雪印告発の西宮冷蔵、「大逆転」通販開始

放送日:2004/7/24

雪印食品の牛肉偽装事件を、最初に暴露した西宮冷蔵。あの暴露がきっかけで、雪印食品は解散に追い込まれたが、当の西宮冷蔵も、取引客が激減して、その後、事実上の閉鎖状態となっていた。しかし、全国からの激励の寄付が1千万円を超え、ついに、今年4月21日に営業再開した。再開はしたものの、荷物を預けてくれる取引客はなかなか戻ってこず、倉庫は今もガラガラ状態。それならば、お客を待っていないで、こちらから仕掛けようということで、今週から通信販売を開始した。

最初の取り扱い商品は、兵庫県南光町の、地元の野菜を使ったアイスクリームだ。西宮冷蔵としては、とにかく《安心な食品》にこだわりたい、という水谷社長の方針に従って、これが第1号商品となった。先日、製造元の『ジェラートさなえ』というお店に、野菜生産農家の人達に集まってもらった会合で、水谷社長の息子・甲太郎さんが挨拶をした。

甲太郎: 今日は、お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。オヤジのほうから、ここの『ジェラートさなえ』さんのアイスはおいしいから食べてみろと言われ、最近、初めて食べました。食べたらホント旨くて、このアイスで何かできるんじゃないのかな、我々のたくさんの支援者の方々に、恩返しというか、このアイスを食べさせてあげたいなと思いました。インターネットで販売していこうと思っています。現在、アイスの予約も殺到中でいいスタートが切れたなーと思っています。全国にむけて旋風を巻き起こしたいと思っていますので、ご協力のほう宜しくお願いいたします。今日はありがとうございました。(拍手)

甲太郎さんは、会社が潰れた後、通っていた大学を辞めて、父親を手伝い、営業なども同行している。また、後で登場する娘の真麻さんも、中卒で今、高校受験勉強をしながら、父親と一緒に動いている。一家3人、揃いの『大逆転』と筆文字で書かれたTシャツを着ているが、これは、単に本人たちの意気込みだけでなく、通販のブランド名でもある。水谷社長は、雪印のような大企業に頼って、そこの言うことを聞かざるを得ないような構図が、ああいう事件を起こしてしまったと振り返る。だからこそ、これからは、沢山の良心的な中小企業と、納得のいく関係を作っていきたいのだそうだ。

水谷:
雪印の事件に遭遇する直前は、約100社のお得意先がおられた。それを将来300社まで拡大させたい。ということは1社の重みを3分の1にまで軽減させていく。何故そうしなければいけないかというと、これからは、“こだわりの冷蔵庫屋”でありたいし、そしてお客様も、“こだわりのお客様”であって頂きたいし。路地一本奥へ入った所の小さな町工場だけども、食べて安心、美味しい“こだわりの商品”を一生懸命お作りになっておられる所を探し出して、開拓して行きたいですね。大きく言えば、日本を担って立ってくれる子供の《肉体作り》を醸し出す食べ物。そういう責任感を持って、お互いその食品の流通に携わろう、と。これは楽しいよね。

「300社まで拡大させたい」と非常に前向きだが、倉庫はガラガラという現実。一時は電気代滞納で電気も止められ、一家で真っ暗な中で、ランプの明りで暮らさざるを得ないくらい追い込まれていた。今回、自宅で、2年ぶりに動き出したクーラーの音をバックに、甲太郎君・真麻さんに聞いた。

−去年の夏はしんどかったですか?

甲太郎: しんどかったです。暑かったです。でも今はもう、全然違います。

−真麻さん、去年、もういやだと思うことはなかったですか、夏は?

真麻:
毎日いやでした。

−なんとかしてよ、とかお父さんに言ってました?

真麻:
別に言わなくても、できるだけの事はしてくれたんで・・・。

−例えば?

真麻:
ランプ買ってきたり、団扇で扇いだりしていました。

−会社が再び始まってから、なんか変わりました?

甲太郎: 変わりました。テレビとか見られますし、風呂もここで普通に入れますから。
真麻:
お金遣いがちょっとだけ荒くなった。

−ということは、去年は何か買いたくても我慢していた?

真麻:
はい。してました。

−じゃあ、貯金は無し?

真麻:
いや、(毎月)1万円している、うん。

−偉いもんじゃないですか、父親より。

水谷:
そういう点ではね。父親として、僕は最低の部類だと思うし、社長としても失格やと思うし、一言で言うなら、この宇宙で最低のオスは自分であるかもわからんなと思うわけでね・・・。
真麻:
いや、そういうことないと思う。合格。

−合格ですって。

水谷:
また小遣いをせしめおって・・・。

−世の中の“権力と戦う男・水谷”というイメージと、自分が知っているお父さんと、何かギャップはあります?

甲太郎: 基本的には一緒やと思います。凄いと思います。

−じゃ、目標ですか?

甲太郎: はい。

水谷さんは、「みんなで1つのランプに向かって寄り集まるより仕方が無かった。停電したおかけで家族の結束力が強まった」と語っていた。確かに、結束力は感じるが、とにかく、まだ経営が安定していない。結束力だけでは食べていけないわけで、一家の暮らしを支えているのは、全国からの寄付金だ。その寄付をしてくれる人たちの《思い》が、今の水谷社長を支えている。

水谷:
事件を境に何が変わったかというと、自分自身の中では《失う物の無い者の強味》を知った事。だから、もう何も怖い物あらへん。つい数年前までなら、例えば、会社が自転車操業状態であったら、「組織を守らないかん、社員を守らないかん」と、シャカリキになって仕事を取っていたであろうと想像するけども、そこの中には、モラルも正義も糞も無いわね。

それで、一旦全滅、玉砕して何もかも失った。そういう中で、多くの支援者の方々の熱き思いに支えられて、今日に来た。じゃあ、その支援者のお一人お一人はどのような思いで支援をして下さっているのか、と想像した場合に、「何が何でも生き延びよ。平気で人なんか裏切っても、まず生き延びよ。」と仰っておられるのか、それとも、「この金は、どぶに捨てたと思って、支援している。究極の社会正義の確立のために、この狂った世の中に対して、やるだけのことはやってみてくれ。」という思いが蓄積されているのか。僕は後者だと信じているからね。そしたら、その思いを踏みにじるわけにはいかないからね。

−オセロゲームで、1コマずつ、黒を白に変えていくような…。

水谷:
そうそうそう。それで、最後の1枚でまた大逆転されるかも知れません。「よし、殆ど9分9厘勝利や」という時に、最後の一手を向こうがパチッとやったら、パタパタパタッと裏返って、「やられたー!」って。それもまた、人生やからね。

水谷社長は、組織防衛に走った雪印側の考え方も、良く分かっている。出資者が《儲け》の実現を期待して金を出して、それに応えようと努力するのが、普通の会社経営者。基本形は、水谷社長も同じである。ただ、出資者が皆《儲け》ではなくて、《正義》の実現を期待してお金を出しているから、それに応えようと努力している―――という構図が見える。

新展開の通信販売の第1号商品であるアイスクリーム製造元の『ジェラートさなえ』での、冒頭にご紹介した会合の後、一家3人に伺った。

水谷:
これから、我々、西宮冷蔵が向かう先は、どこか。「西宮冷蔵で保管されて、西宮冷蔵から市場へ流れていく商品は、《食の安全》に直結する、というブランドを作ってくれ」との支援者の多くの声を受けたわけです。それを実践していくにあたって、地元で採れた産物を利用して造っておられる、このおいしいアイスクリームは、すぐ頭に浮かびました。この商品を、“西宮冷蔵発、食の安全空間”というイメージに重ねて、「西宮冷蔵の再建は、今まさに始まったぞ」ということを発信できたらなと、思う今日が第1歩ですから。

−この通信販売プロジェクト、行けそうですか?

甲太郎: 行けると思います。ほんまに美味しいんで。

−これは西宮冷蔵を救いますか?

甲太郎: はい。そう思ってやってます。

−真麻さんは、いつもこういう活動には一緒に来られるんですか?

真麻:
はい。

−一緒について廻っているのはなぜですか?

真麻:
社会勉強のため、みたいな…。

−どんなことが学べていますか?

真麻:
人助け・・・。

−人助けというのは、誰が誰を助けているのですか?

真麻:
自分達も支援者の方に助けられているし、これからは自分たちが、支援者の方に恩返しする。

−それが、今始まるところ?

真麻:
はい

−かっこいいお返事ですねぇ!

水谷:
グー!100点!オヤジよりええぞ!

本当に固く結ばれた家族である。金髪で、眉毛も描いているこの娘の発言に、お父さんはホロリとして泣きそうになり、大急ぎで照れ隠しで、「グー!」とおどけていた。

「西宮冷蔵を経由したものなら安全だ」というブランドイメージを確立していこうとしているこの企業戦略は、あの事件をくぐり抜けた再生の仕方としては、一番良い道筋だと思う。

通信販売の問合せ先は―――
西宮冷蔵 電話番号:079−835−1234
FAX:079−835−1237
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