コスタリカの「常備軍廃止」明記憲法

放送日:2002/5/4

昨日は憲法記念日、ということで、今日は中米の小さな国、コスタリカに目をツケた。 実は、このコスタリカ、日本同様、軍隊を持たないと謳った憲法がある。「常備軍廃止」を明記して以来53年間、内戦続発の中米の中で、これを維持してきているのだ。

コスタリカ憲法12条は、「恒久的制度としての軍隊は廃止する」と明言し、続いて「公共の秩序の監視と維持のために必要な警察力は保持する」、さらに「大陸間の協定、又は国防のためにのみ軍隊を組織することができる。但し、いずれの場合も文民権力に常に従属する」ということが記されている。現に、米国に人員を派遣して、軍事施設で訓練をしているし、米国から軍事顧問を受け入れたりもしている。しかし、実際に"恒久的"軍隊が常駐している、ということはない。

人口300万人台という小さな国で、どうしてこんなことができているのか? 日本社会との"空気の違い"は? コスタリカ現地に2000年1月まで、留学生として2年間生活をされて、話題のドキュメンタリー映画「軍隊を捨てた国」(この憲法について採り上げた作品。http://www.aifactory.co.jp/ )の制作のお手伝いもされた足立力也さんに、電話でお話を伺う。

−コスタリカの一般市民の中では、日本でのいわゆる「憲法9条論争」のようなものはないんですか?

足立:
一般の市民の間では、そういった論争自体は既に無いと言っていい感じを受けましたね。映画の中でも、一般市民に「軍隊は必要か?」と突撃インタビューをしたんですが、誰一人として「要る」と答えた人はいませんでした。例えば、「表現の自由があるのだから対話で解決できるではないですか」とか、「コスタリカは平和で民主主義的な国で知られているので、もしどこかから攻めてきたなら、攻めてきた国の方が高くつくでしょう」という答えが返ってきました。

−日本での9条改憲論や有事法制推進論のように、「いざというときに困るじゃないか」という主張はないんですか?

足立:
インタビューでも、そのあたりのことをずっと突っ込んで聞いたんですが、どうもそこまで考えていないんですね。というのは、逆にこの十何年間軍隊無しでやってきた、という歴史的自負の表れ、といえるのではないでしょうか。

今年2月下旬の『週刊金曜日』誌で、朝日新聞ロス支局長の伊藤千尋さんが書いている文章を、興味深く読んだ。コスタリカでは、53年前この憲法を決めた直後に、「兵士の数だけ教師を置こう」「トラクターは戦車よりも役に立つ」「兵舎を博物館に変えよう」「銃を捨てて本を持とう」などのスローガンが作られ、謳われたという。

−これらのスローガンは、今でも掲げられ続けているんでしょうか?

足立:
「兵士の数だけ教師を置こう」というスローガンなんですが、今や実際にその当時にいた兵士の何倍もの、すごい人数の教師がいます。石を投げれば教師に当たるというくらい、多いですね。それから、「トラクターは戦車よりも役に立つ」というのは、アリアス元大統領(下村注:ノーベル平和賞受賞者)が、他の中米の国が戦争をやっていたときに、和平交渉の際に使ったスローガンです。「銃を捨てて本を持とう」=つまり教育を広げようという実践は、国家予算に占める教育費の割合が20〜25%位、ということに表れていると思います。また、「兵舎を博物館に変えよう」については、実際に、陸軍の司令部だったところが国立博物館になっています。

−日本の有事法制推進論の根拠として、北朝鮮問題など「周辺の大変さ」が良く取り上げられます。ですが、コスタリカの場合は陸続きですから、周りはもっと大変なはずですよね。

足立:
特に、1980年代の前半あたりは、隣のニカラグアで内戦が起こっておりました。当然その飛び火などもあり、ニカラグアの交戦勢力がコスタリカ領内にも入ってきておりましたし、当時の反政府勢力を押している米国などからの圧力も色々な形でありました。コスタリカは、《どちらかの勢力に肩入れするか、又は非武装を守るか》という選択をせまられましたが、結局選んだのは「非武装」だったんです。そして、武器を持たずに中立でいて、なおかつ身の回りにある紛争を積極的に仲裁していく、ということによって自分の国を守っていく―――つまりそれこそが"防衛力"であり、安全保障である、という方向に一歩踏み込んでいったんです。先ほど伊藤千尋さんの話が出ましたが、彼はこれを「国際火消し」という風に名付けていますね。

−軍隊がない、ということが、軍縮交渉などをするときの説得力・発言力に繋がっていっている、という見方ですか!

足立:
そうですね。ただ、軍隊がないだけではなく、やはり《中立》であるということが重要です。中米の小さな国ですので、基本的には親米政権で、米国の後ろ盾が無ければなかなかやっていけないんですが、その中でも可能な限り中立であろうとしています。それからもう1点、《民主主義を非常に重要視している》こと。この2点が、国際社会で発言力を得る重要なポイントであると思います。 特に、「民主主義」は錦の御旗のようなものでして、それを逆に楯にとって米国と外交しているんです。つまり、「自分の所は民主主義国だから、変に介入してはいけませんよ」ということを巧みに利用して、米国と上手く付き合っているんです。このあたりは、日本も参考にすればよいと思っています。

※映画「軍隊を捨てた国」上映スケジュール問合せ先……
あいファクトリー(03-3470-1191)

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