。自殺は…、今は生きてますけど、(当時は)無意識に、自転車で車道に突っ込んだり、川に飛び込もうとしたりして、すごく危なかったんです。そういう、死ぬような行動を無意識にやっている自分を自覚して、やばいと思って(部活を)辞めたんです。そしたら、(いじめは)止んだんですね。
■いろんなルートがあっていい

この雨宮さんの脱出方法は、いじめられているその閉鎖集団から思い切って脱けるという、一見とても単純なものだ。もちろん、「雨宮さんの場合はクラブだったから退部という道があった。いじめの場がクラスだったら脱けようがない」と思い詰めている人達がいるかもしれない。しかし、「そんなことはないんだよ」という方向に、議論は展開していく。
まずは、12年前、神奈川県津久井町でいじめを苦にして自殺した、中学2年生・平野洋君のお母さんが呼びかけた。

平野:
どうしてもいじめがあって苦しかったら、世間からちょっと外れてるのかもしれないけど、学校なんて行かなくたっていいって思うんです。生きてることが一番大事だから。「生きるためだったら、学校なんか行くことない」って、私は、今苦しんでる子に言いたいです。

続いて、かつて“ミスター文部省”と呼ばれ、「ゆとり教育」導入の旗振り役だった寺脇研氏が、具体的な出口の一つを提示した。

寺脇:
昔は「フリースクール」でもいいんだよって言ってたけど、今は「ホームスクール」っていうのがあるわけですよ。自分の家で、親が手伝ったりしながら、自学自習して行く道もある。だからって、それを「使え」という意味じゃないんだけど。「崖っぷちに来たから、もう落っこちちゃう(だけだ)よ」っていうんじゃなくて、「いざとなったらそういうものもあるよ」ってことで、また少し心の余裕が出来るかもしれない。そういう面も含めて、情報提供をするべきなんですよ。
藤井:
寺脇さんがおっしゃった事は、すごく大事な事だと思う。つまり、学校行かなくたって、大学検定受けられるわけでしょ? 前は、小・中学校つまり義務教育を終えないと大検受けられなかったけど、それが変わって今は、不登校とか問題になってきて、学校行かなくても大検受けられるようになった。
寺脇:
こういう風に制度が変わってから、まだ2〜3年しかたってないんですよ。だから、この事をもっと知らせて行かなきゃ。
藤井:
僕ね、その告知が足りないと思う。寺脇さん、ゆとり教育とかで叩かれてるけど(笑い)、本当はそういう大事な改革もやった人なんですよ。
寺脇:
皆が画一的に同じ所で同じ事やるんじゃなくて、いろんな道があって、要するに子供の《ルート》に“ゆとり”を作って行こうという、それがゆとり教育なんですよ! 皆が同じ満員電車に押し込まれて行くんじゃなくて。

「いろんな《ルート》があっていいんじゃないか」と力説していた寺脇研氏は、この生放送の1週間後(11月10日)、文部科学省を中途退職した。霞ヶ関の官僚という道を捨てて、自らも人生のいろんな《ルート》を探りに出たばかりだ。

■大人は、失敗体験や辛い過去を語れ

「一般の大人は、相次ぐいじめ自殺に対して何ができるのか」というテーマの部分では、藤井氏が、自殺した子供達の遺書を読んで感じることを問いかけ、これに武田さち子さんが応えた。武田さんは、『世界子ども通信「プラッサ」』の中で、「日本の子どもたち」というページを担当し、いじめ事件などについて膨大な事例を研究している。

藤井:
優しくて真面目で、自分がいじめられてる事を、迷惑かけるから親に言えない、という気持ちの子たちの遺書って、誰かを恨むというよりも、自分に対して責めるというか、自分の弱さを悔いる文面が、とても多い気がするんですけど…
武田:
私もそう思います。その土壌には、「いじめられるのは弱い人間だ」っていう、弱さを許さないこの社会があると思うんです。だから恥ずかしくて言えない。私がよくご両親にお願いするのは、「子供に成功例ばかり話さないで、失敗例を話して下さい」っていうことです。そうすれば子供も、「ああ、お父さんも、こういう所をくぐり抜けて来たんだ」って思える。それが成功例ばかり話していると、「僕には無理だ」って思ってしまって、そういうお父さんに対して、弱い自分を見せられなくなってしまうんです。(ご両親も)弱い自分を見せてあげて欲しいって(私は)言っています。

雨宮さんも、「自分がいじめられていた当時、周囲で《自らのいじめられた体験》を語ってくれる人が誰もいなかったのが辛かった」と振り返り、「大人は子供に、自分がいじめられた時のことも話そうよ」と呼びかけた。

雨宮:
大人でもいじめられた経験、先生も親もあるじゃないですか。それを子供に伝えられるといいな、と。「自分もそうだったから、あなたが人間失格だからいじめられたわけでも、何か駄目な所があるからいじめられたわけでもないんだ」と。皆経験があるのに、結構、大人もタブーがあって、中学時代にいじめられてたとか、言わないんですよ。すごく恥ずかしい事のように、「いやぁ、そんないじめっていう程じゃないんだけど…こういう事があったよ」って言って、話を聞いてみるとすごいいじめなんですね。大人自体もタブー視して、子供の頃のいじめ体験を隠してるから、今実際にいじめを受けてる人に、かなり厳しい状態を作っちゃってる。自分はそれを言いたいなと思います。
寺脇:
それは…、その通りだと思いますよ。 だから、私もね、昔、いじめとはちょっと違う理由だったけど、自殺を図ったことがある。自殺は、皆考えるんだけど、そこを乗り越えると、また良い事も一杯ある。現実に私は、その後何十年か楽しい事があって、生きて来た。
それから「援助交際はなぜいけないか」っていう話の時、私も忘れていたけど、そう言えば若い頃、おじさんに「5千円で食事しない?」と誘われたことがあった。今じゃ見る影も無いけど。(一同笑い)その時に、自分がどういう思いをしたか、どういう風に相手に答えたか、どうやって逃げたか、そういうの(封印された記憶)があるわけですよ。それはね、隠してるわけじゃなくて、嫌な経験だから何となく忘れちゃってるんですよ。なぜ思い出せるかというと、どうやったらこのメッセージを子供に伝えられるか、《一生懸命考える》わけです。「どうやったら『援助交際は良くない』って言えるのか」「どうやったら自殺は止められるのか」って、ずうっと考えていくと、「あ、そう言えば、自分もそういう事があった」って思い出す。
いじめについてもね、多分、親御さん達も悪意で黙ってる場合だけでもなくて、何か忘れてしまってるところもあるんだと思います。だから、「どうやったら子供達をいじめから救えるか」っていう風に考えると、「あ、そう言えば自分もこういうのがあった」っていうように、私みたいにカミングアウトできる。大人たちが皆その事を考えてみれば、親として、地域のおじさん・おばさんとして、いろんな助言が出来るんじゃないですか。

これを聞いて、私自身もよ〜く考えてみたら、自分が中学生時代、何度もいじめのターゲットになりかけては、スレスレのところで独自の方法をもって切り抜けていたのを思い出した。機会を見て、私も自分の子供達に、さりげなくその体験を話して聞かせようと思う。

インターネット・ラジオ局『オールニートニッポン』の通常の番組は、毎週金曜夜7〜9時に生放送中。ホームページにアクセスすれば、過去の放送も聴くことが出来る。まだ内容面では試行錯誤の段階だが、身の回りにニートや引きこもりの知り合いがいる方、ぜひ、「こんな市民メディアがあるよ」と教えてあげて欲しい。

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