都知事選投票呼びかけ広告に学生案採用

放送日:2003/04/12

明日(4月13日)は、統一地方選前半戦の投票日。関東地方では、東京都知事選の投票を呼びかけるテレビCMが最近ひんぱんに流れている。実はこれ、ある大学のゼミの学生グループが出した原案が採用され、制作されたもの。今回は、そのグループから二人の学生に話を聞く。明治学院大学・川上和久ゼミ4年の小関敬介君と今井麻美子さんだ。

この15秒CMは、東京都知事選の投票を呼びかけるものなので、関東地方以外では放送されていない。関東地方以外の方のために、どんなCMなのかをご紹介しよう。
東京都の風景をバックに老若男女がずらりと並んでいるが、その画面がモザイク状に置かれた投票用紙で4割ほど隠されていて、全体が見えない。そこに画面の外から手が伸びてきて、画面を隠している投票用紙を一枚ずつ取っていくと、画面が完全に現れる。そしてこの間、こんなナレーションが流れる。

前回は棄権した人が4割。そうするとここまでしか見えません。みんなが投票すれば、東京の未来がハッキリ見えてきます。投票日は4月13日。首都の顔、私が決めるこの1票。

そして最後に100%姿を現した画面の中央で、タレントの池脇千鶴さんがニッコリ微笑み、「投票をお忘れなく」と呼びかける。
―――このCMは、3月末から明日の投票日まで、民放各局で計363回流されている。ポスターにもなり、都内に7万枚以上が張り出された。都の選挙管理委員会が投票率アップのために展開したキャンペーンだ。
賞状前回の東京都知事選は、投票率が58%。特に20代では3人に2人、30代でも2人に1人が棄権した。そこで都の選挙管理委員会では、投票率アップのため、その世代(16才から39才)限定で、CMの原案を募集した。「『首都の顔、私が決めるこの1票』(これも公募で決めたコピー)という言葉を必ず使い、投票に行こうという思いを強く呼び起こすもの」という条件だった。小関君や今井さんのグループは、この企画に応募、見事に最優秀賞となって採用された。

このアイデアはどうやって生まれたの?

小関:
前回の投票率が58%、つまり42%の人達が棄権したっていうことを強調しようと思いました。画面の42%を投票用紙で隠すアイデアが出たのは、本当に思いつきだったんですけど。
今井:
締切まで時間がなかったので、みんなそれぞれアイデア考えて持ち寄って、どれがいいかって考えました。

このアイデアが、テレビCM部門142本の中から最優秀賞に選ばれた。首都の人々の顔が4割隠れていてよく見えなかったのが、みんなが投票用紙を手にとると見えてくる。『首都の顔、私が決めるこの1票』というキャッチコピーをまさに映像化した点が、審査員に評価された。

池脇千鶴さんのバックには、小さい子供、お年寄り、若者などが大勢いる。この中に、小関君と今井さんも出演しているのだ。

小関:
CMに出演までするとは決まっていなかったんです。でも学生からの応募は珍しかったらしくて、しかもそれが最優秀賞だったので、出演もしてください、と依頼されました。

もともと、CM広告などを研究するゼミなの?

小関:
僕の専攻は政治心理学なんですけど、川上ゼミは「マスメディアの政治過程に与える影響」という研究テーマで、主に情報操作などについて研究しています。その中で、僕らの小グループは「無党派層とメディア」というテーマで調べてます。
今井:
6人のグループで、参院選などで行われた各党のCMキャンペーンを比べたり。あと、党の本部に行って、CMでどういうことを伝えたかったのかを聞いて、伝えたかったことと受け手の印象が一致してるかをアンケートで調べたりしています。そういう調査結果と過去のデータをもとに、これからどうしていくべきかを考えています。
小関:
授業とは別に、川上先生の人脈で、政治家のパーティーや講演会に参加したりもします。じかに政治家に触れる機会があるゼミなので、楽しんでやってます。

去年の秋には、学園祭で民主党の鳩山由紀夫代議士の講演会を主催したという。(日本テレビ「電波少年」の企画でコーラス隊が乱入して物議をかもした、あの講演会だ。)

さて、CMの原案が採用になった後、小関君達は制作打ち合わせにもオブザーバーとして参加し、意見を述べた。

今井:
とにかく若者にアピールしたかったので、CMやポスターにも若者を使ってほしい、ということを言いました。
小関:
あと、全体に一体感を、「みんなでそろって作ろう」っていう感じを出してほしいってことを頼みました。

CM収録は初めてだったと思うけど、面白い体験だった?

二人:
本当に面白かった!
小関:
たった15秒のCMなのに、撮影は朝10時から夜10時くらいまでかかりました。投票用紙をとるタイミングとか、監督さんがとてもこだわっていて、「もっと早く!」って言われたり。僕の友達は、「笑顔がぎこちない」って何回も何回も注意されてました。ライトがすごく強いので暑くて、僕はずっと汗をかいてる状態。

それだけ苦労してCMを作ったわけだけど、実際に二人は投票に行ってるの?

小関:
僕は前回の投票の時に初めて選挙権を持ってたんですけど、友達と遊びに行っちゃって、放棄してしまって…。
今井:
私は今まで投票の機会がありませんでした。前回の時はまだ選挙権がなかったので。でも、このCMのことがなかったら、多分今回も行くのが億劫になっちゃってたかな。

このCMを作ったことで、気持ちは変わった?

今井:
少し、変わりました。
小関:
僕は、投票に行きたくなりましたね。このCMが流れたことによって、投票率が上がってくれればっていう気持ちが強くなりました。僕は千葉県民なんですけど、明日ある市議選にも行こうと思います。そうやって投票率が上がれば、CMを作った達成感があるなって思って。
今井:
私は、出身の群馬県に住民票があって、群馬は今回選挙がないので…。

東京を活動拠点にしている人に都知事を選ぶ権利がない、という、大都会の典型的な例だろう。昼間は東京の会社や学校にいるが、夜は都外へ帰る、とか、住民票は郷里のまま、という人が本当に多い。

CMが放映されて、手応えは?

今井:
友達や知り合いから、すごいたくさんメールが来ます。「CM出てるじゃん!」って。久しぶりに会った友達にも、「毎日会ってるようだ」って言われます。
小関:
僕は昨日、就職活動で会社の面接に行ってたんですけど、グループ面接で一緒になった学生に、「CM出てますよね?」って声をかけられました。そういう時は、「投票行ってね」ってこまめにアピールしてます。

今後、何か次のプランはあるの?

小関:
政治家には、とげとげしい、近寄りがたいイメージがあると思うんですけど、実際に触れてみると、気さくで明るい人もいます。そういう面を伝えるような番組とかがあったらいいんじゃないかな、と思ってます。政策ではなくて、政治家の人間像を伝えるような。政治家に興味を持てれば、徐々に政治にも興味を持てるんじゃないかって思います。そんな番組の企画でも作ってみたいですね。
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