注目の市民メディア『ピースボートTV』船出!

放送日:2004/4/10

現在、私は南シナ海の洋上にいる。ピースボートに乗り込み、ベトナムに向かっている真っ最中だ。目的は、新しい市民メディア『ピースボートTV』の開局に立ち会って手伝う事。ピースボート共同代表・中原大弐さんと、今回初めて乗船する学生の山崎洋志さんに聞く。

−今回のピースボートの行程は?

中原:
4月4日から7月11日まで93日をかけて、4万キロを航海する地球1周クルーズです。3万トンの大型客船を使って、17カ国の国々をめぐっていく、国際交流をテーマとする船旅です。
寄港地は、いろいろ行くんですけど、ベトナム、インド、ケニア、そしてスエズ運河を通ってヨルダンへ。更に地中海から大西洋を渡ってアメリカ合衆国、ジャマイカ、更にパナマ運河から、最後はアラスカの氷河を見ていこうと。

−何人くらいが参加するんですか?

中原:
今回は、地球1周する人が、約650人。加えて、部分部分で乗る人が100人くらいなので、日本人の参加者だけで約750人という事になります。それに、海外の若者も乗ってきたりしますので、参加者800人ってところです。そのうち、10代・20代の若い人が約半分。次に多いのは、60代以上の、いわゆるリタイヤ後の人達です。
みんな色々な目的を持って参加するんですけど、若い人の中では、色んな国でボランティアをやりたいとか、国際交流したいとか、自分の視野を広げたいっていう人もいるし。逆に年配の人では、世界遺産を見てみたいとか、そういう観光の意味で乗る人もたくさんいます。

−リピーターは多いんですか?

中原:
多いですね。大体、地球1周する人の1割から2割くらい、だから大体100人くらいが、地球1周を既に経験していて、また乗りたいというリピーターです。
ピースボートには、ボランティア・スタッフ割引という面白い特典がありまして。それは、地球1周の船を出すためには様々な仕事があるんですけど、その仕事を手伝ってもらうと、船賃が割引になるんですよ。地球1周するには、138万円という金額がかかってしまうんですけど、ボランティアで仕事をすることによって、割引が適用されていくと。だから、お金がある奴だけが行けるわけじゃなくて、行きたいっていう思いがあれば、ボランティアをやって安く行けると。それが、参加者のうち5割が若者っていう特徴を生んでいるのかなと思います。

山崎君はその最たる例で、割引どころかタダで乗船する代わりに、テレビ専従スタッフとして、みっちりと仕事をする。私も今回、TV開局の最初の1週間、立ち上げの一番バタバタする部分をお手伝いするという使命を帯びて乗船するので、実は船賃を払わなくて済むのだ。

中原:
ピースボートは、今歴史の現場になっている所に遭遇できるんですね。そういう時に、そこで起きている事をカメラに収めていく。それを、船に乗っている人をまず対象に、船内テレビ局で伝えていこう、という試みです。
船の上っていうのは、携帯が通じない、テレビもない、ラジオもない。だから、情報がまったくないんですね(今でこそインターネットが通じますけど)。だから、参加者の人達がどういう風に日々の生活をしてるかっていうと、船内新聞を読んでるんです。「明日はベトナムです、その説明会が何時何分にありますよ」というのを日々作っています。3万トンの船っていうのは、船内新聞がなかったら、どこで何をやってるかわからないくらい大きいものなんですよね。
だからその中で、今回は全船室に1つずつ、テレビを置きます。朝8時になってスイッチをつけてもらったら、乗船客800人に向けたコミュニティ番組がスタートする、という試みなんです。

「試み」とはいえ、800人という立派な小社会で、約束通り定刻に何も映らなかったらすぐ相手にされなくなるので、私が最初の1週間だけバックアップをしようというわけだ。

−山崎君が参加した経緯は?

山崎:
中原さんがそういう企画をした時に、メディアとかに興味がある若者を募集してて、面接、企画書、過去の作品など選考があった上で、無事受かったんです。テレビ局をやるにあたって、スタッフは乗船客から有志を集めているんですけど、中心となる3人だけはある程度技術がある人をという事で、僕と、もう一人同じく学生の方と、25歳の方と3人で、コアメンバーを務める事になりました。
中原:
これは、実はドタバタで思いついた企画だったので、メンバーが集まるか心配だったんですが、実際はちょろちょろっとメールを流しただけで40人近い応募があって、選考に物凄く苦労しました。改めて、そういう事をやりたい若者が多いんだなっていうのをつくずく感じましたね。

地球1周するだけの期間を空けなくなくてはいけないのに、これだけの人の手が挙がるのには驚きだ。
今回初めてテレビ局として形を成すが、ピースボートは今までも当然、北方領土とか北朝鮮とか、色々な所へ行ってビデオを回している。眠れる映像資源がたくさんあるわけだ。

中原:
ピースボートでは国際交流をテーマにしているわけですよね。やっぱり僕らは単に色んなところに行くわけじゃなくて、僕らを待ち受けている現地の人々がいる。そういう人々とのつながりっていうのは、実はすごくニュースを持っている事を発見したんです。また、大手のメディアではお金の問題からも行けないような場所、例えば南極とかガラパゴスとか、そういったところも含めて地球1周するというのは、いろんなニュースを産むんだって。今までも映像をたくさん撮り貯めてきたんですが、それを発表する場がなかったんで、今回そういうのを、毎日ライブで伝えて行こうと。

−そのうち、行く先々のTV局と撮ったものを交換したり、色々な発展形が考えられますね。

中原:
今回は日本人の3人の若者中心でやるんですけど、これに、例えば韓国の若者を3人呼ぶとか、紛争地でビデオ・ジャーナリストをやってる若者を呼ぶとか、そういう事も出来ると思います。特集とかもどんどん作っていいと思うんですよ。その中で使えるようなものがあったら、行き先の国々にプレスリリースをかけて、放送していく。それで、制作者に少しでもいいから収入が入るような形が実現できたら、市民メディアとしては本当に面白い形になるんじゃないかなと思ってます。

世界中のどこの国にも本社を置いていない、海の上を動き回るテレビ局が誕生するわけだ。いずれは内容に応じて、インターネットでも発信していくつもりだという。

−山崎君は、今回の初乗船で、どんなものを撮ってみたい?

山崎:
僕は海外に行く事そのものが初めてなんですよ。周りのピースボートの人達も、僕の友達とかも、海外は「すげーいい」って言うんですけど、じゃあ何がいいのかっていうのがいまいちアバウトで。だから、自分が行って「これが楽しかった!」っていうのをそのまま伝えられるようなものを撮りたいと。
中原:
彼がカメラを片手に、カメラを通して見た地球1周を撮っていくという事です。

2月から先月(3月)にかけては、船の上での開局に備えて、このチームは陸上で練習をしていた。イラク開戦1周年の日には、大規模なデモ行進があったが、そこへデモ参加初体験のピースボートのメンバーがカメラを持って行き、「はじめてのデモ」という作品を作ったりと、新鮮なものを作ろうという模索を重ねた。まだまだ表現は舌足らずなので、どうやったらより見る人に伝わるようになるか、船上でオンエアしながらトレーニングを続けているところだ。

私は1週間で船を降りてしまうが、それっきり放送が止まってしまうような事にならずに、7月には更に成長した面白い番組を蓄積して帰ってくることを期待している。

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