子供を電子映像メディアから離そう!
元NHKマン、明日東京でアピール

放送日:2006/05/27

NHKの元報道局次長・清川輝基氏(眼のツケドコロ・市民記者番号No.26)は今、「子供を電子映像メディア漬けにするな!」という講演で各地を巡回している。35年間、テレビ局という映像メディアの中心で勤め上げた人が、今、何を思ってこんな警告を発しているのだろうか? 明日の東京での講演会を前に、ご本人にお話を伺った。

■子供たちの肉体が変化してゆく

――「TVの見過ぎは良くない」というのは誰しも漠然とわかっている事ですが、それをメディア一筋で生きて来られた清川さんが、わざわざ講演行脚までして訴えられるようになったのは、どういう事からなんですか?

清川:
私は、(子供達が)生き生きと育つために何が必要かという活動を、テレビで仕事をするのと同じ位の年数をかけて、ずっと続けてきました。日本の子供達をこの40年間、ずっと見続けてきたんですが、子供達は年々、どんどん変化しているんですね。たとえばキャンプでは、明らかに目の輝きや体の動かし方が鈍ってきたし、言葉によるコミュニケーション能力も落ちてきているんです。
最初は、何が原因かよく分かりませんでしたが、1978年に、NHK特集の取材で全国調査を行ったんです。すると、子供達の体、コミュニケーション能力、そして心が、警告を発せざるを得ないほど変化していることが分かったんです。その背景には、子供達が室内にいる時間が年々多くなっている、つまり外で友達と元気よく駆け回ったり、セミや魚を採ったり、泥んこになったりするという時間が少なくなっているという事があったんです。私は、それを“お勉強”や“お稽古事”の時間が増えたせいだと予想していたんですが、調べてみるとそれが違いました。テレビ、ビデオ、テレビゲーム、パソコンなどの電子映像への接触時間が圧倒的に増えてきているんです。すべて室内で、しかも一人で、言葉も交わさずに体も動かさずにいる時間が圧倒的に増えてきた事と、子供たちのいろいろな変化が物の見事に符合するという事が分かったんです。
私は、テレビ局という所にいたので、テレビというものの特性もよく知っています。テレビは極めて魅力的で、人を惹きつける力を持っています。当然、子供も惹きつけられていくわけですね。しかし、《子ども期》というのは、外で駆け回って体を育てたり、友達と語り合って言葉の力を育てたり、平面画面を見ているだけでは絶対に育たない“立体視力”を、立体空間を駆け回って育てたりする時間が必要なんです。
■世界一長い、メディア接触
清川:
大人やお年を召された方がテレビをどれだけご覧になるかは、ご自分で判断されればいいわけですが、子供の場合は、(テレビが)魅力的であればあるほど惹かれていくから、無制限になってしまうんです。調べてみると現実に、子供達の接触時間は滅茶苦茶長くなっているんです。

――子供達は、1日にどれ位、メディアに接触しているんですか?

清川:
文部科学省が出している「初等教育資料」という月刊誌の去年(2005年)の4月号で、ある課長が、「日本の子供達は、メディアへの接触が世界一長い」という冒頭論文を書いているんです。、私が代表理事をしているNPO「子どもとメディア」は、文科省から助成金を受けて毎年様々な実態調査を行っているんですが、一昨年の秋の実態調査によれば、平日のメディア接触時間が4時間以上の子は、小学4・5・6年生で49.3%、中学生で54.4%、高校生で46.7%となっています。日本の子供達は年間365日のうち、200日は学校へ行きますが、あとの165日は休日です。平日に4時間という、これらの子供達のメディアへの接触時間は、休日には2倍以上に増えるんです。中には、平日はスポーツ少年団と学校があってたった2時間15分しか接触していないのに、休日には13時間15分に増えるという小学校6年生のデータもあります。この高知県の子供は、朝起きたら、自分の部屋でリモコンでテレビをつけるんです。テレビを見たり、ゲームをしたり、ネットでチャットをしたり、携帯でメールを打ったりするんですが、寝るまでの間、唯一メディア接触していないのは、入浴中の15分間だけだというんです。また、岡山県備前市では、休日21時間接触しているという中学生もいました。寝ていないんです。ある種の中毒になるわけですね。ネットゲームやチャットというのは、ハマると抜けられないんです。親が寝てから起きて、朝までしたりするわけです。
さらに、平日6時間以上メディアに接触している小学生も26.0%、中学生で24.2%です。小・中学生の4分の1がそういう接触の仕方をしているんです。休日になれば、これは確実に15時間レベルになって行きます。
■人類初の《人体実験》!?

そういう日本の子供達の状態を、清川氏は著書等で「人類初の《人体実験》」と表現している。

清川:
小中学生・高校生のメディア接触が世界一長いというだけでなく、0歳、1歳という、極めて早い時期から電子映像漬けにされているという点でも、《人体実験》です。私達の調査では、平均でも7割、テレビ好きな家庭では9割を超える若い親たちが、そういう《人体実験》を行っているんです。これは母親が赤ちゃんに授乳をしているときに、テレビを見たり携帯でメールを打ったりして、非常に強い音や光の刺激を赤ちゃんの脳に浴びせているわけです。赤ちゃんがおっぱいをくわえながらお母さんの目を見ているのに、お母さんの目は赤ちゃんの目線を拒絶して画面を見てしまっているんです。こういう人生の始まり方というのは、人類の歴史の中で日本の子供達が初めて経験しているんです。

――私達が子供の頃には、見るテレビも少なかったですよね。

清川:
子供が見る番組も少なかったし、テレビゲームやパソコンなんてものも無かったですよね。そうすると、現実体験の方が先なんですよ。カエルを殺してみたり、バッタを捕まえてみたり、あるいは外で駆け回って怪我をして出血や痛みの体験の方が先で、その後で血が出たり手首が飛ぶ映像を見ていたんです。

――つまり先に現実の体験をしてからバーチャルの体験があったというわけですよね?

清川:
そうです。だから、映像を見ても自分には既に痛みや現実の体験があるから、「ああっ!」と思うわけです。ところが、0歳、1歳からそういう映像体験が先行して始まってしまうと、映像を見ても痛みの感覚が全然伴わないんですね。だから、いろいろな事件が起こるんですよ。勉強しろと言った父親の首に包丁を刺してみたり、母親にタリウムという劇薬を飲ませて死に行く様をブログ化したりする。これまで無かったような事件を起こす中学生・高校生というのは、子育てが大きく変わった1990年代に生まれた子供達というわけです。

――特異な子供の事件が起きると、その背景としてそういった事がよく語られますが、特異でも何でもない、一般の子供達までがおかしくなっている具体例としては?

清川:
はい。NHKの番組でも放送したんですが、佐世保で小学校6年生の女の子がクラスメイトを“消去”してしまった事件の直後に、長崎市のある小学校6年生のクラス(33人)で「1度死んだ命が再びよみがえる事があると思うか?」という質問をしたら、28人の子供が「生き返る事があると思う」方に手を挙げたんです。85%の子供が…

――リセットボタンがあると思っている?

清川:
そうです。リセットすればよみがえると思っているんです。テレビで、あるチャンネルではのた打ち回って(苦しんで)いた俳優が、リモコンのワンタッチで切り替えれば他のチャンネルでは元気に食事している、という様を長時間見てきた子供達は、生命感覚がそういう風になってしまうんですね。これは、今まで無かった事ですよ。

■地域ぐるみでテレビを消して、外遊び

――でも、世の親たちもそういう“危険可能性”は重々承知していて、積極的に見せている親は少ないのではないでしょうか? 親が忙しかったり、子供が勝手に遊べる野山が無かったりして、他の選択肢が用意できず、“仕方なく”「テレビかゲームをしていなさい」という現実があるように思うのですが…。

清川:
確かにそれはあると思います。外でいろいろな事件が起きているから、今の親は子供の安全に対して神経質になっています。子供の年齢が低ければ、家の中で遊んだりテレビを見ていてくれた方が、親も家事が出来て楽だという事もあります。
けれども、《子ども期》という、体を育て、言葉の力を育て、視力を育て、自律神経を育てる掛け替えの無い時期に室内にこもっていると、明らかに発達上の問題が起こります。これはデータでも証明されています。子供達が安心して裸足で駆け回れる、土や火や水に触れられる場所をどのように確保するか、これは1人の親ではもう無理です。文科省は、子供が裸足で駆け回れるように、小中学校のグランドを生芝に変える事に助成金を出し始めています。監視員ではなく、一緒に遊びながらリードしてくれるプレーリーダーのいる、イギリスや世田谷の冒険遊び場のような場所を意識的に確保することが非常に大事です。これは全国にも広がりつつあります。

――各地で「ノーメディア・デー」が始まっているそうですね。

清川:
はい、今年から文科省が「早寝、早起き、朝御飯」という大運動を始めましたが、それを妨げているのは夜のメディア接触なので、私はそれに加えて「テレビを消して、外遊び」「ゲームをやめて、外遊び」と言っています。それに共鳴して下さる方々が、数年前から全国各地で、市町村・学校・幼稚園・保育所ぐるみでの「ノーメディア・デー」の取組みを始めています。これは目に見えて(効果があり)、幼児だと3日でテレビの事を言わなくなります。外遊びが増えるから、夕食後子供は起きていられず早寝をします。早寝をすると早起きになります。すると、母親の口から「早く、早く」という言葉が消えます。テレビやゲームをやめると、子供は外遊びをしたり、親と話したり、絵本を読んだり、勉強したりするようになります。親から見ると、悪い事が何も起こらなくなるわけです。なにも、テレビやゲームを、毎日やめる必要はないんです。「食事のときだけはテレビを見るのをやめよう」とか、「見たいものを見終わったらテレビを消そう」という約束を家族でするだけで、家族の会話が増え、子供の読書量が増えるんです。

■当コーナー愛聴者への特別サービス

明日(5月28日)、東京の北千住駅(JR、東武線、地下鉄、)から徒歩15分のところにある、足立区生涯学習センター「学びピア21」4階講堂で、午後1時から5時まで、『子どもの脳を育てる』という清川氏の講演会がある。会費は一般2000円だが、『眼のツケドコロ』を聴いて来た、と告げれば無料になる!

――子供達を外で遊ばせるには、まず親が遊ぶ事も必要ですよね。

清川:
だから明日の講演会では、みんなでおにぎりを作るという時間もあります。今、若い父親は帰宅後、食事の時にパソコンに向かってしまうんです。これは若い親にある特徴ですが、非常に危険です。まず親のメディア中毒から直して行かないといけませんね。
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