今日「東京ビデオ・フェスティバル」!

放送日:2004/2/14

世界最大の市民ビデオコンテスト・第26回『東京ビデオフェスティバル2004』が、今日(2月14日)クライマックスを迎える。このフェスティバルは、世界36の国や地域から2,881本(内/日本938本)の応募があり、「海外から」が3分の2以上を占める(中国932本、韓国315本など)という、正真正銘の国際的コンテスト。この激戦に初挑戦して、見事70本の佳作の中に選ばれた、湯口麻紀さんと前田兼孝さんにお話を伺う。

湯口:
私は立教大学の3年生です。『NBアカデミア』という、大学生が身近なニュースをビデオで取材して、インターネット放送で発信する団体で活動しています。ちょうど最近、そのためのホームページが立ち上がったところです。
前田:
私は学習塾で講師をしています。『東京視点』という団体に所属していまして、中国人留学生達と映像を作って、インターネットで映像を流しています。

先週土曜から、コンテスト主催者である「日本ビクター」の新橋ビル1Fで、入賞100作品を自由に視聴できる個別ブースが設置されてきた。いよいよ最終日の今日は、優秀作品賞30本の中から「大賞」などが選ばれ、発表・表彰される。このコンテストは、プロ、アマ、個人、グループ、国籍、年齢を問わず、誰でも応募出来るオープンイベント。テーマも題材も、20分以内のビデオ作品であれば自由なので、社会派リポート、ドラマ、映像アート等、様々なジャンルの作品が集まっている。

湯口:
私は、仲良しのフランス人留学生のジュリーが、もうすぐフランスへ帰国してしまうという時に、彼女の日本での思い出を撮りました。テーマは、≪彼女の伝えたい日本≫で、タイトルは『ジュリー東京で迷子』といいます。これは本人が考えたタイトルです。
前田:
飼い主に捨てられた犬がその後どうなるか、という事を追いました。タイトルは『Dog Life』です。犬の生活とか生命とか、そういう意味なんですけど。

では、その作品の一部を、まずは、『ジュリー東京で迷子』からご紹介しよう。全部で12分くらいの作品の中には、ジュリーが自分で撮影しながらしゃべっている場面と、湯口さんがジュリーを撮りながら二人で会話している場面とがある。日仏2ヶ国語の喋りがかわりばんこに出てきて、他方の字幕がつく形で進行する。 まず、ジュリーが自分の下宿の部屋の中を撮りながら、日本語で解説を喋っているシーン。

(作品より)---------------------------------------------------------------
ジュリー: 日本の事知らないフランス人に、ジュリーが見た日本の事を、伝えたいと思う。イエーイ
[たくさんあるCD] これは、日本で買った一部分ですけど。モーニング娘。もあります。すいませーん…(笑)。 最近特に好きな歌手は、椎名林檎です。
[テレビ画面] 好きな番組です。『こたえてちょーだい!』。「嫁・姑」とか、「二重生活」とか、日本の社会について、色々学びました。
[近所の風景] 家の近くに、畑があります。都会なのに畑があるっていうのは、本当に珍しいと思います。パリにはあり得ないものです。
『ジュリー東京で迷子』
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−これは、彼女がまったく好きなように撮ってるの?

湯口:
はじめは私がジュリーを撮ってたんですけど、そのうちに彼女にカメラを渡して、彼女自身にも撮ってもらうように、作風を変えていって。共同制作という風にしました。

金髪美女のジュリーが、控え目にモソモソ喋るミスマッチ感が、なんとも面白い。
次は、湯口さんが撮影しながら、会話で進行していくシーン。舞台は、2人が一緒に通っている立教大学の学食と、池袋の街中だ。

(作品より)---------------------------------------------------------------
湯口: なんで日本の学食が好きなの?
ジュリー: 安いから。立教の食堂の雰囲気がいいから。
湯口: 日本の学食とフランスの学食は違う?
ジュリー: うん。違う。日本の方が種類があって、毎日違う食べ物が食べれる。
湯口: 学食のメニューで一番好きなのは何ですか。
ジュリー: 唐揚げ丼。(学食のおばさんから唐揚げ丼を受け取りながら)大好きです☆
湯口: 街を歩いててさぁ、ピーコさんみたいに、ファッション・チェックするの?
ジュリー: うん。人を見るのが大好き。
湯口: ピーコさん(笑)、このファッションどう? これダメ? これおしゃれ?
ジュリー: (フランス語で)びっくりしたこと… 日本にはルイ・ヴィトンのバックを持った人がたくさん歩いている☆
湯口: 後でルイ・ヴィトン行ってみようか。(笑)フランスでさぁ、ヴィトンのお店入った事ある?
ジュリー: ない。
湯口: 初めて?
ジュリー: うん。
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−この後、実際にヴィトンのお店に行ったの?

湯口:
はい、行きました。ジュリーいわく、「フランス人はみんなヴィトンのお店なんか行かない」らしくて。だからジュリーは、ヴィトンに入るのがホントに初めての経験で、お店を出てから感想を聞いたら、「若い男の子や女の子が来ててビックリした」って言ってました。「彼女にあんなに高いバッグを買わされるなんて、日本の男の子はかわいそう」って。
その後は鎌倉に行って、ジュリーが大好きな大仏を見て、「ああ、癒される〜」って言ったりとか。後は、彼女はカラオケが本当に好きなので、カラオケに行って、浜崎あゆみの歌と、フランス語の歌を歌いまくったりしました。

どうって事ないシーンばかりなのだが、見る側にとっては、持っていた先入観(「フランス人だったら…」といったステレオ・タイプ)を覆されたりしてしまう。こういう部分は、市民メディアの真骨頂だろう。

−これは、湯口さんの何本目の作品? 自己採点では何点くらいですか?

湯口:
3本目です。自己採点は、80点。後の20点は、フランスに実際行って、彼女の家族に感想を聞いてみないとわからないな、と。でもジュリーがすごく喜んでくれたし、ただの友達以上に、良い思い出が一杯残ったので、80点です。

−ジュリーはもう、この作品を携えて、フランスに帰っちゃったんですよね?

湯口:
帰っちゃいました。そしてビデオカメラを買っちゃいました(笑)。 来年(の東京ビデオフェスティバルで)はライバルですね。

今年の応募作は、女性の作品が全体の4分の1を占めているが、湯口さんの作品もその1本。いかにも女の子同士の軽快なおしゃべりのリズムが生かされていて、楽しい。

片や、対照的に、無骨な男の骨太リポートという感じで迫るのが、前田さんの『Dog Life』。全8分の中から、まずは、捨て犬が収容され処分されるまで保管される動物愛護センターでの取材シーンをご紹介する。

(作品より)---------------------------------------------------------------
『Dog Life』[犬の声]
ナレーション(前田):
収容されている動物は、ここで1週間を過ごす。檻が6つあり、1日ごとに隣に移される。7日目を迎えた動物は、処分される。
センター職員:
こちらでは“致死処分”という風に呼んでいます。炭酸ガスによる処分方法をとっているんですけれども…
[悲しそうな鳴き声]
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−こういう所って、動物愛護団体への配慮とかがあって、けっこう取材許可で難航しませんでした?

前田:
愛護センターの方は、「どういう文脈で使うのか」とか「どういう取材なのか」をすごく神経質に聞かれて大変でしたけど、取材の受け容れ自体はOKでした。むしろ、動物愛護団体とかの方が取材許可がとれなくて。

市民メディアで作っている人に共通するのが、≪自分が何者かの説明が難しい≫というハードルだ。例えば「TBSです」と名乗って行けば何者かは明らかなのだが、市民メディアはそうはいかない。

前田:
“うさん臭い”ってやっぱり思われるんですよね。まずはメールを送って、電話して、実際に会って、その時には撮影しないで、資料を全部渡して「こういう団体なんです」って見てもらって。それから、「今度よければ撮影したいんですけど」って。話がなかなか進まなくて、相手の方も、こちらの資料を受けて「どうしようか」ってミーティングしたりとかしていました。

しかし、「TBSです」という看板に頼らず、作品の主旨を完全に理解し合ってからではないと取材が始められないという事が、逆に取材のクオリティを高めるきっかけにもなる。

作品中ではこの後、処分される前に新しい飼い主が決まって動物愛護センターから無事引き取られて行く犬達のケースへ、場面が移っていく。犬を一時的に預かって新しい飼い主をあっせんする活動をしている市民団体の話になるが、その団体も直接は紹介してもらえず、前田さんが自分でインターネットを使って調べているシーン(検索中のPCの画面など)がそのまま登場する。立ち往生しながらも自分で調べていく、そのプロセスも作品の一部となっているわけだ。

(作品より)---------------------------------------------------------------
ナレーション: 「では、その団体の名前は?」と聞いたが、「ここは行政の施設なので」という事で、教えてもらえなかった。ネットで調べる事にした。
[PC画面…検索でヒットした市民団体のHP] この会は、保健所から犬を預かり、新しい飼い主を探している。メンバーである木村さんは、2匹の犬を預かっている。
木村さん: これはもう、捨てられてから3ヶ月くらい経つと思います。マルチーズです。名前はルームといいます。ルーム、お座りして。いい子。…ねんねしちゃうの?
ナレーション: この犬もしつけがよく出来ている。可愛がられていた時期があったという事だ。
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−この作品で、一番伝えたかった事は?

前田:
はじめは、「捨てられた犬は処分される」っていう部分に注目していたんですけれど、実際に愛護センターで話を聞いたら、「処分される犬は収容される犬の半分」という事が分かりました。「じゃあ、助かった動物達はどうなるのか」っていう方に興味が移っていって、そこを追いかけるようになりました。

−これが、前田さんにとっては何本目の作品ですか? 自己採点は?

前田:
これは1本目です。出来た当初は、自分の中で評価が良かったんですけど、時間が経つと評価が下がってきちゃいましたね。作った時は、誰かの意見を聞く余裕がなかったんです。コンテストの応募に間に合わせるために、「とりあえず作っとこう」って作って、送って。その後でみんなに見せて、反応やアドバイスをもらったんですけど、やっぱりみんないい事言ってくれるんですよね。それを元に作り変えていくと、この時点で作ったものが、全然だめに思えるようになっちゃって(苦笑)。

コンテストでの審査に限らず、『東京視点』のグループの中で、既に切磋琢磨が行われているのだ。

こうした市民の思いが詰まったユニークな作品が、1978年の第1回から積もり積もって、応募作品数は累積で約4万本にも上る。
 今年の場合、作者のうち10代が1割強、20代が4割弱、この2つの年代で全体のちょうど半分。30〜40〜50代と徐々に減って、60代で再び増えて、全体の1割。70代以上も、6%いる。今や市民メディアのうねりは、全ての年齢層に広がっているのである。

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