画期的映画『アップルシード』今日封切!

放送日:2004/4/17

今日(4月17日)から、世界中を驚愕させるだろう真新しい日本映画『アップルシード』が公開される。今回は、そのプロデューサー・曽利文彦さんに、お話を伺おう。

……あらすじ……
2131年、世界を壊滅寸前に追い込んで大戦争が終わった後、生き残った人間たちが理想都市オリュンポスを作る。もう争いを繰り返さないよう、人口の半分は、怒りや憎しみなどの感情を持たないように制御されたクローン人間「バイオロイド」に。しかしそこでも結局、人間は懲りずに「バイオロイド」排除の戦いを始めてしまう。果たして人間は、この地球上に生き残るべき種なのか―――

『アップルシード』 『アップルシード』

この壮大なテーマの対立の中で、主人公2人のラブ・ストーリーが展開される。既に色々なメディアでも紹介されているが、私も試写会を見て、これは採り上げずにはいられない。古典的なアニメーションの技とコンピューターのテクノロジーが合体した、新しい映像表現。いわば“感情移入のできるCG映画”がついに実現したのだ。

−コンピューター・グラフィックスというと、リアルなのになぜか感情移入しにくいというイメージがありましたが…

曽利:
CGで人間を作ると、表面がツルッとしたお人形さんのような、なんとなく冷たい印象になってしまいます。それはCGをやる者の悩みでもあるんですね。人間の描写をリアルに追求した映画等もあるんですけれども、やればやるほど、実物との差が逆に目立ってしまったり、グラフィックにばかり気を取られて映画のストーリーがおろそかになってしまったり。感情移入しにくい、何かそこにフィルターのような物がかかってしまうという事が、ずいぶん長く言われてきたんです。
だから今回、そのハードルを飛び越えるために、我々が子どもの頃から慣れ親しんできたアニメーションを、CGの中に持ち込みました。なるべくお客さんに優しく、まずキャラクターに気持ちを入れて、そこから映画に入ってきていただくという手法を採りました。

CGに比べてアニメは当然リアリティがないはずなのに、慣れている我々は逆にその方が感情移入できるのだ。そのCGとアニメの合体のため、この映画の全編に使われているのが、≪トゥーン・シェイダー≫という技術だ。

曽利:
技術的にはもう10年くらい前から研究されていて、ゲームの世界等では少しずつ使われ始めてはいるんですが、長編映画で全編使ったのは今回が初めてです。
例えば『トイ・ストーリー』みたいなCG映画だと、物体に輪郭線がないんですね。人間の顔は特にそうで、鼻とか頬とかを描く時も、黒い線が入っていない。そこでトゥーン・シェイダーを使うと、その輪郭線が出てくるんです。また、アニメーションでは、例えば顔の色を2〜3色という少ない色数で塗り分けていますので、そういった形になるように作られたソフトウエアが、トゥーン・シェイダーなんです。
『アップルシード』

−わざと漫画っぽく戻す作業?

曽利:
そうです。輪郭線を付ける事で、アニメのような雰囲気に見えてくると。

このアニメの雰囲気を持った部分と、リアルなCGとの混ぜ具合が本当に難しい。例えば、私が試写を観た中では、主人公が疲れてベッドに仰向けに倒れこむシーンで、シーツのしわがあまりにもリアルに作られていて、さすがにアニメ風の人間との共存には違和感が残った。

曽利:
経験というのがかなり刷り込まれていると思うんですね。「アニメーションというのはこういう物だ」という潜在意識の中で判断してしまうので、慣れが必要だとは思うんです。
今回、特に背景にはリアリティのあるものを持ってきています。これには色々理由があるんですが、試行錯誤が結構あってですね。普通のアニメは、1秒間に24コマという映画のコマ数の中で、動いているのは8コマとか12コマしかないんです。それが、CGの場合はフルモーションといって、24コマ全てに動きがつきます。すると背景もそれに合わせて、かなり動きをはっきりさせないといけない。だからシーツのしわなんかも、コマを飛ばすとアニメ風にはなるんですけれども、フルモーションになると、なかなかリアルに見えてきて、今までとは違う見え方をすると。これは本当に、慣れの世界だと思います。

また、全編CGで実写シーンは全く無いはずなのに、ラストのエンドロールでは、役者さんの名が沢山並んでいる。肩書きは「モーション・アクター」という事だが―――

曽利:
今回は≪モーション・キャプチャー≫という技術を使っています。今までのアニメは、アニメーターの方がイマジネーションの中でお芝居を作り上げていたんですが、今回は、本当の役者さんが演技をして、映画を撮るのと同じように演出をしています。役者さん4人なり5人なりの動きを、直接コンピューターの中に採り込むという事ができるんですね。

−身体中にセンサーを付けて動く、というやつですか?

曽利:
そうです。センサーによって動きのデータを採り込みます。今までは、例えばゲームで言うと、1人の蹴る・殴るとかの≪動作≫を採ってたんですけれども、今は複数の人間の動きを同時に採ることが出来るので、≪芝居≫そのものを、コンピューター・データとして採り込む事が出来るんですね。

「誰かが言った事に対して相手がどれくらいの間を持って答えるか」といった、コンピューターの計算でははじき出せない世界が、これによって表現可能となっている。

−しかし制作中には、演じている役者さん達にも、横で演出をしている曽利さん達にも、完成状態が分からないわけですよね?

曽利:
そうですね。自分自身にも未知の世界だったので、本当にどういう仕上がりになるか、ドキドキしながらやってたんですけれども(笑)。
特に主人公は、3人の役者さんが演じています。普通の演技の部分、アクションの部分、顔の表情と声の3パートに分かれているんです。

私も制作風景のビデオを見せてもらったが、顔に20数個のセンサーを取り付けて表情を取り込む様子などは驚きだった。

曽利:
 ≪フェイス・キャプチャー≫といって、顔の表情そのものをコンピューターに取り込めるので。今までのアニメーションだと、口の動きに合わせて頬を動かすのが難しかったんですが、今回はそこまで動いていますし、口自体も、普通はパクパク動いているんですが、今回は母音に合わせてかなり正確に動いています。加えて、セリフのない無言劇の部分の表現力も上がっていますので、そういったところも観ていただければと思います。


顔中に小さなセンサーをつけた役者さん キャラクターの微妙な表情も表現されている
顔中に小さなセンサーをつけた役者さん キャラクターの微妙な表情も表現されている

−その合成の結果、主人公が主演女優賞を贈られるとしたら、誰が受け取ることになるんでしょうね?

曽利:
そうですねえ(笑)。出来れば3人の女優さんが、CGを作ったアニメーターの方も一緒に、壇上に上ったりすると非常に面白いですよね。

これらの≪アニメーションとCGの融合≫以外に、単にCGのリアル感という点でも、今までの映像表現を上回っている。私が特に驚いたのは、水の表現。水が本当に水っぽいのだ。しかしそれでも、例えば砂浜に寄せた波が引いて行く時の水際の感じ等には、まだ課題を感じた。

−コンピューターにそう簡単に真似させない、自然はさすがに奥深いですね。

曽利:
本当に、自然の表現っていくらでも追求できますね。だんだん表現力が上がってはきてるんですが、まだまだだな、という所もたくさんあります。今回みたいな(フルCGの)映画の場合は、逆に歩留まりが効かせられるというか、「これくらいでいい」という見切りがつけられるんですが、これが実写映画(でのCG効果)になると、本当にどこまでいっても、本物に近づくのはなかなか難しいなという気はします。
デジタルの世界では特に、プロデューサーやディレクターの決断力が要りますね。どこで見切りをつけるかという。技術的に色々な事が可能になって来て、後からいくらでも手を加える事が出来るシステムになって来ているので、誰かがきちんと決めないと、いつまで経っても終わらないという事になりますね。

−しかし今回は、出来栄えの割には随分、時間も費用も人数もかかっていないんですよね?

曽利:
そうですね。今回、制作期間は1年、スタッフは一番多い時で100名ぐらいだったんですが、これはフルCGムービーだと驚異的に速いという事になります。普通なら倍以上かかってもおかしくないんですが、これだけのスピードで出来たという事は、技術力が上がっているし、日本の若いクリエイターの底力が随分ついて来たという気がしますね。

−海外試写ももう始まっているそうですが、その反響は?

曽利:
テスト試写という形で何回か、業界の方を中心に見せたんですが、反響がすごく良かったので、ほっとしてます。

−ハリウッドで「我々にはできない」と言われたそうですが…

曽利:
技術的には出来ないレベルではないんですけれども、やっぱりそのセンスですね。例えばロボットなりキャラクターなりのデザインのセンスなんかは、ハリウッドには無いものだと、彼らも直感で分かるんですね。しかも1年間という制作期間を考えて、「ハリウッドでは、このスピードでこれだけのものは作れないでしょう」という意見もありました。

私と一緒に試写会に行ったサンプラザ中野さんは、「俺は日本人である事が誇りになった」とつぶやいていた。

更に見所は映像だけではない。音楽にも、世界的なアーティストが参加しているのだ。

曽利:
音楽に関しては、日本のBoom Boom Satellitesがメインを務めてくれています。そのBoom Boom Satellitesを中心に、世界中のアーティストに集まってもらいたかったんですね。だから冒頭の6分間の映像を最初に仕上げて、そのテープを世界中に配ったんです。そして、映像に反応して「これなら」と思ってくれる人達に集まってもらったんですが、こちらがビックリするような大物が自ら「参加したい」と言ってくれて。それは本当に感激しました。

さてここまで、新作映画『アップルシード』プロデューサーとしての曽利さんに話を伺ってきたが、曽利さんにはもう一つ別の顔もある。

−実は、TBSの社員なんですよね?

曽利:
そうです。普段は、本当にただのサラリーマンなので(笑)。TBSのCG部というところで、主にドラマ等のCGを作るのがメインの仕事です。 ただ、TBSにはi-campという実験室的なセクションがありまして、そこに企画を出して色々なことをやっているんです。今回はデジタル・アニメーションの企画という事で、結果としてアップルシードという映画が仕上がったと。

サラリーマンが世界を震撼させる事が出来る、という証明をしてもらった。作り手が前向きだから、出来た作品も本当に前向きだ。イラク情勢が緊迫している今だからこそ、この問題提起と希望に満ちた平和共存へのメッセージを、是非観ていただきたい。

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