中学生が作ったドキュメンタリー映画

放送日:2003/10/11

明後日(10月13日)まで、川崎市の新百合ヶ丘駅前で、「KAWASAKIしんゆり映画祭」が行われている。川崎市が主催、地元の日本映画学校などが共催する、今年で9回目のイベントだ。その中の大変おもしろい催しの一つ、「ジュニア映画制作ワークショップ」の発表会が、この前の日曜日(10月5日)に行われた。このワークショップは、地元の中学生達が夏休みに映画を作るというもの。映画学校の先生や学生、市民スタッフの手伝いはあるが、テーマ設定から撮影・編集まで、基本的に子供たちが中心になって取組んだ。出来上がって市民の前で上映された、見事な出来栄えの3本の作品に、今回は眼をツケる。

【作品1:宇宙のアンテナ・ホトマル】
「ホトマル」というのは、去年ノーベル賞をとった小柴昌俊先生が研究に使った「スーパーカミオカンデ」の巨大水槽の内側にビッシリ並んでいる、巨大な電球のような物だ。このホトマルが、超新星爆発で地球に飛んできたニュートリノをキャッチしたことで、小柴先生はノーベル賞を受賞したわけだ。
この科学的な難しい題材を、中学生がどのように映像リポートしたのか、ご紹介しよう。

中学生の作品より――――――――――――――――
ナレーション: 僕達が泊まった部屋は、以前、小柴さんが泊まっていた部屋です。
(洞窟内を走るような車の反響音)僕達は、洞窟に入るにつれ、不安と期待で一杯でした。中に入っていくと、湿気で体がジメジメしてきて、僕を一層不安にさせました。逆にカミオカンデに近づいていくと、僕の「早く見たい」という気持ちも、膨らんでいきました。
(トロッコが走る轟音)これは、鉱山のために、今でも使われているトロッコです。乗ってみると、思ったよりスピードが速く、スリルがありました。
<現場での会話>
カミオカンデ職員:これをね、ある機械に通して、超純水っていう混じり気のない水に変えて、スーパーカミオカンデの中に入れる。
中学生リポーター:じゃあ大事な水!
カミオカンデ職員:ここが選ばれた理由の一つは、湧き水が豊富というのもあるの。
ナレーション:僕達の足元には、5万トンもの超純水が満たされた、スーパーカミオカンデがあります。その天井はベコンベコンしていました。

こうして現地を取材した上で、あの小柴教授ご本人にも直接インタビューをしている。この中学生の質問に答える小柴さんの≪言葉≫や≪表情≫が、いつもメディアに登場する時とは明らかに違うのだ! いつもはちょっと照れているのか、飄々とした構えを崩さない小柴さんだが、子供たちにはとても真面目に、“夢の卵を持とう”と語りかけていた。

作品より―――――――――――――――
小柴教授: 小柴さん君達中学生に言いたいね。この私自身はいろんな理由で出来なかったけど、「いつかは自分はこれをやりたい」と思う“夢の卵”を3つか4つ持ってる(ように)、と。「この卵はもう孵せるな」とか、「この卵はもう他の卵と取り替えよう」とか、自分でああしたい、こうしたい、という事を抱えていた方がいいですよ。

会場で作品を見た人からは、「小柴さんって、本当に偉い人なんだな、と初めて実感した」という声が聞こえた。この部分の他にも、作品中では、小柴さんの非常に良い喋りが引き出されている。まさに≪中学生だから≫出来た作品だ。
ノーベル賞をとった科学者に直接話を聞きにいくのは、中学生にとってかなりの思い切りが必要だったようだ。東大の広報室に小柴さんへの取材申し込みをするまでは大人スタッフがサポートし、その後、いよいよご本人と初めて電話した時の緊張感を、メンバーは、上映後の舞台挨拶でこんな風に語った。

舞台挨拶より―――――――――――――――
中学生メンバー(男子):最初に電話がつながった時に、小柴さんに「誰ですか?」って言われて。その後「あー、あー、今スケジュール組んでもらってます」って。(笑)ああ、良かったなって思いました。
司会:実際にお会いになって、どんな印象でしたか?
中学生メンバー(女子):別に普通の、おじいちゃんでした。

カメラを持つ事は、ある意味で、大勢の「見たい」と思う人の代表権を得るという事。中学生1人ではなかなか会いに行けないような人にも会いに行けて、様々な経験が出来る。カメラの訪問を受ける側も、中学生が相手なら、素顔で発信ができる。

とはいえ、中学生達は、映像制作には初めてのチャレンジで、制作期間中には戸惑いも多かった。例えばナレーションを決めるのにも、「易しくしよう」とする子と「そんなの幼稚っぽい」という子の対立などもあったそうだ。

インタビュー―――――――――――――――
中学生メンバー:ナレーションね、この二人がケンカするんですよ。
下村:ケンカになって、「やめちゃおう」とは思わなかった?
中学生メンバー:こっちが負けたら、全部堅苦しいナレーションになっちゃうから。

そうした産みの苦しみを乗り越えながらの制作だったわけだ。

【作品2:夏休みのエトセトラ】
中学生の女の子が監督となり、同じ年の友達3人のごく普通の夏休みをそのまま撮った作品。

作品より―――――――――――――――
友人A:結構さ、友達とかは、お父さんと一緒にパンツ洗うのイヤとか言うけど、そういうの私は一切ないかな。
友人B:今一番やりたい事? うーん…。青春? 青春したいかな。 031011_2
監督:(笑)具体例は?
友人B:海行って、夕日に向かって浜辺を突っ走るみたいな。
監督:1人で?
友人B:え、1人で!?(笑) 私ね、毎日が楽しいんだよね。
監督:マジで?
友人B:うん、心広いから、みたいな(笑)。

こういう自然な会話が、睫毛にマスカラをぬったり、部屋でゴロゴロしたりというシーンの中で展開される。ドラマではない現実の『映像』としては、こういった女の子達のありのままの姿は見た事がない人がほとんどだろう。(たとえ両親であっても!)

1本目のカミオカンデのような特別なテーマがないと、見ている人を惹きつけるのはなかなか難しいものだが、ナレーションも一切使わずに、最後まで良いテンポで持っていくセンスは見事だった。
そしてまた、この作品の監督の女の子が語った「制作の狙い」が、とても鋭い所を突いている。

舞台挨拶より―――――――――――――――
司会:この作品は、どうして撮ろうと思ったんですか?
監督:渋谷でたむろってニュースになるような子じゃない、それ以外の子は、中学生の私じゃなきゃ撮れないと思って、こういうのを撮ってみようと思いました。

プロの真似をした「私でも撮れる」ではなく、プロにはできない「私だから撮れる」という、市民メディアの本質、真骨頂を、直感的に掴んでしまっている。

それでもはやり、撮影を始めた当初は、友人達にもカメラに対する構えた姿勢があったという。

インタビュー―――――――――――――――
監督:フレンドリーな撮影だったんで、結構本音で話してくれて。
下村:最初から皆、カメラの前であんなにリラックスしてたの?
監督:初日は全然リラックスしてませんでしたね。やっぱり違和感があって。それでも大きいカメラじゃなくて小型カメラで撮ってたんで、だんだん慣れてくれて、ただ普通に友達同士で喋ってるみたいな感じになりました。

中学生のメンバーは皆、作品の出来にかなりのこだわりを見せたという。冒頭で言及した「映画学校や市民スタッフの手伝い」は、取材相手への最初の説明などの対外的な部分と、高度な編集テクニックやBGM選びなど、いわば中学生の監督の命令で動く“下働き”の部分を担っている。この作品の監督も、大人スタッフへの注文がかなり厳しかった。

インタビュー―――――――――――――――
監督:著作権フリーのCDに、オープニングとエンディングにしたい曲が全然見つからなくて、大学生のスタッフのお友達に、何回も作り直してもらって。ボツばっか言いまくって、2回くらい作り直してもらってやっと、私がOKできるのができましたね。
下村:満足度はどう?
監督:すごい、今日上映して、会場の人達が何回か笑ってくれて、みんな「良かったです」って言ってくれて、本当、嬉しいです。

【作品3:キャッチ】
草野球で自分が普段使っているグローブに目を向けた作品。最年少のグローブ職人やベテラン職人の言葉、更に、グローブを使う側の人間として、あの大投手・村田兆治さんへのインタビューまで行っている。

作品より―――――――――――――――
ナレーション:佐藤大介さん、18歳。大介さんは、この工房で一番若く、働き始めてまだ半年です。今は立派なグローブ職人を目指して、佐久間さんの下で修行しています。
佐藤さん:(職人になろうと思った)きっかけは…野球が好きで、グローブが本当に好きで。職人の仕事に憧れがあったんで、それでやってみようかなって。
佐久間さん:一番必要な事は、使う人の話をよく聞く事。この人はどういうグローブを欲しがっているのかを≪キャッチ≫する事が、大事なことじゃないかなあ。
ナレーション:そんな職人さん達が作ってくれているグローブに、使う人はどのような思いを持っているのか、使う人にとってグローブとはどのような存在なのか、それを知る為に、僕らはある人物に会いに行ったのです。
村田さん
(汗だくで力説):
自分自身が迷った時=ピッチャーやっていれば「打たれたらどうしよう」、守っていれば「捕れなかったらどうしよう」、そういう時に救ってくれるのは、このグラブなんですよ。グラブを一生懸命大切に磨いて、そして捕る時には自分の形を作って。それが、野球を本当に上手くなりたいっていう人の原点ですね。 村田兆治
ナレーション:普段はただの野球の道具として見ていたグローブには、使う人や作る人の思いが込められています。その人達の思いは、言葉は違っていたけど、「グローブが好きだ」という気持ちは、皆同じでした。グローブだけに限らず、様々なものに込められている色々な人達の思いを、≪キャッチ≫できた時、その物は、ただの物としての存在ではなくなり、自分にとって、もっと大切な存在になると、僕らは思います。

タイトルを「グローブ」にせず、職人さんの言葉や締めのナレーションのキーワードでもある「キャッチ」にしたところがニクい!

夏休みをささげた初めての映画作りを終えて、今彼らはこんな事を思っている。

インタビュー―――――――――――――――
下村:何が一番大変だった?
中学生メンバー(男子):全部大変でした。
下村:じゃあもう二度とやりたくない?
中学生メンバー(同):いや、そういう訳じゃない。やっぱり好きでやってるから、そういう大変な事も、楽しいというか。だから、またやりたいと思います。
中学生メンバー(女子):何にも大変じゃなかったです。毎日徹夜してやりたい。超楽しかった。やってる時は辛いかもしれないけど、辛いって思わないんですよ。辛い思いしてでも作りたいです、映画は。

私も今まで、色々な市民メディア団体で、「全面的に自主性に任せて手出しはしない」というスタイルで助言をしてきた。だが、このワークショップのように、積極的に手伝いを添える事で完成度・達成感を高めるというのも1つの道だな、と思った。こうした様々なアプローチで、市民メディアは今後も多彩に展開していくだろう。

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