「うっきーちゃんのテレビ不思議探検」

放送日:2003/09/06

今週から2学期が始まった小学校が多いが、実は総務省が、この夏休み中から、新しいビデオ教材の貸し出しを始めている。
今学期以降、実際にこれを借りて授業を行う動きがどのくらいの学校に拡がっていくのかは未知数だが、今日は、このビデオ教材に目をツケる。

総務省のHPに、3本の新しいビデオ教材が紹介されている。

  • お茶の水女子大学の無藤隆教授(附属小学校長)が監修した、
    「うっきーちゃんのTV不思議探検」
  • 同じく、お茶の水女子大学の、坂元章助教授中心のチームが作った
    「TV(ティーウ゛ィー)ブラザーズのテレビ大冒険」
  • そして、TBSビジョン制作の
    「ストーリーは君次第!ドキュメンタリーの真実」

タイトルから察せられる通り、どれも近頃注目の“メディア・リテラシー”教材だ。最後の1本は、今までも取組みが行なわれていた、高学年向け。

あとの2本は、初めての低学年向け!10歳に届かない幼い子供達に、メディアとの接し方をどう教えたらよいのか、このうちの1本を、具体的に見てみよう。私も制作をお手伝いした、「うっきーちゃんのTV不思議探検」の制作チーム・リーダー、駒谷真美さんにお話を伺う。駒谷さんは現在、お茶の水女子大学大学院の博士課程に所属し、「うっきーちゃん」の監修を務めた無藤先生は駒谷さんの指導教官にあたる。

「うっきーちゃん」については、2年前にも1度、このコーナーでご紹介した。
その時のビデオに続く第2弾が完成し、貸し出しがスタートしたわけだ。

駒谷:
第1弾の時は、下村さんやTBSのi-campのご協力で、小学校3〜4年生向けに作ったんです。今回はプロジェクト・チームを作りまして、下村さんを始め、制作会社のプロの作り手の方、それから現場の小学校の先生、教材番組を作られている専門委員の方とか、皆さんでコラボレートして作りました。

具体的にはどういう内容のビデオなのか。ビデオの中味を、一部ご紹介する。

うっきー: こんにちは、僕うっきー。ねえ、皆は、テレビを見ていて、「あれ、本当はどうなってるのかな?」って不思議に思ったことはない?今から、僕と一緒に、テレビ探検してみようよ! うっきーちゃん
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ビデオの表紙にも載っている緑色の猿の人形、「うっきー」が、このビデオの案内役として、様々な制作現場を覗きに行く。
駒谷:
アニメーションから始まって→アクション→ドラマという感じで、明らかに空想と分かる世界から、より現実に近い世界へ、子供たちと探検していきます。
子供たちも一緒に考えるという事で、うっきーちゃんの訪問記の間に、「はてなタイム」があります。子供たちなりに考えて、うっきーちゃんや現場のお兄さん・お姉さんに手伝ってもらいながら、謎解きをするコーナーです。それから、「やってみよう」というコーナーで、実際にアニメの絵が動く原理等を体験してみるんですね。教室の中で、楽しんでメディア・リテラシーをやりましょうと。

実際の授業は、教室で生徒達がこのビデオを見ながら、「はてなタイム」「やってみよう」のコーナーで先生がビデオを止めて、実習に入るという形になる。

第1コーナー:『アニメの不思議』

このコーナーは、≪動きの不思議≫≪色の不思議≫≪声の不思議≫の順で展開していく。

駒谷:
まず≪動きの不思議≫は、「なぜ絵が動くのか?」って急に言われると、子供達は「あれ?」って思う、そこから始まります。
まず子供達が考えてみて、“コンピュータで動かしてる”っていう子もいるし、“まったくわからない”っていう子もいるんですけれど、子供達なりの答えを出してもらいます。それで、現場のお姉さんに聞いてみると、「こうやって動かすんですよ」と、たくさんの絵をパラパラっと動かして、パラパラマンガの原理を見せてくれると。
それで子供達が、“おもしろそう、やってみたい!”と思ったところで、「やってみよう」のコーナーになるんですね。ビデオとセットになっているガイドブックに、教材として絵をつけてありますので、それで試してみたり。絵の描けるお友達がいたら、どんどん描いてみたり、色を付けてみたり。実際に体験してみるんです。

続いての≪色の不思議≫は、同じ女の子の絵が着色によってどうイメージが変わるか、の実験だ。
≪声の不思議≫では、声優さんによって、同じ女の子の絵がどんなに違うイメージになるかを試している。カナちゃんという女の子が、リックという犬と抱き合うシーンなのだが…

うっきー: じゃ、録音スタジオで入れた声を聞いてみようよ。 カナちゃんとリック
カナちゃん: 「ずっと一緒だよ、リック」(少女の声)
うっきー: うーん、何度観てもいいなあ。
現場のお兄さん: じゃあ、これはどう?
カナちゃん: 「ずっと一緒だよ、リック」(老婆の声)
現場のお兄さん: これはどうかな?
カナちゃん: 「ずっと一緒だよ、リック」(幼児の声)
うっきー: およよ?
絵はみんな同じカナちゃんなのに、おばあさんの声だと、カナちゃんが大人に見えた。反対に、赤ちゃんの声だと、小さいカナちゃんに思えたよ!

映像と一緒に見てみると、声優さんによって本当に違う印象になって、大人の我々でも面白い。また、ここでも、音なしのアニメを画面に流して、教室の子供達が声を入れてみるという実践コーナーがある。

−こうした事を通じて、子供達に何を学ばせるのが、教材としての目的ですか?

駒谷:
アニメっていうのはこういう風に作ることが出来るんだと、気付いて欲しいです。登場人物も作る事が出来て、カナちゃんの性格とか気持ちを、声や動きで表現できる、カナちゃん≪らしさ≫を伝える事ができるんだ、と。子供たちは普段何気なくテレビアニメを見ていますけれど、それは≪作り手のメッセージ≫が込められてるんだよっていう事に気付けるようにする、っていうのが目的です。同時に、実際に体験してみて、子供たちも今度は作り手として、クリエイトの楽しさも知って欲しいです。

カナちゃんは、実在する訳ではなく、作り手が工夫をこらして≪らしさ≫を追求した結果生まれたキャラクターだという事を伝えているのだ。

第2コーナー:『アクションの不思議』

アクション番組の撮影現場で、ヒーローのレーザーマンが、悪役のギロンをパンチで倒すシーンをまず見せる。その後、「ギロンは痛くないの?」と尋ねるうっきーちゃんに、まずヒーローのレーザーマン、次に悪役のギロンが、説明してくれるシーン。





レーザーマン: こういう場面をアクションシーンって言うんだけど、竜巻パンチやレーザー剣は、本当には当たらないように、戦っているフリをしているんだよ。 だから、ギロンは痛くないんだ。
うっきー: ふーん…。でも、本当にパンチをしているように見えるよ?どうやったら、あんな風にできるの?
レーザーマン: それはね、何度も練習しているからなんだよ。その練習を、リハーサルって言うんだよ。
ギロン: こんにちは。僕も普段から、上手に倒れられるように、練習してるんだよ。だから、僕が「やられた!」っていう感じで倒れれば、ヒーローの強さが伝わるでしょ。 ヒーローのレーザーマン
レーザーマン: ギロンが大袈裟に倒れてくれると、「竜巻パンチは凄い」って、TVの前の皆に伝わるんだ。
うっきー: ふう〜ん。悪者のギロンも大変なんだね。パンチされて倒れるフリなんて難しそぉ〜!ふぅーむ。

駒谷:
ここは、“テレビのアクションシーンは、本当の暴力ではない”、虚構なんですよっていうのを気付かせるんですね。生徒の中には、ある程度分かる子もいるんですけれど、全然わからない子もいるんです。「本気でやってる時もある、戦っているフリの時もある」ってごっちゃになっている子もいるので、そこは「違うよ」と言っています。それから、このアクションシーンの最後のまとめで、「本当にパンチしたら楽しくないよね」とうっきーちゃんが言うんですけれど、そこにメッセージを込めています。実際の暴力というのは、言葉の暴力もそうですけど、相手を傷つけるものなんだよ、と。だけど、テレビのアクションというのは真似っこだから違うんだよ、そこに気付いてね、と言っています。

そのメッセージを、お説教ではなく、カラクリを見せる事で楽しく伝えている。
この部分の教室での実践コーナーでは、子供たちが実際にアクションの練習までやってしまう。

駒谷:
絵コンテがあって、リハーサルがあって、監督さんがこうやって指導して、何回も練習をして。パンチする寸前で止めたり、ギリギリでかすめていったりして、怪我をしないようになっているんだ、っていう事が分かってから、子供たちがアクションの真似をする訳ですね。アクションの動き、プロットを重ねていく、≪作る楽しさ≫も学んでもらいます。

それに加えて、このコーナーでは、≪擬音≫の体験もできる。≪ホントは殴ってない→音も後から入れてるんだ!>>と気付かせた後で、「じゃあ、どんな音だとどんな感じになるかな?」と色々入れてみる事ができる。

レーザーマン: 「じゃあ、こんな音だと、どう見える?」
擬音「ポコ、ポコ」「ドテ」
うっきー: うーん? なんか軽くて、そんなに強そうな感じじゃなかったなあ。
レーザーマン: そうだね。じゃあ、2番目のパンチの音は?
擬音「バシッ バシッ」「ドサッ」
うっきー: これが、竜巻パンチ!って感じ。
レーザーマン: そうそう。竜巻パンチは、相手を倒す強いパンチにしたいから、「バシッ」って、大きい強い音をつけたんだよ。
うっきー: パンチは音によって、強さや感じが違って見えたね。なるほど、これがアクションの、≪音の不思議≫なんだね。

第3コーナー:『ドラマの不思議』

ここでも、うっきーちゃんが、撮影現場を訪問する。

うっきー: 皆同じような白い本を持ってるよ。あの本は何?
現場のお兄さん: 台本といって、ドラマのセリフが書いてあるんだよ。
うっきー: セリフって何?
現場のお兄さん: お話の中で、俳優さんが話す言葉だよ。
うっきー: そうか〜。俳優さんは、台本に書いてある通りに喋ってるんだね。
うっきー: 《やってみようタイム》だよ。まさし君の役を、やってみよう!

ここで画面には、音なしのドラマシーンが流れる。ビデオに付いているガイドブックには台本が載っていて、子供たちは台本を元にアテレコが体験できる。

駒谷:
ここでは、アニメやアクションよりも、より現実と見分けがつきにくい、“本当らしく”作っているドラマを教材にしています。過去の調査では、小学校5年生で “主人公の女の人は女優さんだけど、お母さん役の人は、その女優さんのお母さん”だと思っている子がいました。小学校5年生でもそういう事があるので、小学校1年生はもっと混乱しているでしょうね。ドラマに親子が出てくるんですけれど、「これは本当の家族ではないんだよ」と。演技をしているという事を分かってもらう。で、演技というのは難しいけど楽しいよ、という事を分かってもらう為に、≪やってみよう≫のコーナーがあります。

この時期の子供たちというのは、ピアジェの発達理論では、自己中心性という事で、自分自身の事を考えてしまって、他者の視点が持てないんですね。それを、演じる事で、他の人の気持ちが分かる、他の人になり切れる、そういった意味もこめて、実際に演技もやってみよう、という作りにしています。

−アクションやドラマの秘密を、「本当はお芝居なんだよ」と、この年齢で教えてしまう必要があるのかどうか、賛否両論では? 「そこまで教えてしまっては、面白くなくなる」という声はありませんか?

駒谷:
そういうご指摘は多いです。でも、子供たちは小学校低学年の段階で、7〜8年テレビを見ている訳です。だから、薄々分かっている子もいるんですね。ここで大切なのは、曖昧にしたままではいけないという事です。特に暴力に関しては、テレビの中にある暴力はアクションであって、虚構なんだよ、という事を曖昧にしてしまっています。テレビの真似をして本当に殴ってしまう、という子が高学年でも結構いるので、低学年の段階でクリアにしなければいけない。また、カラクリを知っても、≪知ってなおさら楽しむ≫事ができるという面もあるんですね。

確かに、大人の我々でも、ドラマに出ているのは俳優だと分かった上で、それでも十分にのめり込み、感情移入する事が出来る。現実を知る事で夢が壊れる訳ではなく、大切なのは、≪現実を知った上で夢見る力≫ではないだろうか。
大人の世界でも、ニュースを鵜呑みにせずに「このニュース、こういう意図があるんじゃないの」と考えた上で情報を取り込むのと同じ事だ。

最後に、ビデオのエンディングシーンをご紹介しよう。

子供大勢: おーわーりーに!
うっきー: テレビの不思議探検、どうだった? アニメやアクションやドラマには、たくさんの不思議があったよね。テレビを見て、「楽しいな」「悲しいな」「すごいな」って色々感じるのは、テレビを作っているたくさんの人達が、工夫して作ってるからなんだね!テレビの不思議は、まだまだあるよ。皆で見つけてみてね。じゃあね!
うっきっきーー

小学校低学年の子供たちに、こうした知識を教えるのは、非常に面白い試みだ。

以下に、私がこのガイドブックに書いた言葉を引用させていただく。

テレビ映像を題材とするメディア・リテラシー教育の一つの特徴は、≪教員も子供達も一緒にヨーイドンである≫という事だ。実際、このようなビデオ教材で子供時代に学習した記憶を持つ教員は、皆無であろう。うっきーちゃんの前では、教員も児童達も、等しく初体験者な訳だ。TV業界に長く棲息した人間の無造作な物言いを許していただくならば、「ここは開き直って、先生も先生ぶらず、一緒にウキウキ楽しんじゃってくださいよ!」と申し上げたい。

更に白状するならば、うっきーちゃん自身も、この教材制作者たる我々も、実はまだまだ手探りのヨチヨチ歩き段階にある。このビデオが出来上がるまでに、スタッフ間で一体どれだけの激論や作り直しが繰り返された事か! だからぜひ先生方は、この教材をも鵜呑みにせず、一つの叩き台だと思って、教室では多彩なことを試してみていただきたい、と私は願う。そうした事例の集積の中で、うっきーちゃんは成長してゆくのだと思う。

うっきうっきー!

−このビデオを借りる方法は?

駒谷:
総務省の情報通信政策局放送政策課リテラシー担当という所で、貸し出しています。03-5253-5777へお電話いただけたら、教材の貸し出しはもちろん、パンフレットを差し上げる事もできます。教材を1分間に縮めたダイジェスト版も、CD-ROMでありますので、そちらもご覧になれます。

学校の先生だけでなく、一般家庭でも十分に楽しめる。一般家庭から、学校の方へ導入を勧める事もできるだろう。

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