今日「BSアカデミア」開局1周年

放送日:2001/12/01

今日12月1日、BSデジタル放送各局は一斉に満1歳の誕生日を迎えた。受信者数がなかなか増えないという根本的な問題に、この1年はどこも悪戦苦闘しながら頑張ってきて、最近やっと薄日が差してきたかな、という段階だ。そんな中、私から見てただ1つ、「余り知られていない」ことを逆手にとって成長を遂げてきた、注目すべき局がある。その名は『BSアカデミア』。

『BSアカデミア』とは、大学生だけでやっている全国向けの衛星ラジオ局だ。(そもそも、BSデジタルチューナーがあれば実はテレビだけでなくラジオも聴くことができるって、御存知でした?

TBS系の衛星デジタル放送会社『BS−i』は、手持ちの3つのチャンネルの内、ラジオ1つ(462ch)を大学生に丸ごと全面開放し、企画・制作・出演・スタジオ機械操作まで、全てを学生に一任して1年間やってきた。私はそこで、ニュースコーナーを担当している学生達のアドバイザーを、開局前からずっと務めている。今回は、同コーナー担当の学生、富田麻奈美さん(お茶の水女子大学3年)と西岡慶記くん(東京大学2年)の2人が、中村尚登キャスターの質問に答える形で、1年間の取組みを振り返る。

−学生から見たニュースって、どんな題材を取り上げているの?

富田:
「身近でダイレクトに関わるもの。最近は、眼科に行って『どうしてこんなに高いの?』と思ったことをきっかけに、医療費の内訳の調べ方について取り上げた。」
西岡:
「難しい題材も取り上げている。最近は商法の改正問題とか。新聞の一面に書いてあるのに全く分からなかったので、必死に調べて放送で伝えようとした。でも、理解したまではいいけど、それを伝えるのが難しい…」

学生達が最も苦しんでいるのは、「分からないことを理解する」ことより「理解したことを知らない相手に分かってもらう」こと。これは私にとっても大きな発見だった。

−どうしてニュース担当を始めようと思ったの?

富田:
「社会の動きが気になったのと、将来は新聞記者になりたかったから。」
西岡:
「キャンパスの枠を越えて色々な大学の人と1つのことをやりたかった。ニュース担当はそれができると思ったから。」

メディア志望の学生のみならず、そうでない者も多い。HPで公募して最初に集まった180人の学生は、本当に様々な大学から色々な目的を持って参加していた。

−この活動を始めて、ニュースの見方は変わった?

富田:
「随分変わった。新聞は1面だけでなく社会面や経済面など隅々まで見るようになった。そこで『自分と関係あるかも』と思いながら読めるようになった。」
西岡:
「僕も変わった。一見身近ではない国会のニュースなども『自分にどんな影響があるんだろう』という見方をするようになった。」

−1番気になったニュースは?

富田:
「狂牛病問題ですね。」
西岡:
「仙台の筋弛緩剤事件。報道の仕方について問題を感じたので…。」

筋弛緩剤点滴殺人疑惑報道の難しさについては、前週のこのコーナーでも言及した。学生達にとってこの活動は、最高のメディアリテラシー教育の場になっているようだ。

−下村はアドバイザーとして、どの程度口を挟むの?

富田:
「内容については言われない。伝え方について『それじゃあ誤解されるよ』とか、その程度。」
西岡:
「放送前はほとんど言われない。改善すべき点は放送後に指摘される。」

"大学生チャンネル"の看板を偽物にしないよう、私は、あえて口は挟まない。あまり口出しすると"下村チャンネル"になりかねないから。《答》は一切示さず、『自分で考える』べきポイントの指摘にとどめている。誤報を出した場合のみ、即座に私が、訂正放送を指示する。失敗して放送で謝罪することが、最も身に染みる勉強になるのだ。幸い、リスナーが少ない今は、信頼失墜のダメージよりも、失敗に学ぶメリットの方が大きい。冒頭に言った「余り知られていないことを逆手にとって」…とは、そういう意味だ。

−ラジオを実際やってみて、何か気づいたことは?

富田:
「大切な事から言わなければいけないということ。ラジオは音しかないので、リスナーに思い浮かべてもらうように話していかないと伝わらない。」
西岡:
「モノを描写すること。テレビだったらモノを見せればいいけど、ラジオだと言葉だけでそれを伝えないといけない。本当に難しい。」

−1年間やってきて、まだ出来ないと感じることは?

富田:
「気になる!と思ったことをリスナーにきちんと伝えることが出来ないこと。」
西岡:
「評論家っぽく無責任に言ってしまう。いけないと思ってもついついやってしまう。」

−これから就職活動専念のために卒業する富田さん、これからの夢は?

富田:
「昔は新聞記者になりたかったけど、今は雑誌や本の編集の仕事がしたい。」

−これからも続ける西岡くん、今後の抱負は?

西岡:
「新しく入ったメンバーに1年間の自分の経験を伝えたい。早く卒業したメンバーの穴を埋めて、より高いところを目指して頑張りたい。」

最初に「唯一成長を遂げてきたBS局」と言ったが、それは聴取率云々の意味ではなく、文字通り学生自身が「成長」している、ということだ。学生がどうニュースを見ているのかは、大人の私たちにも、時に新鮮で参考になる。皆さん、やっと少しは安価になってきたことだし、ここらでBSデジタルチューナーを買って、聴いてみて下さいませんか?

【追記】:(BSアカデミアは、2003年3月末で閉局になりました。)

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