いつの間にか、「有事法制」成立寸前!

放送日:2003/04/26

皆が気付いていない、小さくても注目すべき話題を取り上げるのがこのコーナーの本旨だが、大きな話題が見落とされている時は、もちろんそこに眼をツケる。今回は、他の大ニュースの影に隠れてしまっている≪有事法制三法案≫がテーマ。参議院議員の福島瑞穂さんにお話を伺う。

≪有事法制三法案≫とは、

  • 武力攻撃事態法案
  • 自衛隊法改正
  • 安全保証会議設置法改正
の3点セットのこと。こうして並べてみてもわかりにくく、「一時期騒がれて、もう飽きちゃった」という雰囲気もあるので、なかなか国民的議論になっていない。しかし、急ピッチで話は進んでおり、5月の連休明けにも国会で成立するかもしれないのだ。

−この法案の最大の特徴はどんなところでしょうか。

福島:
国・地方公共団体・指定公共団体には≪責務≫が、国民には≪協力義務≫が発生する点です。国民が協力しなければいけない、という強制力が強いんですね。例えば、ガソリンスタンドが“有事”の際に燃料を供給しないと6ヶ月以下の懲役、といった罰則の規定があります。

今までの有事関連法とは、『罰則がある』という点で、強制力のレベルが違うのだ。

福島:
教条的に聞こえるかもしれませんが、このような形で有事法制を作るということは、日本国憲法(“平和憲法”)を、実質的に内面からナシ崩し的に作り変えてしまうことだと思います。

法案の文面の中では、現実の武力攻撃発生時以外にも、「武力攻撃のおそれのある場合」「武力攻撃が予測されるに至った事態」にも、この法律が作動するとされている。

福島:
「おそれ」とか「予測」とか、実際にどんな場合なのかわかりませんよね。「おそれ」「予測」の定義をめぐって国会でも議論されていますが、答弁者によって言っていることがくるくる違う、という状況です。

首相官邸のホームページには、有事法制三法案について、かなり細かいQ&Aが載っている。そこには、例えば「燃料を弾道ミサイルに充填して、周囲の状況からして明らかにわが国に対する攻撃の着手があったと認定できるような状況」の時点でも、場合によっては「武力攻撃が発生した」とみなす、とはっきり書かれている。

福島:
この法案では、武力行使が≪時間的≫に前倒しになってしまいかねません。イラク戦争は、「イラクに大量破壊兵器があるかもしれない」「その兵器がテロリストや独裁者の手に渡るかもしれない」「それでアメリカが攻撃されるかもしれない」という、「かもしれない」の積み重ねで起こったんですよね。それと同じで、「おそれ」や「予測」で前倒しな判断になってしまいかねない。
 もう一点、≪地理的≫にも範囲が拡大します。99年に成立した日米新ガイドライン関連法・周辺事態法と、今回の有事法制三法案は、「並存する」とされています。周辺事態法は地理的に拡大しています。「攻撃の予測」が適応される範囲は、時間的・空間的に拡大するんです。

そういった懸念の一方で、「現にこれだけ緊張が高まってるじゃないか」「ミサイルを撃たれてからじゃ遅い」「だから時間的・空間的な広がりも仕方がない」という空気も高まっている。イラク戦争・朝鮮半島情勢を目の当たりにして、有事法制推進派も反対派も、共に自説の正しさへの確信を更に深めている、という状況だ。

福島:
このままいくと、「どれだけ精巧な迎撃ミサイルを持つか」とか、「相手が核を持つならこちらも核」、という風にエスカレートしてしまいかねません。新しい法律を作らなくても、現在の枠組の中である程度のことはできるんです。有事三法案は、極端に言うと、「国民をどう守るか」ではなく、「国民をどう総動員するか、どう作動させるか」という構造です。
 それに、新しい法律を作って日本が身構えることで、逆に緊張を高めてしまう、という面もあります。韓国は、北朝鮮に対して「暴発をどう抑えるか」「どうやって軟着陸させるか」ということをすごく考えてきたわけですよね。今、日本が有事法制を作ったら、北朝鮮がハリネズミのようになってしまう。日本は「攻められたらどうする」と思って作るんですけれど、逆に「日本の軍事大国化」という危機感を与えてしまうことにもなるんです。

≪緊張が高まっているから備える≫か、≪備えることで緊張を高める≫か。この重大な選択をするには、今のところ、議論が全く足りないのではないだろうか。“向こうが殴りかかって来そうだからこちらから殴る”という姿勢に変えるのか否か、という議論は、すなわち、「≪丸腰≫というリスクを負ってでも、緊張を高めない努力をする」という憲法の覚悟を通すのか、ここで覚悟を変えるのか、という≪国是≫についての議論だ。

福島:
有事三法案が成立すれば、国と地方公共団体・国民との≪関係≫が大きく変わります。99年に成立した周辺事態法では、国は知事に「協力を求める」ことができる、国民に「協力を依頼する」ことができる、という記述だったんですが、今回は直接、国が「指示」権を持ちます。戦争を前提にして国民の権利を上から制限できるという構造が、法律で体系的にできるということには、すごく懸念があります。

加えて、今回の法案には、関連法を二年以内を目標に整備すること、という記述もある。つまり、「この法律が成立したら、すぐ芋ヅル式に周辺の法律も作りますよ」というスイッチが組み込まれているのだ。今回の法案成立は、ドミノ倒しの最初の一コマを倒すこと、と言える。

福島:
それなのに、実は十分な議論がされていないんですよね。国会の特別委員会で70時間以上議論したと言われますが、防衛庁のリスト問題や非核三原則見直し発言などで議論していて、この法案だけについてやっていたわけではないんです。もっとやるべきなんですよね。有事立法そのものが必要か不必要か、という議論もありますし、もし必要だとしてもこの法案でいいのか、という議論もあります。
個人的には、イラクにしても昔の沖縄にしても、「軍隊って本当に国民を守ったの?」って思ってしまいますけどね。

きちんと議論を尽くして結論が出れば、国民も納得できる。しかし、一時期盛り上がってもほとぼりが冷めると議論がなくなり、また今回のようにギリギリになってから急に再浮上してバタバタと決めてしまう、という今の日本の進路決定パターンは、国として不幸だ

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