「NPO原則課税化」話、尚くすぶる

放送日:2003/03/22

世の中がイラク情勢一色になっている中、どさくさ紛れに、日本のNPOに関する重要な政策変更が行われそうになった。
現在、NPO法人設立には非常に煩雑な手続きが必要だ。それを簡素化し、登記だけで良いようにしよう、という改正だ。それだけなら結構な話のように思えるが、それに代わる新たな縛りとして、NPOの収入に課税しよう、という方針が打ち出された。
こんな改正が通ったら、またも官僚支配が強まり、市民社会が遠のくぞ!と危惧するキャリア官僚、浜辺哲也さんに、お話を伺う。

−収入への課税が実現されると、どんな問題が出て来るんですか?

浜辺:
戦争などの際、救援のために寄付を集める、ということがよくあります。そして、今のように年度末だと現地に行けないので、4月になってからその寄付金を持って行こうとします。そうすると、会計上は年度またぎの「内部留保」になり、その寄付金に丸ごと課税されることになってしまいます。
また、福祉・介護のためのグループホームなどを自分達のお金で改築しようとします。その為の毎年の積立金も、年度ごとに30%税金として持っていってしまわれるのです。

課税を行う元々の動機は、内部留保を貯めに貯め、それで天下り官僚に退職金をどーんと支払う、というような問題が公益法人にあったからだ。これは、政府税調で猪瀬直樹氏などが指摘し、ヤリ玉に上げられている。しかし、だからといってこのような課税を制度化すれば、集めた寄付はその年内に社会に還元しなければならない、という状態を作り上げてしまうことにもなる。(まるで年度末の道路工事ラッシュのように。)

浜辺:
ただ、何でも課税するというわけではなく、社会貢献性のあるNPOについては非課税にする、という案も出ています。しかし、誰がどうやって「社会貢献性」を判断するのかは不明です。現在、NPOについては、内閣府と各都道府県で形式的なチェックを行っていますが、新たに第三者機関を立てたり、税務署で判断を下す、などの案も出ているようです。NPO法人は、常に監視の目を気にしながら活動しなければならなくなってしまうのです。

−NPO活動自体に水をぶっかけられた形になると思われますか?

浜辺:
それがとても悔しいんです。100年かかって2万6千団体生まれた市民運動体が、NPO法ができてからこの4年に1万団体も増えました。これは経済効果としてもかなりのものになり、日本経済を活性化するかもしれません。私は役所で、NPOの発展のための基盤政策についてはしっかりやりましょう、と言ってきたんです。ところが、8月になったら急に逆戻りするような案が出てきて、悔しくて仕方ありません。

−ただ、今のところは、この課税案は異論が強くて、一旦棚上げという形になったんですよね。

浜辺:
それでみんな一安心していますが、基本路線は変わっていないはずです。公益法人改革は、去年の3月に閣議決定され、今年の3月を目処に大綱をまとめるということになっています。その為、NPOが気を抜いていると、今後いつの間にか決まっているということもあり得ます。
課税対象となる新たな法人の範疇から≪当面≫NPOを除外しておいて、その新制度を数年運用してみて、問題ないからNPOも入れてしまおうというシナリオで、「発展的解消」することもあるんです。せっかく市民が活動して出来た法律なのに、また議員の手で勝手に変えられてしまっていいの?と思いますね。
何かと批判され、改革の対象とされる公益法人も、全て悪いわけではありません。地元で美術館を開いたり、企業の出資で財団を作ったり、という、“良い公益法人”も一緒くたにして規制をかけることが問題です。NPOが逃げられたから良いという問題ではなく、いつかは呼び戻されるし、現にこの改革で、“良い公益法人”がひどい目に会っています。

−課税逃れのための「なんちゃってNPO」が出来ることを危惧しているんでしょうか。

浜辺:
登記が簡単になれば、実態は金儲け狙いなのに「非営利活動」という名目でどんどん登録してしまおうという団体は増えると思います。ですが、現在でも企業と競合する分野では、NPOの活動にも「収益事業」ということで、税金はかけられています。税金逃れをしているんだったら、現在の税法でチェックをかければいいし、システムをいじる必要はありません。

−では、改革したい側も納得する代案はどんなものがあるでしょうか?

浜辺:
NPOが「自分達は良いことをしているんだ」と叫ぶだけでは独りよがりになってしまうので、いかに会計・財務報告をきちんとするかです。仕事と活動を両立させている方も多いですから、なかなか難しい部分もあると思います。ですが、寄付金をちゃんと使っているかどうかなど、市民に信頼を得ないと生き残れません。行政のためでなく、市民・社会のために活動する“良いNPO”をどうやって見つけだしていくか、その方法を考えなければなりません。

−その為に、官僚支配の代わりにオンブズマンを作ろうという動きがあるそうですね。

浜辺:
活動を自ら律するということで、市民の手によって「公益法人改革オンブズマン」というものを作ろうとしています。

浜辺さんは、霞ヶ関に籍を置きながら、このオンブズマンの呼びかけ人になっている。他にも、堀田力さんなどは、政府税調の「非営利法人課税ワーキング部会」の中で、NPOサイドからの発言をする唯一のメンバーとして、孤軍奮闘している。

−しかし、何故また官僚であるあなたが「官僚支配を打破しなきゃ」と叫ぶのですか?

浜辺:
官僚は優秀で、熱意のある人間がいっぱいいますが、独りよがりになってしまうと必ず間違いを起こします。それを誰かにチェックしてもらう必要があるのですが、市民や納税者が行政に対して「それでいいんじゃない?」と追従してしまう現在では、危険性はどんどん膨らんでいきます。
そもそも、官僚は市民に奉仕しなければいけないんですね。それを忘れて「俺が俺が」となってしまうと良くないと思います。

−霞ヶ関にいながら、そういう考えにたどり着けたのは何故ですか?

浜辺:
4年前に大きな病気をして、ちょうど今頃は入院していました。あいつはもうダメだね、と言われる程死にかけていて、手術の後も薬などの関係で半年ほど入院していました。その間、今まで自分が何をしてきたのかを問い直してみたんです。本当に、国のため、社会のために尽くした結果として体がボロボロになったのか? 別の所にエネルギーを費やしてきたんじゃないのか? 自分は「世の中のためになりたい」と思って公務員になったのだから、もっと別の形でも社会の役に立ちたい、と思い至ったところで耳に入ってきたのが、「NPO」という言葉でした。それ以来、退院後も、役所の中で「NPOを政策の中に位置づけ、きちんとした経済主体と位置づけることは大事だ」と言い続け、それを役所も許してくれていました。
しかし、今のままでは、これまでの4年間が台無しになってしまいます。NPOだけでなく、任意団体にも関係してきます。宗教法人、学校法人、果てはマンション管理組合などにも及んでくる話です。言うべき部分はしっかり言い、議論していくべきだと思います。

そもそも、「税金」とは国が一元的に使い方を決めるもの。これに対して、NPOは政府の一元的政策ではカバーしきれない社会的ニーズを個別・柔軟に補完する役割を担っているのに、そこからまた一律に「税金」を吸い上げては、NPOの役割が死んでしまうのだ。

浜辺:
既に一部の国ではそうなっていますが、「政府に税金を納める」か、「NPOに寄付する」か、市民が選べるような制度になればよいと思います。政府の政策に同調するなら税金を納め、NPOの活動に寄与したいなら寄付をし、その分税金を負けてもらうという仕組みが出来上がればよいと思いますね。
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