引退間近の浅野知事、「楽天」の1年を熱く語る

放送日:2005/11/5

あと半月ほどで引退する宮城県の名物知事・浅野史郎さんに、先日、『サタデーずばッと』の取材で会って来た。「任期中の12年を振り返って」というテーマは他のメディアにお任せして、的を絞って「最後の1年に突然舞い込んだ『東北楽天ゴールデンイーグルス』が地元にもたらしたもの」についてだけ尋ねると、ノリノリの非常に楽しいインタビューとなった。

■ライブドア人気から、楽天ありがとうへ

まずは、1年前の裏話から。

―県民の皆さんから県知事宛に、メールとか、色んな意見が寄せられますよね。そういうなかにも、楽天に関するものがあったりするんですか?

浅野:
そうですね。正直に言うと、去年の今頃は、ライブドアか楽天かというので大変でした。これは、判官びいきでライブドアへの思い入れが相当大きくて、新球団が楽天に決まったときには、随分、私も一緒になって咎められました。でもそれは、実際に楽天イーグルスがスタートしてから、かなり一掃されたと思います。
一番印象に残ってるのは、今年の初めだったか、最高気温が0度だか1度だかっていう寒い日に、三木谷さん、それから私も繁華街をパレードしたことがあったんです。2万人ぐらい集まって、もう優勝パレードみたいなもんでした。(その時点では)まだ1回も勝ってないんですよ、1回も試合してないんですから。そこで三木谷さんに声がかかったのは、「頑張れよ〜」とかね「しっかりよ〜」ってのがあったけど、何人かは「ありがとう〜!」って声が飛んだんですよ。
僕らにとっては、もう「球団が来てくれた、楽天がこの仙台、宮城をフランチャイズにしてくれた」っていうことで、「ありがとう〜!」って。その「ありがとう〜!」ってのが、最後まで持続したのが、今シーズンだったと思います。

―ここまでの効果っていうのは、考えていらっしゃいました?

浅野:
いや、これはね、はっきり言って期待以上でした。期待以上。だから、そういう意味で嬉しい誤算ですね。

ここで浅野知事が言う「パレード」とは、今年の1月、仙台の繁華街を初めて選手達が勢ぞろいでお披露目で練り歩いた時のことだ。当初のライブドア人気も、パレードで「ありがとう」という声が飛んだ話も、何か共通するものがある。地元の人達が“恩義”を感じている、ということか。

■応援も「マス」から「パーソナル」へ

その温かさが、開幕後は応援のスタイルとなって現れる。よく球場(フルキャストスタジアム宮城)に応援に通った浅野知事が体験したのは、素朴な味わいと意外な効果だった。

浅野:
フルキャスト宮城らしい応援にしよう、楽天ファンらしい応援にしようということで、“鳴り物”無しにしたんですよ。これはもう大正解だったと、私も評価してます。つまり、“鳴り物”無しで、拍手と生声、メガホンを叩くぐらいのことで応援しようと。
ところがですね、その応援の仕方がですね、全然ピタッと合わないんですよ。ほんとに素人の応援っていうか。交流戦で、ロッテがライト側スタンドに来た時は、ビジターなのに一糸乱れぬバーンという応援で、びっくりしたのは、選手1人1人ごとに応援歌が違うんです。それが、もうすごく声が合っていて、音がビューッとくるわけですよ。「ウワッー」っとなる。それに対して、こっちは手が合わなかったりですね。
でも、選手に聞くと、それがむしろ響くっていうんですよ。全部声は聞こえると。で、ものすごい力が出ると。だから応援はですね、ピッタリ合ってうまければいいというんじゃなくて、応援は応援ですから、選手にどれだけ力を与えるか。人に見せて喜ぶのが応援じゃないですから。そういうことも含めて、ファンは気持ちをまっすぐに出していったという、これが、期待以上のものなんですね。私もその一人だったんですけど、それは、とっても嬉しい感覚ですね。

バラバラで揃わない声を一斉に出すから、ファン1人1人の言葉が、それぞれちゃんと選手の耳に届いたという。同時に大量の個別ニーズに対応するのが仕事のネット企業「楽天」のカラーを、図らずも反映したエピソードではないか。

■企業誘致セミナーの特効薬

楽天イーグルスに関しては、赤字必至と言われた球団経営をいきなり初年度から黒字にした、という点がすごく注目されたが、地元の経済にもたらされた効果はどうだったのか。

浅野:
例えば、東北一の歓楽街・国分町で、客がバーンと増えたかというと、それはそうでもないみたいですね。目に見える数字では、東北地方の土地の価格が軒並み全部ダウンした中で、ただ1地点だけ、仙台駅東口、球場周辺の所が値上がりしました。これは経済効果の、一番分かり易いところですね。
宮城県知事という僕の立場で、効果の凄く分かり易いのは、企業誘致です。毎年、東京と大阪で、知事が自らセールスしてくる企業誘致のセミナーっていうのがあるんです。で私、10分くらいだけ時間を与えられてですね、「宮城県というのは、企業誘致のために、こんないいところがある」とアピールするんです。東北大学がある、交通の便があるとかですね、いい労働人口があるとか、自然もあって…とか言ってですね、一生懸命、口角泡を飛ばしてやるんです。
それが、今年は簡単ですよ。「東北楽天ゴールデンイーグルスというのが、来たところです」と。つまり、プロ野球が立地できるということだと。もうそれで、いろんなことを全部説明できちゃうわけです。交通の便とか、人口の集中とか色んな設備とか。ということで、それと話題性というのもあって、すごく楽でした。これも、経済効果の1つだと思ってますけどね。

知事によれば、「楽天があるから仙台に行く」という直接的な動機で移転して来た企業は、たぶんまだ無い。ただ、仙台に移って来た企業の誘因のひとつとして、「楽天が選んだほど魅力がある街なんだ」という認識が存在するようになったのは、大きなプラス材料だと言う。

■浅野家の“元の取り方”

―知事ご自身は、何回か試合を観にいかれましたか?

浅野:
15試合ぐらい観てると思います。実は、年間シートを家族で2つ、買ってあるんです。13万円の席。ランクで言いますと、かなり下の方になりますけれども、十分よく観られます。3塁側の内野の後ろの方です。真ん中くらいかな。

―それを2つということは、26万円投資されたんですね。

浅野:
はい。十分、元をとりましたよ。聞かれる前にいいますけども、15試合のうち勝ったのは、3回か4回かというぐらいの割合でありました。大体が、ショボンとしてましたけど、9回裏スリーアウトまでちゃんと観ました。点差があっても、最後の最後まで観るというのを、自分のポリシーにしてます。
まあ、これ変な話だけど、負けて当たり前ってのは、あんまり良くないんでしょうけど、そんなに悲しくない。そのかわり勝った時の喜びは、これはものすごいですから。もう幸せもらってね、「今日勝ったゾー!」っていうのは。だって、1週間に1回勝ったら関の山の成績だったから、その喜びがずーっと持続するんです。だから考えてみれば、今年は38回優勝したような気分ですよ、気持ち的に言うと。そういうのを与えてくれたっていうことでしょ。だからハッピーですよ。街全体がハッピーですよ。

宮城県警の裏金問題で、捜査報償費の執行停止まで斬り込んでいた、あの豪腕の浅野知事に、こんなお茶目な日常の喜びがあったとは驚きだ。難しい課題に挑むエネルギーは、任期最後の1年は、実は楽天イーグルスからもらっていたのかもしれない。 話が止まらなくなった浅野知事は、尋ねてもいないのに、ご自身の家族のことまで話してくれた。

浅野:
もう、うちの妻も婆ちゃんも、ユニフォーム買って、帽子被って、完全に揃えて、もう人格が変わったみたいに応援してますよ。だから私もすごくやりやすい。ストレスも全部、球場で発散してもらって、帰ってくるから。
年間シートがいいのは、前の人も後ろの人も年間シートなんで、メンバーが固定されてますでしょ。いつのまにかお友達になっちゃうんですよ。まあ、僕というよりもうちの義母がですけど。義母は50試合以上行ってると思いますよ。
80過ぎの義母が「セイコちゃ〜ん」と言われながらですね、ボーイフレンドもできちゃって。4歳の子ね、前の席の。それでメールの交換したりですね、「どうしてこの前来なかったの?」とか。もうすっかり生活が変わっちゃって、生き甲斐ですよ。だから、今、最終戦が終わって、うちの義母は「これから先、何を生き甲斐に生きてったらいいんだろう」って頭抱えてます。ほんとに来年の3月末の開幕まで、どう過ごしていいかって。

これからシーズンオフの間の過ごし方で、途方に暮れているのは、なにも浅野家に限らない。「そういう人が何万人もいると思う」と、知事は断言する。

■そして、これから…

しかし現実に、熱狂の1年目は終わってしまった。そしてほぼ同時に、12年務めた宮城県知事の仕事も、あと半月で終わる。

―知事を辞められた後、楽天とはどう関わっていかれます?

浅野:
僕、これで、1回こういう身体になっちゃったから、もう「楽天イーグルス命」ですよ。
実はですね、私、40年来、阪神タイガースのファンで、「阪神タイガース命」だったんですよ、ずーっと。で、今年、楽天ができて、自分でもどうなるかと思ったんです。始まる前には、まあ「セ・リーグは阪神、パ・リーグは楽天」と、ちゃんと自分が分けられると思ったんです。
ところがですね、あの交流戦ですよ。交流戦で、阪神タイガースvs楽天イーグルスっていうのがあって、観に行ったんです。自分の気持ちにほんとに素直に行ったら、これが100%楽天イーグルスの応援ですよ。あれだけ愛していた阪神なのにね、「金本打てー!」って言ってたのが、楽天とやると「金本打つなー! あ、打っちゃった〜」と、もう完全にそうなった。自分でもビックリするぐらい。これも楽天効果が如実に表れた部分ですね。私にとって個人的に。
もう知事を辞めますので、最後に大きなプレゼントをいただいたというような気持ちですね。

―この熱気は、来年以降も続きますか?

浅野:
ひとつだけ条件があると思うんです。今年よりは、いい成績とらなきゃダメ。これ、絶対条件です。

楽天は、今週火曜(11月1日)には、野村克也新監督と正式契約も交わした。来年は本当に、勝ちに行かなかればならない。「来てくれてありがとう」は、初年度しか通用しないのだから。浅野知事が任期満了で一県民に戻ったら、同時にタイガースファンに戻ってしまった、ということの無いように、楽天イーグルスには頑張ってもらいたい。

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最後に一つ、今日のテーマとは関係ないが、明後日(11月7日)の興味深いイベントのお知らせ。 イラクから帰還した米兵ジェラルド・ダレン・マシュー氏の講演会が、東京で開催される。この人に関しては、3つの事実がある。

  1. 一昨年(2003年)9月、イラクで突然、顔面の半分が腫れ、偏頭痛、目のかすみ、排尿時の激痛などに見舞われ、帰国。診断を受けても、原因不明だった。
  2. マシュー氏の帰還後すぐ、妻のジャニスさんが妊娠し、去年6月、女児が誕生。生まれた赤ちゃんは、3本の指などが欠損していた。どちらの家系にもそうした前例はない。
  3. その後の検査で、マシュー氏の尿からは放射能が検出されている。

―――この3つの項目の間の因果関係は、科学的にまだ何も解明されていない。「劣化ウラン」という言葉が頭をよぎるが、とにかく予断なしで、この米兵が体験した事実を聞いてみよう、という方は、下記へ。

・ 日時 : 11月7日(月)  6時45分 (開場6時15分)
・ 場所 : 明治学院大学 白金キャンパス 3101教室
・ 資料代 : 一般1000円(カンバッヂ付き) /学生500円
・ 共催 : 劣化ウラン廃絶キャンペーン(CADU-JP) / 日本イラク医療支援ネットワーク (JIM-NET)/ イラク ホープ ネットワーク/ 等

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