北朝鮮ミサイル問題(2) 在日韓国人の若者達に聞く

放送日:2006/08/12

先月(7月)5日の北朝鮮ミサイル発射を、在日韓国人の人達は、どう受け止めているのか。年配の“エラい人”でなく若い“フツーの人”の意見を求めて、東京在住の3人の大学生に話を聞いた。

■個人が撃ったわけじゃない

まずは、今回の事件を受けて、在日北朝鮮人の人達のことをどう考えているのか。

世和(セファ)君: 個人として付き合いがあって、この人はどういう人だっていうのを知っていれば、国とは切り離して考えられる。少なくとも、僕はそう考えます。個人レベルで考えると、組織なんて全然関係ないんですよね。そういう風に見ると今回の件も全然個人にはつながりがないもので、その個人がミサイル撃ったわけでもないですし、その人個人が悪いわけでもないですから。なので本国がボンボン撃っていたとしても、「難儀やな、おまえも」って(笑)。「本国が勝手なことをして、本当に苦労するね」って感じで考えますね。本当に大変だな、と同情するくらい。

――それは北系の在日の人に対して?

世和:
そうですね。今回、北朝鮮がミサイルを撃ったと(いうのは)、北朝鮮(本国政府)が北朝鮮系の在日の人達のことを考えていないな、という風に感じました。在日の人は国のことを、愛国心をもって考えていると思うんですけど。

彼らは結構、在日北朝鮮人の人達に同情的だ。「個人がミサイル撃ったわけじゃない」と、国の問題と個人の問題をキッチリと分けている。しかし、そう簡単には切り離しきれない立場の人達もいる。

■「一緒くたにされては困る」と親の世代

在日コリアン社会を二分する「民団」(在日朝鮮人居留民団=韓国系)と「総連」(在日本朝鮮人総聯合会=北朝鮮系)が、ミサイル発射直後、両団体の和解合意を白紙に戻した事についても、彼らに聞いてみた。先ほどの世和君に、妹の民和さんが加わる。

――和解合意白紙の影響は、出るかもしれない?

世和:
そうですね、親の代とかおじいちゃんの代には出そうな気がします。1世・2世の代はやはり、昔というのを知っているので、それを思い返してしまう人もいるかもしれないですね。昔は(「民団」と「総連」が)すごい対立していたと聞いてたんですよ。うちのおじいちゃんなんかはいつ殴り込みが来ても大丈夫なようにと、部屋に武器を隠していたという噂も親父から聞いたことがあります。うちのおじいちゃんが和歌山の「民団」の団長をちょっとやっていたことがあって、そのときにちょっといざこざがあった時は、殴り込みがあるという話を聞いたことがあります。そういう話からいうと、親の世代とかおじいちゃんの世代というのはすごい対立感情というのがあるとは思うんですけど。
民和(ミンファ)さん: 和歌山に住んでいるお父さんはいろいろと思うことがあるみたいです。田舎に住んでいるから、“一在日の叫び”っていうのをなかなか表に出すことができなくて、いつも子供達に電話をかけてきて語るわけですよ。
世和:
1時間も2時間もね。
民和:
だから2世・1世の思いっていうのはすごくあるんだな、と。
世和:
具体的には何て言ってた?
民和:
「総連と民団を一緒くたにされては困る」って。

――それは、このミサイル事件を受けて、なおさら?

民和:
そうですね。

――世代によってミサイルの受け止め方が違うなと思いました?

民和:
ミサイルというか、情勢を敏感に感じ取っているというか、すごく注目しているっていう風には感じます。
■就職活動に影響が心配

では、この「民団」vs「総連」という問題に関して、彼ら自身の世代は、本当に全然“わだかまり”は無いのか? 更に突っ込んで聞くと、少し違った要素が出てきた。今度は、世和・民和兄妹に、友達の潤君も加わる。

世和:
僕は関心の無い人なんですよ。なので、上のする事というのは全然本当に知らなくて。今「(両団体和解)白紙撤回」って言ってて、まあ、ミサイル撃ったらそれぐらいにはなるだろうな、と。
潤(ユン)君: 在日同士も在日の問題に対して関心がある人、無い人、いると思うんです。関心が無い人にとってはもちろん今回の一連の流れは、言葉は横柄かも知れませんが、“上だけの事”で済んでしまって、現状は変わらないと思います。
世和:
上の方でいろいろやっていても、僕には関係ないですね。今まで通り、同じ様に接するだけですし。

――北の友達とも?

世和:
そうですね、はい。

――お兄さんの意見を聞いてどうですか?

民和:
個人の間では何も問題なく付き合えていても、組織となった時にやはり事情が違ってくるのかな、という風には思いますね。やはり「総連」はまだ、北朝鮮とも関わりがあって、和解という形で一つにしてしまうことによって、日本社会における「民団」の印象がかなり変わってしまうのかなと。私は学生なんですけれど、自分が学生時代に「民団の学生会というところで一生懸命やってきました」と、就職活動でもアピールしたんですけれど、それを例えば来年アピールしたら、「民団」と「総連」のイメージが一緒になってしまって、すごく自分のアピールがマイナスになってしまう。だから、学生にとっては就職にも影響が出るんじゃないかな、という不安はありました。

《ミサイル=北朝鮮=「総連」》というイメージの連鎖が、《=「民団」=在日コリアン》と一括りに見られることがある彼らとしては、自分達の就職活動まで心配せざるを得ない、というわけだ。しかしこれは、彼らの心ではなく、日本社会の目の問題である。

■自転車にイタズラされても…

ミサイル問題で刺激された、日本社会の北朝鮮への反発を、一緒くたに被ることになりかねない彼ら在日韓国人たちは、いわば、“とばっちり”を食う立場にあるとも言えそうだが、彼らはそうは言わない。

潤:
このニュースを聞いた日本人の方がどういう印象を抱くのかなというのが、やはり…。日本人の方が在日に対して持っているイメージというのが、南と北とで分かれているかどうかも定かではないところですし、要は誤解も多いと思うんですね。
世和:
それは感じますね。(北朝鮮が)前回ミサイルを飛ばした時、うちの弟が中学校で自転車の鍵を抜かれて捨てられていたりとか。うちは韓国籍なんですけど。
民和:
弟の自転車にイタズラされていて、「北朝鮮の隠し子」とか、そういうのを書かれていたりしたので。

――そういう時に自衛として、「うちは北系ではありません」みたいなことをアピールしたくなっちゃうことはありますか?

世和:
僕は、無いです。別に区別しようとは思わないですし、そういう事を言って「見逃してくれよ」と言うつもりもないですし。

――自分がそういう態度で振舞うことに対する心理的抵抗みたいな?

世和:
「北と南は違うんだ」という風に主張する事ですか? “抵抗”という形ではないんですけど、ちょっと若干“嫌気”は差しますね。

「自分は北系ではない」と言ってその場を何とかしようとするのはイヤだ、という感覚。それは、南北問題を考えるとき、日本人には“体感”できない(“想像”することしかできない)、根底にある《同胞意識》というものなのかもしれない。

■祖国と母国

「北の話だから迷惑だ」どころか逆に、自らの問題として、同胞として、日本人社会に《説明》して行かなければならない、とまで彼らは思っていると言う。

潤:
やはり北がミサイルを撃っているのは、外交上のカードであるという意味合いが強いと在日は認識していると思います。それを本当に日本に撃ち込もうとは考えていないのも分かっています。ただ、それを「我々在日社会がどうやって説明をするのか?」が、我々の持っている課題だと思いますし、どうしたらいいのか迷っているところでもあります。

――説明して行かなきゃ、という思いは《自分の問題》なんですか? 「北系の(「総連」系の)人たちが説明してよ、こっちは迷惑だよ」っていうんじゃなくて、「一緒に説明して行こう」という感覚?

潤:
そうすね。「総連」系の人たちの方が当事者ではあるとは思うんですけども、だからといって私と関係ない話かと言われると、そうではないと思うんですね。ぜひ《私の問題》として考えたいと思います。

――北系も韓国系もなく?

民和:
そうですね。在日というか、日本社会全体が一体になって解決すべき問題の一つかなと思います。やはり日本に住んでいる在日は、今後も日本に住み続ける方が多いと思いますので、《祖国》が朝鮮半島にあったとしても、やはり《母国》は日本だと思うんですね。

文字の通り、“祖”父母の“国”は朝鮮半島でも、“母”なる“国”は日本だと言い切る、彼ら在日3世。「日本語が上手だね」などと、未だにトンチンカンな事を言ったりする無知な日本社会は、彼らの感覚を、もっと理解する努力をせねばならない。
「8・15に平和を誓おう」とか、逆に「北がミサイルを飛ばして来るなら、北の基地を先に叩かなきゃダメだ!」などと、実体を伴わない空っぽの言葉を口走るのではなく、異なる立場の同世代と実際に対話する機会を増やすなど、《現在進行形の平和》の中身を詰めていきたい。

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