『オーマイニュース』発進!(1)鳥越編集長に聞く

放送日:2006/08/26

このコーナーでも何度か紹介している、韓国のインターネット市民新聞『OhmyNews』の日本版『オーマイニュース』が、明後日(8月28日)からいよいよスタートする。これを機に、今回から3週連続で、同サイトやネット新聞全般の可能性などについて採り上げる。まずは、入門編として、『オーマイニュース』編集長の鳥越俊太郎さんのお話。

■《劇場型》から《運動会型》へ…責任ある参加
鳥越:
『オーマイニュース』は、皆が記者になれるという事を掲げています。登録さえすれば、誰でも市民記者になって原稿を書く事が出来ます。普通、新聞やテレビは、プロの研修を受けた記者が原稿を書くんですが、この『オーマイニュース』はアマチュアの市民記者が原稿を書くというのが大前提なんです。
今まで、日本の社会っていうのは《劇場型》で、政治にしても野球にしても何でもそうなんですが、どっちかっていうと受け身で、自分は参加しないで人がやっているのを見るのが好きだという国民、文化だったんです。これを“参加する事が正しい”、つまりメディアの世界も運動会のように、参加して楽しいという風に変えたいな、というのが僕の気持ちで、“《劇場型》から《運動会型》へ”、“責任ある参加”というのがキャッチフレーズです。
――
“責任”という部分をどうやって実現して行くか、ですね?
鳥越:
ええ、これは、難しいですね。実名を出さなくてもきちんと登録をしますから、どこの誰が何を書いているのか編集部では把握しています。たとえば自分が所属している会社や役所などの内部告発的な事を書くと、自分に不利な事が降りかかって来る可能性もあるわけです。ですから、責任を持って内部告発をするのは大変勇気がいります。でも、日本の社会もそういう風に変わって行かないと駄目なんじゃないかな、と僕は前々から思っていました。実際今の時点で、1000人近くの方々が市民記者に登録しているんです。公務員、サラリーマン、医者などいろんな職業の人が入って来ていますし、年代も20代から40代が中心で、地域的にも多様性があります。プロの情報に関わっている人間が予想もしなかったような情報が、そこから出て来ます。自分で登録をしている以上、(その情報が)間違っていたら大変な事になるわけで、そこが最低限「責任がある」という事になると思うんですね。
――
市民記者の方々は、悪意が無くても“裏を取る”という習慣がないですからね…。
鳥越:
思い込みや噂で、さも本当の事かのように書いてくる場合もあります。その時に編集部が、「ちょっと待てよ、これは大丈夫かな?」っていう勘を働かせる事が出来ないと、名誉毀損があちこちでたくさん発生してしまいますから、大変な事になります。
――
編集部には鳥越さんだけじゃなくて、いろいろなプロの方が関わっているんですか?
鳥越:
最終的に16人程が関わっています。幾つかの新聞や通信社の経験を積んだ人や、雑誌をやっていた人もいます。一番若いのは、僕が関西大学で教えていた時の教え子で、未経験ですが彼女が一番張り切って頑張っています。他は皆経験者なので、文章のチェックも出来ます。一番大事なのは、やはり事実確認ですよね。原稿が来た時に、「これは本当かな?大丈夫かな?」という直感を大事にして、「これはちょっと、裏を取ろうよ」と言えるかどうかが、一番大事な所ですね。

つまり、市民記者がメールなどで送って来る記事を、プロの編集部の人達が最終的に目を通してチェックし、それからサイトに載せるのだ。韓国でたった4人で『OhmyNews』を創設した呉連鎬(オ・ヨンホ)さんも、「プロが市民記者とうまく組んで、内容についても磨くことで、機能している」のだと言っていた。

■自分の体験に基づいて“双方向発信”を
――
市民記者の方々は、どういう事を「記事にしたい」「投稿したい」と思っているんですか?
鳥越:
“開店準備ブログ”というのが一応アップされ毎日更新されていて、既に市民記者の記事が出ています。それを見ると、これまでは新聞を読んだりテレビを見たり受け身だったんですけど、「自分達が表現してみたい、発信してみたい」という気持ちを持っている人は、意外に多いんですね。無責任な形で、匿名で他人の揚げ足を取ったり、非難したり誹謗中傷したりするのも1つの快感で、そういう書き込みが(ネット上で)大繁盛しているのは、僕は分かるんです。決して褒められた事だとは言いたくないんですが、それを完全否定する気もありません。それはそれで、やったらいい。
『オーマイニュース』にはそうじゃなくて、日本の今の政治や医療制度、税金の使い方や市役所のやり方など、身の周りにあるいろいろな事について、「自分はここがおかしいと思う」「こうした方がいいと思う」という事を体験に基づいて書いて欲しい。皆も、そういう気持ちのようですよ。戦争を知る世代が今、年々少なくなっていますが、「過去の記憶みたいなものをきちんと残しておきたい。戦争について書き残しておきたい」という高齢者の方もいらっしゃいます。

こういうスタイルのインターネット市民新聞と言うと、日本だと元朝日新聞編集委員の竹内謙さんが始めた『JANJAN』や、ホリエモンのお声がかりで始まった『livedoorニュース』などがある。

――
『JANJAN』や『livedoorニュース』とは、どう違うんですか?
鳥越:
基本的には同じだと思います。“市民記者”や“パブリックジャーナリスト”など、言い方や表現はいろいろ違いますが、これまでの新聞やテレビ・雑誌で仕事をしたことがない、プロではない人が発信する、つまりインターネットの持つ特性である“双方向発信”というものに加わりたいという点では、同じだと思っています。ただ、こう言うと『JANJAN』に怒られるかもしれないけれど、僕らはかなり本格的にシステムを作って、大きく広げて市民記者募集をしました。最終的には、市民記者の登録者数は5万というレベルでないと駄目だと、僕は思っています。

※注…『JANJAN』の市民記者登録数は、現在3600人。

■「信じる」ことで、始めよう!

市民メディア応援団としての私が気になっているのは、本家である韓国の『OhmyNews』は最初の勢いがなくなり、アクセス数も落ちて来ていることだ。中には、「市民メディアなんて、最初の珍しがる時期が終われば、限界が来るんだ」という声もあるようだ。

――
そういう中での、『オーマイニュース』日本版の船出をどう思いますか?
鳥越:
韓国の場合には、特殊な事情があったんです。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、意外性のある大統領です。当選するとは思えなかった人が、旧来の軍事独裁政権時代から続いていたメディアと手を切り、インターネットも手伝って大統領になったわけです。その過程で、盧武鉉と手を組む形で『OhmyNews』も広がって行ったんですね。今は、大統領の人気がちょっと落ちているという中で、『OhmyNews』の人気も下降気味なのは、(一連の)流れの中で起きている事です。
僕らは、日本の政治状況と全く関係の無い所で始めています。「日本人も、まともに自分の実名もしくは登録をしてきちんとした発言をする国民である」「そういう人達が必ず何%かいる」と、僕は信じています。そういった意味で、“双方向発信”のインターネット新聞を、何とか日本に根付かせたいと考えています。
先の事ですから分かりませんが、僕らが「日本で実現できる」と信じないと、スタート出来ません。僕は、編集部員にいつもこう言っています―――「信じる事が大事なんだ。出来ると信じよう」「日本人の“良質の発信をしよう、自分で表現をし、参加しよう”という気持ちに賭けよう」「そう信じなかったら、やっても意味が無い」―――と。

まさに、我が意を得たり、の境地だ。

――
今日この放送を聴いて、『オーマイニュース』に興味を持った方に、直接呼びかけを…。
鳥越:
『オーマイニュース』というのが8月28日に創刊されます。そのサイトを開いて、市民登録という所をクリックして、市民記者に登録して下さい。そうすれば貴方も、今日からすぐ記者になって記事が書けます。是非、記者になって下さい。
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