小学生制作のビデオ作品、CATVで放送

放送日:2003/04/05

先週、下村の手元に一本のビデオテープが届いた。制作・著作『ゆめネット』。今回は、このビデオテープの内容をご紹介する。

『ゆめネット』は、岡山県笠岡市のCATVの中にある地元向けチャンネル。下村のところに送られてきたのは、その中で放送されたユニークなコーナーだ。笠岡市立中央小学校の生徒が「総合的学習の時間」に作った30秒のビデオ作品24本を、下村のアドバイスを交えながら紹介している。中央小学校の取り組みは、以前『眼のツケドコロ』でも紹介した。早速、このコーナーの最初のシーンからご紹介する。

番組ナレーション:
中央小学校の6年生が、授業の一環として、情報の送り手・受け手の立場を考えながら、24班に別れてビデオ制作に取り組みました。その作品が完成しましたので、より多くの人に見てもらうために、笠岡放送で紹介することになりました
下村:
こんにちは、下村健一です。14年ほどTBSでアナウンサーやディレクターをやっていた経験から、今アマチュアでビデオ作りをする人たちへのアドバイザーの仕事をしています。今日は皆さんの作品を、3〜4本まとめて見て、コメントしたいと思います。では始めましょう。

ということでスタート。まず注目したのは、笠岡の海について扱った1本。海岸に落ちているゴミをアップで映した映像を順番に見せながら、ナレーションで紹介していくというだけの30秒だ。

[作品より]
こんなに人が食べたり飲んだりするゴミが多くて、なんと、バッテリーまでが落ちていました。
「な、なんじゃこりゃ!」(大袈裟な感じの大人の声)
みなさん、こんなゴミをなくして、昔のようなカブトガニがたくさん住んでいた、きれいな海を取り戻しましょう。(波音)
[下村アドバイス]
船のゴミがみつかった時に「なんじゃこりゃ!」という声。これ、自分達の気持ちでしょ。だったら自分達の声で言った方がいいよね。なんだこれ、って。そこに自分の気持ちがこもる。わざわざ作り物を持ってくるともったいない。≪演技でなく、ありのままを見せる≫こと。これ、とても大事です。

多くの作品に共通して、凝りすぎてしまう、大人メディアの真似をしてしまう、といった例が多い。自分達の方法で、自分達の言葉で伝えるんだ、と開き直った時の方が、面白い作品が生まれる。

今度は、笠岡の名物・カブトガニ饅頭について取り上げた作品をご紹介しよう。このグループは、自分達でカブトガニ饅頭作りにチャレンジした。しかし、自分達の手元とだんだんできていく饅頭だけを撮っていて、作っている自分達の顔の表情をまったく撮っていない。

[作品より]
ここは笠岡市にあるふじ屋さんです。この和菓子は、この店で一番人気があるカブトガニ饅頭です。この和菓子は、ふじ屋さんおすすめの備中育ちという最中です。カブトガニ饅頭を、私達も作らせてもらいました。実際やってみると、なかなか難しかったです。カブトガニ饅頭は、笠岡の天然記念物ということで、作り始めたそうです。皆さんも、ぜひ、このカブトガニ饅頭を食てみてください。
[下村アドバイス]
饅頭だけでなく、≪自分も材料にしてしまおう≫というのがポイントです。自分達も作ってみました、ということをはっきり言ってるのはいいアイディアなんだけど、せっかくなんだから、作っている時の顔の表情とかね、そこまでしっかり撮るんです。そうすると、見ている人は、「ああ楽しそうに作れるんだな」とか、「これ作るのけっこう大変そうだな」とか、そういうことが表情を見て自然にわかりますよね。そして、自分達が実際に饅頭食べてみればいいわけですよ。食べてみて、その時の顔、正直に出るでしょ、おいしいかどうかが。その場で撮っている相手や物だけじゃなくて、取材に行った自分もまた、そのリポートの材料になるってこと、覚えておいてください。

作り手の小学生たちは、どうしてもカメラから隠れたがる。しかし、作り手が透明人間でいようとすると、かえって視聴者には伝わらない。

次は、笠岡市にある運動施設を次々に紹介する作品。いくつもの施設を紹介しているが、どの施設もまったく同じような映像になってしまった。ここは○○です、と説明しながらカメラを右から左へ移動させていく、というパターンの繰り返し。耳で聞くだけでもワンパターンだとわかるので、聞いていただこう。

[作品より]
ここは運動公園の中にある広場です。ここでは野球やゲートボールができます。ここは運動公園の中にある公園です。休日にはもっとたくさんの人が利用しています。ここは運動公園にある野球場です。よく野球の試合をやっています。ここは運動公園の横にある…。
[下村アドバイス]
みんな同じパターンの繰り返しになっているんだけど、これ、例えば1ヵ所アップにしてそこからすーっと全体に引いてみたり、公園の遊具の上に立って高いところから見下ろしてみたりできましたよね。場所を撮りに行った時には、もっと全体がわかる撮り方ないかな、もっと面白い撮り方ないかな、ってまずキョロキョロ歩き回ってみる、それからカメラをまわしましょう。≪目線を変えること≫、≪撮り方の工夫≫、これ、大事です。

他人の家に遊びに行ってその家のホームビデオを見せられたが、面白くなくて見ていられない、という経験がおありの方も多いだろう。ビデオ作品をつまらなくしている一番大きな原因は、カメラワークだ。「ここを見てほしい」という部分ににグッと寄ったり、全体から部分へ、部分から全体へと視野を切り換えたり、というカメラワークは、場数を踏み、経験を積むことで身につく。
この子供達の作品も、次に作る時にはガラっと変わるはずだ。これまで市民メディアのアドバイザーをしていて、何度も“二本目の変わりよう”に眼を見張った。

次は、通学路にいる名物おばあちゃんに話を聞いた作品。インタビューする女の子とおばあちゃんのツーショットが延々と続く。

[作品より]
ナレーション:
中央小学校の子供がよく利用するお店の人気のおばあちゃん、かよこさんに、長生きの秘訣を聞きました。
女の子:
さっそく、教えてください。
おばあちゃん:
長生きの秘訣はね、健康には十分に気をつけて、運動もしてますし、精神的にもね。楽しくね、送らせていただいてます。
女の子:
ところで、何才ですか?
おばあちゃん:
私はね、85才になるんです。
女の子:
えー!75才くらいに見えました。これからも、長生きしてください。
[下村アドバイス]
これ、インタビューしている女の子を一緒に入れると、その分画面の中でおばあちゃんが小さくなっちゃうでしょ。長生きのおばあちゃんが主人公だから、おばあちゃん一人を画面一杯に撮った方がよかったんじゃないですかね。そうすると、顔のしわの様子とか、視聴者の人にもはっきり見られるから。そうすると、「75才だと思った」っていう撮影した人の驚きを、視聴者も同じように感じることができる。そうやって、なるべく≪見るだけでわかるようにする≫ことですね。

≪見るだけでわかるようにする≫のは大切なポイントだが、子供達に限らず、市民メディアの作り手達はみんな苦手だ。どうしてもナレーションやテロップに頼ろうとしてしまう。「百聞は一見にしかず」と言うように、耳で聞くより目で見る情報の方が強い。

最後は、中央小学校の良いところを、様々な人に聞いた作品。インタビューに答える人の顔だけが30秒間流れ、話している内容を補う映像がない。

[作品より]
ナレーション:
中央小学校の良いところを、いろんな人に、聞いてみようと思います。まず、近所の○○さんに、聞いてみようと思います。
○○さん:
子供達がとても元気で、あいさつもよくできて、良い子達が一杯いると思います。
ナレーション:
次に、中央小学校の生徒にも聞いてみました。
生徒:
児童の数が多くて、友達が多くできることです。
ナレーション:
中央小学校の校長先生にも聞いてみました。
校長先生:
先生達が一生懸命働いてくれることですね。
ナレーション:
このように、中央小学校には良いところがたくさんあります。
[下村アドバイス]
最後のテーマは、これはビデオを作るときにいつでも大事なテーマだけど、≪伝わりやすくする工夫≫。それぞれの人がインタビューで喋っている内容を、映像で助けてあげることができるといいですね。例えば、近所の人が「元気であいさつができて」って言うなら、元気であいさつしている映像を撮ってきて入れる。生徒が「友達がいっぱいできるからいい」と言ったら、友達の多さを示すシーン、例えば朝礼で大勢の児童がわーっと並んでるところとか。校長先生が「先生が一生懸命で」って言うなら、懸命に働いている先生達の姿、熱い授業のシーンとか。そういうのを入れると、ナレーションの言葉がもっと伝わりやすくなりますよね。
実は、30秒っていう短い作品を作るのは、とっても難しいことなんです。かえって2分とか3分の方が作りやすい。その難しいことにみんなチャレンジして、よくここまでやったなあって、感心しました。今ここで僕が指摘したポイントをなるほどなあって思ったら、次のビデオ作品を作るときに活かして、またいいのができたら見せてくださいね

番組ナレーション:
以上、笠岡市立中央所学校6年生のビデオ作品を紹介しました。

ここで紹介した≪表現上のポイント≫は、小学生の作品に対してと言うより、どんなメディアにも言える普遍的なことだ。

新年度を迎え、これから総合的学習にビデオ制作を取り入れようとする先生方もいらっしゃるだろう。テレビ局関係者や大学教授などの専門家が作ったガイドブックも出版されているが、ベストの教材は、自分が作った作品。そこから見つけ出されるポイントは必ず身につく。表現に正解は一つではないので、先生方もご一緒に、挑戦してみていただきたい。

下村も呼ばれれば全国どこへでもアドバイスに伺う。それが「市民メディア・トレーナー」の仕事である。

▲ ページ先頭へ