『ライファーズ』(終身刑の囚人)ドキュメント上映

放送日:2004/9/4
ライファーズカンヌ映画祭主演男優賞を受賞した『だれも知らない』が各地の映画館で上映中だが、この夏、もう1つビッグな賞を取った映画がある。ニューヨーク国際インディペンデント映画祭で、「海外ドキュメンタリー部門・最優秀賞」を取った、日本人の映画監督の作品『ライファーズ』だ。明日(9月5日)から、この映画の上映会ツアーが全国6都市をまわる。監督の坂上香さんにお話を伺う。
―これは、どのような映画ですか?
坂上:
殺人とか強盗とか凶悪な犯罪をした人達が収容されている、アメリカのカリフォルニア州の刑務所が舞台です。ライファーズとは、“終身刑で服役中の者”の意味なのですが、その刑を科された人達が《生き直し》をしようと、今までの自分の生き方を清算する《更生》がテーマです。《更生》という言葉も使いづらいんですが…。

被害者がいるわけですよね。殺人とか、取り返しがつかない犯罪は、命を取り戻すことはできないので、そういう罪を犯した人達は、どうやって償いをしていくのか。《生き直し》をする加害者本人の事と、被害者への償いと、この2つがメインのテーマです。

―終身刑の囚人は何人位いるのですか?

坂上:
今は、アメリカ全土で13万人を越えています。ただ、日本で「終身刑」というと、一生刑務所から出てこられないというイメージが強いですが、アメリカでは、出られる可能性が残っている人達もいるんですね。素行が良かったりすると、例えば、15年、16年後に出所できると希望を抱きながら、毎年仮釈放の申請をし、刑務所の中の更生プログラムで励んでいるというわけです。

―どうして、このような終身刑受刑者をテーマに選んだのですか?

坂上:
う〜ん、これを話すと、3,4日かかってしまうのですが…。簡単に言うと、テレビの仕事をしていた時、90年代の中ごろに、『アミティ』という犯罪者の更生施設を知りました。今回の『ライファーズ』で取材させて頂いたプログラムも、『アミティ』に参加している人達のものだったんです。その取材の中で出会った人達が、皆「私がやり直せたのは、ライファーズのおかげなんです」と一様に言うのです。

最初は意味が分かりませんでした。受刑者なら、刑務所の中でライファーズと出会うということも考えられなくもないのですが、例えば、社会復帰施設の女性で、刑務所にも入っていないような人までもが、「ライファーズのお蔭だ」って言うのです。「それってどういう事?どこで会ったの?」って思いました。

結局、ライファーズに出会った受刑者の人達が、外に出てきて、ライファーズが語った言葉だとか、影響を受けたこととか、そういう、武勇伝のようなものを、外でも語り継いでいるんです。それで、彼らのメッセージに動かされて“自分は変わってきた”という人達がかなりたくさんいます。

ライファーズは、塀の中に留まっていながら、外の人達にまで、言葉で影響を与えている。その舞台が、カリフォルニア州・サンディエゴ郊外にある、ドノバン刑務所の更生プログラムだ。そこで、ライファーズが重要な役割を果たしている。

―具体的に、どんな人達なのか、紹介してもらえますか?

坂上:
はい、例えばレイエス・オロスコ(撮影当時51歳)さんは、もう何度もあらゆる罪を犯してきた人で、人生の半分以上、30年間刑務所で過ごしている人です。「刑務所は僕のホームだ」と話すくらいです。彼は最終的に、殺人を犯し終身刑となりましたが、『アミティ』に入ってからは、ずいぶん変わりました。彼の影響力はとても大きくて、ライファーズでも“レイエス”といえば、外でもカリスマ的な存在です。

―どのように変わってきたのですか?

坂上:
例えば、彼自身、外から見ると、どうしようもなく凶悪で、ギャングにも所属している人です。アメリカの場合、刑務所の中にも、ギャングの組織をそのまま持ってきちゃうんですね。その中でも、彼は、頭(かしら)の役目を果たしていたので、かなりのワルだったと思うんです。でも、今会ったら、そんなのは全然感じさせない、とてもやさしいオーラに包まれた方なのですけど。

このプログラムでは、“自分のストーリー”を紡ぎだしていきます。レイエス自身、自分のやった事について目を向けると同時に、自分の身に何があったか、何で自分はどうしようもなくなってしまったかと言うことを、子供の時からひも解き、どんな人生を送ってきたのかを細かく見ていきます。

映画を見ていただければ分かりますが、彼は、本当にすさまじい虐待にあっているんです。単に虐待にあったということを語るだけではなく、その時、どのような気持ちがしたかとか、誰が居て、誰が助けてくれたか、くれなかったのか等、覚えている限りすべての状況を1つ1つ見ていくんです。記憶によっては、忘れてしまっているものもありますが、同じような体験をした仲間の話を聞くことによって、「そうだ、自分にもこういう事があった」と思い出していくんですよね。

その作業を、映画のカメラは克明に撮影している。7〜8人くらいで車座になって、レイエスが赤裸々に自分の身に何があったかを語る。それを聞いて、心を閉じていた他の受刑者達が「実は、俺もこんな思いをしたんだ」と語りだす。そうやって、周りの人達の殻がほぐれていく。その人達から話を聞いて、今度はレイエス自身が影響を受けるなど、受刑者の間で《響き合い》が起きてくる。最後に、プログラムを終えると、みんなで円陣を組んで、片手づつ重ねあって、「今日、ここで話したことは、絶対外では話さない」とお互いが誓い合って、解散する。こうやって自分を見つめなおしていく作業が、プログラムの基本形だ。

レイエスは、「社会復帰してゆく受刑者が、再犯しないように働きかけること。これが、殺人という取り返しのつかない罪を犯した自分にできることだと思う。」と使命感を持ち、周りの人にも《気づき》を分けてあげているのだ。そのシーンだけ見ると、レイエスは人格者のように見える。ところが、この映画には、1つの進行軸として、レイエスが仮釈放審議会で釈放を認められるかどうかを審査する場面が度々出てくる。ここでのレイエスは、まったく違う面を持って描き出されている。つまり、被害者の遺族が「絶対、アイツは許してはいけない」と語り、彼は、渋い表情で沈黙するしかない。そこを見ると、「どっちも本物のレイエスなのか」と戸惑ってしまう。

中には、無事出所して、プログラムの責任者として活動している、元受刑者もいる。

坂上:
ジミー・キラーという人がいます。彼も幼い頃から非行がありました。9歳で家出をし、11歳から薬物依存症となり、とにかくワルでワルでという人なのですが、30代の半ばで『アミティ』に会い、刑務所のプログラムで、レイエス達ライファーズに出会って、やり直そうと思ったという経緯があります。ジミーはライファーズではなかったので、数年で出所できましたが、ライファーズのメッセージを外の人達に伝えています。

現在、ジミーは、受刑者としてではなく、スタッフとして刑務所の中に戻っています。プライベートでは、3歳の子供の良いお父さんとして温かい家庭を築きながら、刑務所に戻って、「皆もがんばれば、僕みたいに、社会でこういう良い生活ができるんだから、それを目指してがんばろうよ」と励ましています。それを、エリートのスタッフが言っても、なかなか届かないわけですよ。「お前達に、何がわかる」ってなりますから。でも、そうじゃなくて、自分と同じような悪いことをしてきた人、つらい目に遭って来た人、もしくは、もっとひどい事をしてきた人が、目の前に居て、今まで自分が生きてきた道とは違うものを持っていたりすると、受刑者達も「僕にもできるかもしれないな」と思うらしいんです。そういう意味では、“希望を与えるメッセンジャー”なのでしょうね。

映画の中に、ジミーが主催する刑務所の中でのクリスマスパーティーのシーンがある。普段独房から外に出してもらえない受刑者達が出てきて、広場にあつまり、クリスマスの料理を分けてもらい、また独房に帰ってゆく。ジミーが引き上げて行く時に、独房の中から、「ありがとう、今日、俺、礼を言うの忘れてた」とか、「いつか、自分もあんたのような事をやれるようになりたいよ」とか、囚人達が本当に心から叫んでいる。これが本当に、“手に負えない”と言われているような事をやった人達なのか、と思ってしまう。

坂上:
あのシーンは、編集しながら、毎日泣いていました。

―坂上さんは、『現代思想』7月号で「取り返しのつかない喪失を前に、はたして事件の当事者が、『やり直す』ことは可能なのか。私は自らに問いかけながら撮影した」って書かれていましたが、今は、どのような答えを持っていますか?

坂上:
う〜ん、人によってですけど、被害者の人にとっては、自分自身がもう取り返しのつかない“喪失”をしてしまった、愛する人を殺されてしまったわけだから、加害者がやり直すとか社会復帰するとかは、とてもやるせないというか、怒りの対象となるかも知れません。ところが、加害者である人も、いろんな目に遭っているわけですよ。でも、私達は何も加害者の本当の事を知らないと思ったほうがいい。本人達も、何があったかを知らない場合が多いので、更生プログラムで、ようやく自分の身に何があって、自分がどうなってしまったのかが分かるわけです。そういうプロセスを経て変わってきた彼らを見てくると、やっぱり、「変わり得るんだ」と感じます。償いというもの―――命は取り返せなくとも、違う形で《還元》することはできるんだということを、彼らが十分体現してくれていると思います。だから、下村さんの問いには、「あり得る」と答えたいですね。

『ライファーズ』上映会とシンポジウムのスケジュール―――
9月5日(東京)/ 7日(札幌)/ 8日(仙台)/ 10日(岡山)/ 11日(京都)/ 14日(名古屋)の6都市

映画にも出演している、『アミティ』の創始者の1人ナヤ・アービターさんが6都市全て、そして、同じく創始者のロッド・ムレンさんも、京都から参加する。上映会後のシンポジウムでは、彼らと直接話ができる。

10月9日からの4週間、東京の『ポレポレ東中野』でロードショーも予定されている。
上映時間は、13:00〜 / 15:00〜 / 17:00〜 / 19:00〜 の1日4回。

また、最近“市民メディア”の一形態として盛んになってきた《自主上映会》スタイルも歓迎だという。あなたの地元で、勝手に実行委員会を作り、映画フィルムを借りて上映するというもの。料金は、1日1回5万円で、チラシ・宣伝配布物・ポスター込みのセットになっている。

問い合わせ:『ライファーズ』映画支援プロジェクト事務局
        FAX:042-947-0750 まで

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