市民メディアの“たまり場”的カフェ、相次ぎオープン

放送日:2005/5/21

今週、都内にちょっとユニークなカフェが2軒、相次いでオープンした。単館上映館から派生した東中野の『スペース&カフェ ポレポレ坐』と、市民メディアから派生した神保町の『メディア・カフェ』。それぞれの仕掛け人である、中植(ナカウエ)きさらさんと、白石草(ハジメ)さんにお話をうかがう。

まずは、今週水曜(5月18日)にオープンしたばかりの、『ポレポレ坐』の方から御紹介いただこう。

中植:
JR中央線の東中野駅前すぐのところの地下に、『ポレポレ東中野』という映画館があるんですが、その1階に、イベントのできるスペースとカフェとを兼ね備えたお店を作りました。

−『ポレポレ東中野』自体がユニークな映画館なんですよね。

中植:
はい、ドキュメンタリーを中心にいろんな映画を上映しています。以前のドキュメンタリーというと「告発もの」みたいなのが多かったんですけど、『ポレポレ東中野』では、「ささやかだけど、いい生き方してるよ」っていう作品を多く上映してます。

−カフェの方の特徴は?

中植:
喫茶店の方がうまく軌道に乗ったら、音楽ライブだとかお話の会だとか、いろいろなことをやっていきたいと思っています。普段の喫茶店の壁を取り払うと、隠しスペースが現れます。大きさとしては、100人から、頑張れば150人くらい入るかな、というところです。簡単なステージがあって、今後はスクリーンも設置しようと考えています。でも、“こっちが舞台で、こっちが客席”みたいな分け方はせずに、同じ目線でいろんなことができるような空間にしたいと思ってます。

−どうして、そういう場を作ろうと思ったんですか? ニーズを感じた?

中植:
カフェ自体のニーズもあったんですけど、映画館では監督が来ても舞台挨拶ぐらいしかできないし、観客同士も話すことができないので、もっと映画と関連したイベントをやれればと思ったんです。

ブームに流されない単館上映館のお客には、一種の“同志”的つながりがある。作品を見終えた後、せっかく居合わせたそのつながりをバラバラに断ち切って、無言で再びのっぺらぼうな大衆の中に散ってゆくのは何となくもったいない。それが問題提起・行動喚起型の作品だったりすれば、なおさらだ。そういう空白を埋めてくれる、素敵な溜まり場に育つことを期待したい。


そしてもう1軒、これまた熱い溜まり場になりそうなのが、今日(5月21日)これから午後1時にオープンする、『メディア・カフェ』。

−これはまた、単刀直入なネーミングですね。

白石:
私達は、『Our Planet-TV』(通称『アワプラ』)という、市民とジャーナリストなどいろんな人達が協力して情報発信するインターネット放送局をやっています。インターネットということは、オンライン上のヴァーチャルな世界でやりとりをするんですけど、それだけだとやっぱりつまらないね、という思いがありました。それで、人と人とが直接会ったりすることにも可能性があるということで、インターネットを補完する場所として『メディア・カフェ』をオープンすることにしました。

−いわゆる「オフ会」ですね。

白石:
そうです、そうです。「オフ場所」というか、オフ会の「場所」ですね。ここに来れば、『アワプラ』の人に会えるし、もしかしたら制作者にも会えるかもしれない、っていう場所です。『メディア・カフェ』と言っても、実際は事務所の一角で、大体14帖くらいがカフェ部分ということになります。

『Our Planet-TV』は、以前にもこのコーナーで御紹介したことがある。

−あの時は、「名前は“惑星”規模だけど、オフィスは四畳半」なんて言ってたけど、広くなったわけですね。そこには、どんな”仕掛け”を?

白石:
パソコンやカメラは常時置かれていて、集まった皆さんが気軽に映像制作に親しんだり、動画発信できたり、インターネットで生放送ができるようになっています。それから、メディア関係の本をザーッと揃えてます。これは、亡くなった青山貞伸さんの蔵書を500冊くらい寄贈していただいたものです。(青山さんは、産經新聞の記者時代にメディアの取材をずっとされて、その後にはメディア総合研究所を立ち上げ所長を務められた方です。)この充実した蔵書が、来れば読める、ということになってます。

−じゃあ、特に用が無くても、ふらっと寄って、本を読みながらコーヒーを飲むことができるということですね。

白石:
そうですね。コーヒーもフェアトレードのオーガニックの豆を使っています。セルフサービスなんですけどね(笑)。ただ、おいしいことは保証しますし、いい場所にありますので、会社をさぼってでも寄っていただくと、ちょっとホッとできて、ちょっと知的な感じがして、っていう場所を目指したいと思っています。

−生放送ができるってことは、そこで人を集めて市民会議を開いて、それを世界中の人に観てもらうってこともできるわけですよね。

白石:
もちろんです。ちょっと先になるかと思うんですけど、生放送も恒常化していきたいと考えています。今は、まだちょっとマンパワーが十分ではない状態ですけど。
“放送局”っていうとちょっと敷居が高い、中に入るのにも“通行証”がいるところだと思うんですけど、私達の『メディア・カフェ』は、やはり、皆が気軽に立ち寄れるような場所にしたいですね。誰でもそこに来れば、そのまま情報発信できるような。将来的には、おいしいものも揃うし、どんどん情報発信もできる場所にしたいなと思ってます。

−文字通り「おいしい場所」ですね。

白石:
皆がそこに来て、刺激を与えたり受けたりし合うことが増えればいいなと思ってます。実際、《拠点の共有》によって市民メディア団体同士の交流が生まれそうな動きが既にあって、『東京視点』『NBアカデミア』等が、定例会の場として活用することを検討中です。

−こういうカフェって、どこかのモデルケースを見習ったりしたんですか?

白石:
そうですね。海外だと、行政のサポートがあったり、例えば受信料の一部を使ってできているような、「パブリック・アクセス・センター」というものがあります。市民が情報発信するというのがひとつの権利として認められている国が先進国には多くあって、「パブリック・アクセス・センター」では、市民のための映像トレーニングができる機材が揃っていて、プロのテレビ・ディレクターが来て、映像作りを教えたり、一緒に作ったりできるようになってます。
日本にも、『京都三条ラジオカフェ』というのが既にあって、もともと毎日新聞の京都支局があったビルの1階がカフェスペースになっていて、ラジオ局が隣についていて、地下にはライブハウスがあって、他にも劇場があって、ギャラリーがあるっていう、私からすると、もう本当に「パーフェクト!」な場所なんです。そういう所って本当に知的で、文化の香りもするし、若い人もいっぱい集まってくる。そして、ジャーナリズムやメディアが語られ、実際に情報発信もされる。東京には、まだそういう場所はないんですよ。だから、東京にも是非そういう場所を作って活動していきたいと思ってます。

−メディア・カフェと一体になってる『Our Planet-TV』新事務所では、今もどんどん新しい作品が生まれてるんですか?

白石:
できたての最新作があるんですが、それは、初めてビデオカメラを手にした主婦が撮った、ハンセン病患者の話で10分ぐらいの作品です。主人公は、出産とともに発病してしまった方で、病院でハンセン病だと告げられる。それで、彼女は療養所に残らなければならず、家族は帰宅してと離ればなれになってしまう、という話なんです。撮影した主婦の方は、たまたま仕事の関係で主人公の方と知り合って、出会った瞬間に「これは絶対に映像に残したい」と思ったそうです。これまで何の経験もなかったのに。それで、アワプラに連絡をとって、実際に作ったというものなんですけど、本当にすごい作品になってます。

−自分ではビデオカメラも持ってない人なんだそうで…。

白石:
『アワプラ』では、私達のウェブサイトで流す放送に関しては、企画が通れば無償で機材を貸出しています。わりと皆さん、途中でビデオカメラを買うんですけど、彼女の場合は最後まで『アワプラ』の機材を使い尽くした、という感じでしたね(笑)。

普段は映像制作にあまり興味もないのに「これは」と突き動かされるものに出会う。そのときに、誰でもちゃんと情報発信できるというのが、この『アワプラ』と『メディア・カフェ』の意義だ。
この最新作品の一部を、ご紹介する。

(『あなたと会う日のために〜長島・愛生園での半世紀〜』より)

ナレーション: 夫と子どもは発病していないことが分かったが、双見さんはひとり、この療養所に残らなくてはならなかった。そしてそれは、10ヶ月の赤ん坊と永遠に別れることを意味していた。

双見:
「主人におんぶされて、子どもは帰っていったんだけど、私が当然後ろからついてくもんだと、子どもは考えたわけ。主人におんぶされてるから。したら、ついていかないで私が浜に残ったでしょ。したら「いやーっ」って泣いたの。それだけがここに残って。 ところが2時間たったらお乳が張ってくるじゃない。で海岸の渚でしぼって、そしたら渚が白く白濁するでしょ。それ見て自分でぼろぼろ泣いて。人に泣き顔見せるの嫌だから」

−こういうインタビュー構成なわけですけど、これを全部『アワプラ』で制作したんですか?

白石:
まずビデオをお貸しして、それで撮ってきて、パソコンの方は、去年の夏に託児付きのワークショップにお子様連れでいらっしゃって、その後、「12月頃から作ります」っていうことでした。パソコンには、誰でも編集作業ができる『ムービー・メーカー』っていう無償のソフトが入っているんですけど、大まかな粗編集はこちらでお教えしたんですけど、後はご自宅でされました。きっと夜中に、お子様が寝てから作ったんだと思います。最後の仕上げ段階では、私達の事務所で一緒に完成させていったという感じですね。

−じゃあ、仕上げの時は、白石さんも見守っていたんですか。

白石:
そうですね。ナレーション原稿を書いたりとか、最後の2週間くらいはかなり一緒に作っていったという感じでした。最初のラッシュ、生の素材を見た時は「うわー」って感じだったんですけど、それもどんどんきちんと構成されて、作品としての形になっていくんですよね。やっぱり、そこにはすごい力があるんですよ。自分の思いに突き動かされて作っていくっていう力の凄さと、そこにある言葉の強さに本当に圧倒されました。私もちょっと前まではテレビの仕事をしてましたけど、「これはなかなかプロのディレクターでもできないぞ」っていう感じでしたね。

市民メディアで《既に活動している人》だけじゃなく、《興味はあるけど動き始めてない人》でも、ここにふっと来れば、いろいろな人と出会うことが出来る。私もよく“市民メディア”の活動紹介を各地の講演で話すが、聴いた人からよく言われるのが、「面白そうだけど、初めの一歩の踏み出し方がわからない」というものだ。その壁が、ここで具体的に取り組んでいる人達と知り合いになることで、突破可能になる。これからが非常に楽しみだ。

−最後に一言ずつ、リスナーにお誘いの言葉を!

中植:
おいしいコーヒーとケーキで、『ポレポレ坐』お待ちしております。ゆったりしに是非来て下さい。
白石:
本当に映像制作って、これまでは”プロ”っていう感じで敷居が高かったと思うんです。だけど、一生のうちに数度は出会う、「これは、私、残しておきたい」とか「誰かに伝えたい、見せたい」というときには、それが《できる》ので、是非『メディア・カフェ』に遊びに来ていただければと思います。本当に子どもでも出来ますから、本当に仕事さぼってでも(笑)寄っていただきたいと思います。
▲ ページ先頭へ