ユニークフェイスの自作映画、ついに完成!

放送日:2006/03/04

顔にアザや傷がある方たちの自助グループであるNPO法人『ユニークフェイス』が、自主映画制作のプロジェクトに着手した、という話を去年4月にこのコーナーで紹介した。その作品『ユニークフェイス・ライフ』がひとまず第1次完成にこぎつけ、上映会が始まっている。今回はこの映画の制作スタッフの一員として、撮影・出演・編集・ナレーターと大活躍した八木ヶ谷美代子(眼のツケドコロ・市民記者番号No.23)さんにお話を伺う。

―八木ヶ谷さんと、『ユニークフェイス』の関係は?

八木ヶ谷: 1999年に読売新聞で『ユニークフェイス』という任意団体があることを知ったんです。それで問合せをして、入会して正会員になりました。

『ユニークフェイス』には、当事者の人以外にも、“平凡フェイス”の非当事者による賛助会員など、いくつかの参加の仕組みが用意されている。八木ヶ谷さんは正会員で、今度の映画製作プロジェクトのメンバーに加わった。

―ビデオ撮影などの経験は、あったんですか?

八木ヶ谷: 私、主婦ですからほとんど家におりますし、子どもがいるので発表会や運動会などで家庭用のビデオを使う程度で、編集もしたことはありませんでした。

ほとんど初心者だった八木ヶ谷さんは、『OurPlanet-TV』のワークショップで勉強して、今回のプロジェクトに臨んだ。

■自分たちだから撮れること

映画の主人公は、主に3人の『ユニークフェイス』正会員で、それぞれ、顔や身体に大きなアザなどがあり、それがこれまでの人生や今の日常生活にどう影響しているか、をインタビュー中心に淡々と語っていく構成になっている。自宅の居間、仕事場、『ユニークフェイス』の事務所、美容院などが撮影の舞台だ。

八木ヶ谷: 今回、当事者のお母さん方にもお話を伺いました。お母さん方でこういうことを顔を出して、名前を出して語って下さる方というのは、なかなか居らっしゃらないんですけど、やはり皆さんの思いは、「もし自分がこの先亡くなったら、いったい我が子はどうなるんだろうか?」という心配でした。仕事の事とか、結婚の事とか、ごくごく普通の親がする心配を、当事者の親も持っているんだなということが、良く分かりました。

ただ顔の表面にアザがあるというだけで、結婚や就職で大変な苦労に直面させている社会の現実を、映画は、母親同士の心配事の茶飲み話という形で自然にあぶり出している。

『ユニークフェイス』に限らず、NPOや市民グループは、報道機関から取材を受けた際、「自分たちの主張を十分に伝えていない」と、その報道内容に満足できないことも少なくない。ならば、「自分が伝えたいことは自分で表現しよう」というわけで、この映画制作がスタートした。プロ・メディアとは違う市民メディアの台頭、という時代の流れを象徴する取組みだ。

―自分達で撮ってみて、満足度は? プロとは違うものが作れましたか?

八木ヶ谷: まず、当事者とその家族の話がじっくり聞けた事。私自身が今できるところは、ここまでです。

―出演された当事者本人だけじゃなくて、ご家族にも、映画製作の目的を説明したり、意思疎通を図ったりして、信頼を得るのは、かなり大変な作業だったんじゃないですか?

八木ヶ谷: そうですね。確かにお母さんにとっては、いろんな立場もありますから、なかなかOKが出ませんでした。何度も電話をしたり、訪ねて行ったりして、一緒にお茶を飲んだりということを繰り返して、「出てもいい」と言ってもらいましたので、とても良かったと思います。

やはり「出て下さい」という信頼関係づくりの時に、製作している側も「ユニークフェイス」の当事者だということは、どこかから急に「○○テレビです」と言って取材に来るのとは違って、決定的な信頼感の基となっただろう。

■観客より、まず出演者との対話

『ユニークフェイス』の石井代表は、「この会の活動の中で、これまでいろんな会員の本音を聞いてきたが、そこにはプライバシーの問題があって、うかつに外部の報道機関の人には見せられなかった。これを内部の手でビデオにして、一般向けにどこまで公開できるか、チャレンジしたい」と、去年4月にこのコーナーで語っていた。

―ぎりぎりの中の部分まで伝えたいっていう、このチャレンジは達成できましたか?

八木ヶ谷: まだまだ問題は山積みなんですけど、『ユニークフェイス』の内部でも意見は割れていまして、今後、何年先になるか分かりませんが、ずっと、そういったことは話し合っていきたいと思います。

私もアドバイザーとして、映画製作スタッフのメーリングリストや打ち合わせに参加させてもらっていて感じたのは、本当に、作っていく《プロセス》が大変だった、ということだ。「本音を語り出すまでのゆっくりとした時間の流れも含めて表現したい」と、石井代表は言っていたが、映画ではそこを表現しようとして、スタッフ会議の議論の様子などもそのまま見せている。それでも、まだまだあの苦労の凄さは表現しきれていない、と思う。

―プロセスでは、どの辺に一番苦労しました?

八木ヶ谷: 今回、石井代表の他に、男性と女性が1人ずつ出演して下さってるんですが、どちらの方とも私は映画製作前から知り合いなんですね。だから、撮影が終わった後も連絡を取り合っていて、出来上がったものを観ていただいたんですけど、観た後に、「やっぱり、ここはちょっとカットして欲しい」とか、その度ごとにやはり気持ちが揺らぐんです。その時に、こちらがどこまで編集で使うか・使わないか、そういったこともずっと話し合ってきました。

―当事者同士が撮る、ということでそのあたりの抵抗感を取り除けるかと思ったけど、そうでもなかった。それはどうしてなんでしょうね。撮られる時には、一度は覚悟を決めるわけじゃないですか。「もう皆に知ってもらおう」と。だけど、実際に映像になってしまうと、そこで心の揺れが出て来てしまう。結局、上映直前まで、出演者との対話や編集のやり直しが続いてましたよね。その中で、やっぱりかなり削ったんですか?

八木ヶ谷: はい。私も女性ですからよく分かるんですけど、やはり客観的に自分の顔を映像で観ると、かなりショッキングなんですね。やっぱり、「見せたくない」っていう女性もいますし、でも私達としては、「訴えたいことがある、だからここは削れない」ということの繰り返しでした。

これは、『ユニークフェイス』という団体が発足当初から抱えているジレンマが、映画づくりという作業で象徴的に現れた、という感じがする。「自分達の状況を知って欲しい」という気持ちがある一方で、「そんなに視線を向けないで」という、まったく相反する2つの思いがあるのだ。
このジレンマは、女性だけが抱えるものではない。映画で1人目に登場する若い男性と、私は1回目の上映会の時、たまたま隣の席に座ったのだが、彼もまた、自分の顔が画面にバーンと出てくると、やはりずっと目を伏せて、音だけを聴いていた。

―このジレンマは、この先どうなっていくんでしょう?つまり、この映画の特徴の1つとして、上映会をしながらさらに皆の意見を訊いて、改良を加えていこう、成長していこうとしてますよね。まだ上映会は始まったばかりですけど、そうやって、より多くの人の目に触れていく中で、また2度も3度も、今回の映画の出演者の気持ちが揺れてしまうということもあるんじゃないですか?

八木ヶ谷: ありますね、はい。きっとあると思います。

―その時はどうするんですか? また作り直す?

八木ヶ谷: はい。それは、編集を重ねていきたいです。

普通の映画ならば、「作ったらおしまい」だが、この作品は、作ったことによる影響までも、後からケアしていくということだ。《観る人》向けではなく、それ以上に《出ている人》のことを考えて作っている。その点だけでも、この映画はユニークだと言える。

■アンケートに散りばめられたキーワード

実際に、上映会でこの作品を観た人達はどんな感想を抱いたのか、アンケートから一部、ご紹介する。まず、これはきっと多くの人が感じているんだろうなという、出演女性についての感想。

(アンケートより)
・はじめ奥中さんの姿にドキッとしましたが、後で「美人!文句なくきれい!」と思った。この変化を多くの人に見て欲しいと思いました。(女性 会員)

これは私も100%同感だ。私は彼女のことを以前から知っているから、画面に初めて登場したシーンでもドキッとはしなかったが、それでも、観ているうちに「彼女、本当に可愛いなあ」と認識を新たにしていく不思議な感覚を味わった。1つ垣根が解けていく瞬間――なんとも言えない、映像の力だ。

八木ヶ谷: 本当に、この映画を観ていただかないと、伝わらないんですが。

(アンケートより)
・私自身が、ユニークフェイスな方々に対する《接し方》に関して、入り口に立てたように思う。(女性 一般)

・自らがメディアとなっていく当事者たちの《勇気》に心から敬意を表したい。その勇気に触発されて、これからもっと色々な人達が自分から発信していけるようになると思う。それが社会に対してポジティブなイメージを拡げていく最大のパワーになると思う。(女性 賛助会員)

・自分の経験してきた事、「こんな事がつらかった」など、私が今まで誰かと《共感したかった事》などを語ってくれていた。これまで何事においても、落ち着く居場所がなかった自分にとって、心が軽くなりました。(女性 当事者)

・この映画をみて日本の社会が《いじわる社会》であり、自分がその一員であることを実感して反省することができた。ユニークフェイスさんがどんな内容の映像を制作されようと、受け手にその感受性がなければ、通じることはないと思います。皆さんの悩みは、実は私たち1人ひとりの社会性の成熟度の低さに起因しているのではないかと、私は理解している。(女性 一般)

―この最後の感想は深刻だと思うんですが、どう受け止めますか?

八木ヶ谷: そうですね。やはり好奇心で観る方もいらっしゃいますよね。それは、私達が(発信の実績を)積み重ねていくしかないと思います。

■双方向で丁寧な《情報の手渡し》を目指して

それからもう1点。この発信活動のもう1つの特徴は、映画をスクリーンで観るだけではなく、観終わった後に皆でお互いに感想を出し合い、それにまた製作者側が応えていく、という、そこまでを含めたトータルな発信であるということだ。――という形を目指しているのだが、実際には今のところ(私も2度上映会に出たのだが)、あまりにドーンとテーマを突きつけられて、皆黙ってしまうという現実に直面している。観終わった後にシーンとしてしまって、「これだけ当事者が意を決して画面に出て発信したんだから、皆も何か言葉を返してよ!」と私が喧嘩を売って、やっと皆が喋りだしたという展開が1回目にあった。

―この、皆が口をつぐんでしまうという現象は、どうやってブレークスルーしていったらいいんでしょうか?

八木ヶ谷: どうでしょう。もし映像が威圧的な感じであったなら、こちらの制作側のミスですし、そこは分からないです。

やはり、数多くの人に観てもらうしかないし、それで皆が、こういう問題について「別に立派な事ではなくても、思ったまま喋っていいんだ」ということに馴染んでいく。そこから出発しなければならないのかもしれない。

―しかし、そうやって成長発展させて、今後も続ける、となると、財源は?

八木ヶ谷: 今のところ、ファイザー製薬の助成金100万円で賄ってきましたが、やはり今後、続編ですとか、新しい出演者の方と作っていくうえで、お金はかかってくると思います。

―それをなんとか確保しつつ、「よし、自分も出よう」という出演者も確保しつつ。これがまた大変なんですよね。

八木ヶ谷: そうですね、カメラマンを引き受けて下さる方も。もし興味がある方は、一緒にやりたいと思います。

インターネットが発展し、情報の入手が「いつでも・どこでも」と便利になる一方の時代に、敢えて「上映会に足を運んでくれた人達に対してだけ、手渡しします」という、丁寧な情報の伝え方。それもまた、この発信活動の注目すべきスタイルだ。今後も、この確実な上映会方式で各地を回るそうなので、注目していきたい。

八木ヶ谷: 次回の上映会は、今日午後から、浜松で行います。その後の予定については、『ユニークフェイス』のホームページをご参照下さい。
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