「裁判員制度」市民側の動き活性化

放送日:2003/02/15

来年から制度化される見込みの≪裁判員制度≫を巡って、今、市民サイドの動きが活発になっている。あなたも私も、ある日突然裁判所から「有罪、無罪の判断を下す役をやって下さい」と呼び出される時代が、もう間もなく来るのだ。

これを巡って、今月初めには一般市民500人もが参加した模擬裁判も行われたし、今日(2月15日)も午後から、霞ヶ関の弁護士会館で、その模擬裁判参加者の意見交流会や「裁判員制度連続セミナー」が開かれたりしている。今回は、このような動きの牽引車になっている、『市民の裁判員制度つくろう会』事務局の竹沢頼之さんに、お話を伺う。

−『裁判員制度』は、アメリカの陪審員制度と違うのでしょうか?

竹沢:
陪審員制度は、有罪か無罪かの判断を市民が行い、法律の解釈を巡る刑の重さの判断は裁判官が行う、という役割分担をしたものです。一方、『裁判員制度』は、市民が有罪無罪の判断だけでなく、刑の重さも裁判官と一緒に決めていく、という仕組みです。
国民の司法参加については、司法制度改革審議会で2年ほど審議され、意見書によって方向性が決められました。一方、最高裁は市民に司法判断をさせるのは難しいのではないか、ということで、「市民の意見は聞くが意志決定には関わらない」、という提案をしましたが、これは時代錯誤ということで批判されました。結局、日本にふさわしい市民参加スタイルということで、『裁判員制度』が作られました。

−誰でも、裁判員に指名されるかもしれないということですか?

竹沢:
来年の通常国会で法律が制定され、数年の準備期間はあると思います。裁判員は、選挙人名簿から無作為で選ばれ、特別の理由がなければ参加しなければならないとなっていますので、あなたが選ばれる可能性も十分にあり得ますね。

−実際に裁判員に選ばれると、どうなるのでしょうか?

竹沢:
裁判所への呼び出しの手紙が来て、裁判所に行くと、まずはオリエンテーションを受けることになります。その後、裁判官・検察官・弁護士の3者で、事件の関係者と特別な関係が無いかどうかなどをチェックされ、裁判員の選定手続きをします。裁判員に選ばれると、裁判官と一緒に、法廷に出された証拠と証人の証言に基づいて、判断を下していくことになります。検察・弁護側それぞれの主張を聞いた後は、裁判官と対等の権限で有罪・無罪を決定します。

−対等の権限と言っても、法律の専門家である裁判官と、本当に対等に渡り合えるのでしょうか?

竹沢:
それについて、私達『作ろう会』は、「市民に分かりやすい言葉での裁判をすべきだ」と主張しています。今の裁判は、専門的な書類を読んで進める、という形になっていますが、提出証拠と証言に基づいた裁判をすれば、市民と裁判官が同じ土俵で判断できると思います。

−裁判員と裁判官の人数構成はどのようになるのでしょうか?

竹沢:
詳しいことはまだ決まっていません。ですが、人数の問題は『裁判員制度』自体に関わる大きな問題です。内閣の司法制度改革推進本部では、[裁判官3人+市民2人]というコンパクトな形に、という意見も出ていますが、市民の感覚を裁判に反映させるには、裁判官の最低3倍の人数の裁判員は必要だ、と私は考えています。

−裁判員に選ばれた際、自分の本来の仕事との兼ね合いはどうなるのでしょう?

竹沢:
それについても、まだ決まってはいません。特別な理由が無ければ断れない国民の義務だ、という意見書が出されていますので、有給休暇や最低限の日給保証などの措置は取られるべきだと思います。また、市民に関わる法律ですので、皆さんがどしどし意見を出して下されば、と思っています。

−日本人だと、「面倒だなぁ」と尻込みする人も多そうですが。

竹沢:
最初はそうかもしれませんが、『裁判員制度』が徐々に常識になっていけば、参加意識も出てくると思います。制度は育っていくものですから。

−世界的に見れば、裁判への市民参加制度は広まっているんですよね。

竹沢:
そうですね。G8はもちろん、主要国と言われている中で市民参加が進んでいないのは日本と韓国だけです。中国でも、市民参加制度があります。

−市民と裁判官の人数比率については、各国はどうなっているのですか?

竹沢:
フランスは[裁判官3人+市民9人]です。イタリアは[2人+6人]、スウェーデンは[1人+3人]になっています。ドイツの参審制では、推薦を受けた特定の市民が選ばれて参加する形で、形骸化が指摘されています。陪審員制度と参審制が併存し、犯罪の軽重で使い分けられているところもあります。
実は日本でも、大正時代に陪審制度に関する法律が施行されています。500件程度の裁判が実施されて、非常にうまく運用されていたのですが、第二次大戦で停止されてしまいました。陪審法は“停止”はされていますが、“廃止”はされていません。現行法として存在していますので、『裁判員制度』とどう整合性をつけるか、こちらも問題になっています。

−今後、立法化にはどのように動いていくのでしょうか?

竹沢:
今年の秋頃には、法案の骨格が決まると言われていますので、これからが正念場です。やはり、市民が参加する制度ですので、皆さんの意見をどんどん集約していただきたいと思います。

−検討会には、市民サイドも加わって一緒に進めていく、という形なんですか?

竹沢:
全部で 11人の委員さんがいらっしゃいますが、法律の専門家でない方は、新聞記者と情報関係の大学の先生の計2人のみです。市民感覚を活用する『裁判員制度』を検討するには厳しいメンバー構成だと思います。
検討会の議事録も、ホームページで公開されるのは2ヶ月後。しかも当初は発言者の名前も記載されていない状態でした。これではまだまだ遠い存在になってしまっているので、行政側ももっとアピールして欲しいと思っています。

法律が施行されると、我々自身が裁判員として裁判に参加し、また裁判員に裁かれる日がやって来る。その時のためにも、この動きにしっかり注目しておきたい。

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