高遠菜穂子のイラク月例報告(3)猛攻下で続く学校再建プロジェクト

放送日:2004/12/4

毎月1回定期的にお伝えしている、高遠菜穂子さんによるイラク現地活動報告。前回は、ファルージャで高遠さんの仲間のイラク人スタッフ達が進めている「学校再建プロジェクト」について、アンマンから国際電話で話してもらった。

―その後、米軍による猛烈な攻撃があったわけですが、現地の皆さんはご無事で?

高遠:
カーシム君は、10月の終わりに別れたっきり、まったく連絡がとれてなかったんです。携帯もまったくつながらなくて。ワセック君からは、米軍による掃討作戦の直前にメールが来てたんですけれども、“今戦闘機が攻撃して来ているから返事が書けない、またね”っていうのが最後だったんですよ。でも、今月の25日に2人から同時にメールが来て。 カーシムからのメールには、「まだ生きてるよ!」って。「その報告をしたくて、今日はバグダットまで来てこのメールを書いてる」って書いてありました。

カーシムさんの事は、9月18日のこのコーナーでも、高遠さん宛ての素敵なメールと一緒にご紹介した。現地の再建プロジェクトの中心になって頑張っている青年だ。

−プロジェクト自体は、この厳しい状況の中、どうなってるんですか?

高遠:
完璧な仕事じゃないけれども、学校を作るプロジェクトを続けていると。10月のミーティングの時に、「ファルージャがちょっと厳しいので、ラマディ郊外の学校を選定してやる」って決めてたんですね。その学校、「もうちょっとで作業が終わるよ」って、メールに書いてありました。

ニュース映像を見る限りでは、とてもそんな活動は出来ないだろうと思えてしまうが、画面の外では、こんな状況下でもしっかり“生活”があるということだ。

−学校再建の財源は?

高遠:
私達が(4月の人質事件で)拘束されていた時に日本全国から集められたカンパのお金が、基になっているんですよ。ラマディの学校の作業が終われば、《日本の皆さんのお金で再建された初めての学校》になるわけなんですよね。
このお金の一部は、今回の惨事で緊急支援にも使われました。

−カンパした日本の人たちに、それを知らせる仕組みはあるんですか?

高遠: イラク・ホープ・ダイアリーの中で、私も一応書いていますが、詳しくは、彼らが報告書や写真を送ってきたらすぐにアップするようにしてます。各地で行なっている報告会でも、常に報告しています。

そもそも、高遠さんのまわりには、イラク・ホープ・ネットというイラク支援をしている沢山の日本人のネットワークがある。その中核を為す日本国際ボランティア・センター(JVC)の現地常駐の原文次郎さんが、つい先週から一時帰国しているので、お話を伺おう。

−原さん、今回の一時帰国前は、具体的にどこでどういうイラク支援活動を?

原:
もともとJVCのイラク支援というのは、ガンや白血病にかかっているイラクの子ども達(それらの病気の原因は劣化ウラン弾とも言われています)の支援をしようという事で活動しています。なかなか満遍なくとはいかないんですが、6月から5ヶ月間、ヨルダン(イラクには入れないので)に陣取って、バグダット(2ヵ所)・モスル(1ヵ所)・バスラ(2ヵ所)の病院と連絡をとって、そういう所へ薬を届けるという作業をやっていました。高遠さんも、8月と10月にそこに来られたんです。

−ファルージャ攻撃が激しくなってから、現地の情報は原さんのところへ入っていましたか?

原:
軍隊があの地域を囲んで攻めているので、人の出入りが許されていないんですね。それは人道支援の人たちも含めてなので、地域内の情報が出てこないんです。バグダットの協力者から間接的に話を聞くとか、主に救援活動をしている赤新月社(イスラム教国での赤十字)から話を聞くという事はあったんですが、なかなか難しくなって来ていました。

−そういう中で、今後の支援の見通しは?

原:
高遠さんにカーシム達のような協力者がいるように、私にもイラクの中に協力者がいます。そういう方を通じて情報を手に入れていますし、JVCの活動でも、そういった協力者やイラクのローカルのNGOに資金を提供して、それを基に動いてもらうという仕組みでやっています。我々は今、ファルージャにも緊急救援を入れているんですが、それもそういう枠組みで進めています。

《個人と個人のつながり》が支えということですね。

原:
ええ、そうですね。

−高遠さんの今後の活動としては?

高遠:
本当に、もう街の中がボロボロになっていますからね。聞くところによると、街の中は遺体がすごくたくさんある状態みたいで。すぐには現地に戻れる状況じゃないんですけど…。これから寒くなるじゃないですか。10月の時点で既に、疎開している知人から「毛布が欲しい」とかいう話は出てたんですよ。それから更に状況は悪化しているので、そういうところも考えていかなきゃなと。 スレイマンさん(高遠さんと活動している現地スタッフのリーダー)も、原さんと何かやってましたよね?
原:
ファルージャ攻撃は、公には11月8日から始まったことになっていますが、実際にはそれ以前から攻撃は始まっていました。それが始まる前から、彼らと話をしていてね。ファルージャの病院が医療品を欲しいということだったので、攻撃前から物資を届けていました。ですから、攻撃が始まった時点で、実はファルージャの病院は物が結構足りている状態だったんです。これは我々だけの支援ではないです。

−ファルージャの中には、これから入れるようになるんでしょうか?

原:
私は今、日本にいながら、毎日のように電話でそういう状況の確認をしています。赤新月社のチームが一度中に入ったという話も伝わってますが、これはあくまで中の状況を見るためで、中で支援を展開するというところまでは達していません。なかなかこういう状態だと、中に物を届けるというのは難しいんです。でも、中から外へ避難してきた人たちの支援はできますから、そういうところから、ですね。

−今回の一時帰国の目的は?

原:
こうしてラジオで喋るのもその一つですが、現地で《何が起こっているのか》《何が必要とされているのか》を、日本の皆さんに直接お伝えすると。そうして状況を分かっていただいて、あるいはそこからもっと幅広い支援をいただく。それが大事だという事で、今回一時的に戻って参りました。

原さんは、以下のJVCのイベントでも、報告をされるという事だ。

イラク・パレスチナ『戦下のいのち』
2004年12月15日(水) 19:00〜21:00(開場18:30)
会場:ECOとしま(豊島区立生活産業プラザ)8F多目的ホール
東京都豊島区東池袋1-20-15
参加費:700円
申込み・問合せ:日本国際ボランティアセンター(JVC) 担当 田村、佐藤
Tel: 03-3834-2388 Fax: 03-3835-0519
E-mail: saudade@ngo-jvc.net/s-tera@ngo-jvc.net

高遠さんも、先月アンマンから戻って以来、全国でイラクの現状について報告会を行っている。私も小樽で聴いたことがあるのだが、ただ話をするだけでなく、現地の人が撮った映像を大画面で見せていて、参加者は皆その画面に釘付けだった。

−あれは、どういう経緯で手に入った映像なんですか?

高遠:
ヨルダンで滞在した時に、イラク人からもらったんですよ。それをカーシム達と一緒に見て、アラビア語を英語に訳してもらって、私が映像の内容を理解してメモして。

例えば、米軍による家宅捜索の映像。ニュースではよく《アメリカ側》から撮った映像(米軍の兵士が家の中に飛び込んでいくといった、一見勇ましいもの)が流れるが、報告会で流されるのは、《捜索された家の側》から撮ったものだ。それを見ると、「そんなところにザルカウイが隠れているわけないじゃん!」というような狭い所まで全てグシャグシャにされている様子や、ボロボロにされたコーラン、更に、その破いたコーランの紙片で米兵が自分のウンコを拭き、それを壁になすりつけたという跡まで映し出される。他にも、「これはどう考えても、現地の人がアメリカに反感を持って当然」と思えるような映像が次々に流される報告会だ。

高遠:
8月にヨルダンへ行った時に聞いたんですが、私の知り合いの家では、一ヶ月間に家宅捜索を6回受けたと言ってました。

こうした映像は、なぜ日本のテレビで流れないのか? 当然、テレビ局側にも論理がある。高遠さんが「これはイラクの映像です」といくら主張しても、それをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない、という事情だ。自分達の責任で裏づけを取らなければならないが、それがなかなか出来ないので流せない、という限界がある。
そういう点で、「とにかく情報提供者が『そうなんだ』って言うんだから、とりあえず見てみようよ」と言えてしまう市民メディアの柔軟性には、存在の意味が、確かにある。後は、受け手がどう判断するかだ。

−でも、大手メディアって、市民発の情報だと「鵜呑みにできない」と言う一方で、アメリカ発の情報はそのまま鵜呑みにしていつも流してしまっているんですよね。

高遠:
今は本当に、情報が歴然とアメリカからのものに偏ってるじゃないですか。だから、両方を並べて「どっちが善でどっちが悪かを判断してください」って事じゃなくて、とりあえず《情報量をフェアな状態》に持っていきたいっていうことで、報告会でイラク人側からの映像を流しているんです。

高遠さんの著書『戦争と平和』(講談社)は、昨日(12月3日)、第10回平和・協同ジャーナリスト基金賞の奨励賞を受賞した。ボランティア活動だけでなく、彼女の情報発信活動も、今や高く評価されている。

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