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松下村塾

僕が突きつけられた、中国人からの反駁

2005年4月21日

 中国の反日デモ問題が、連日大きく報じられるなか、僕も今、ある中国人とバトルを繰り広げている。お相手は、3年前に『下村健一の眼のツケドコロ』でも紹介したことがある、インターネット放送局『東京視点』の可越代表。"バトル"といっても、お互い気心しれた同士なので、石を投げ合う事も無い、前向きな議論なのだが、そのテーマはかなり深い。

 発端は、先週(05.4.16)の『サタデーずばッと』で『東京視点』の活動を僕が取材・放送したことだ。『東京視点』は今、日本で暮らす中国人達にビデオ・インタビューして(文字起こしはこちら)、それをネット上に中日2ヵ国語で動画でアップし、 【A】中国人には「暴力行為を止めよう」・【B】日本人には「抗議される理由を考えて欲しい」と呼びかける緊急行動を行なっている。  暴力シーンの映像 情報ばかりが表面的に飛び交う中、彼等のこの行動自体を日本の視聴者に知らせる事には大きな意味がある、と僕は考えた。
 彼等としては今、なるべく多くの人にアピールしたいわけだから、この取材オファーは喜んで受け入れられるものと僕は思ったのだが、可越さんは当初、取材 を受けることを渋った。「日本のマスコミはすぐ、例えば《反日に走る大陸の中国人vs冷静な在日の中国人》といった単純化した構図に私達を当てはめるに違 いない」という警戒感からだった。しかし、『ずばッとリポート』に限って、そんな表面的な描き方をすることは無い、という自信があった僕は、彼女を説得 し、『東京視点』の活動密着を敢行した。

 そして、16日朝。同胞達にマイクを向け、精力的にメッセージを集め続ける可越さん達の姿は、約10分間(スタジオ込み)にわたってTBSの画面に流れ た。視聴者の反応は、我々制作サイドの期待通り好意的で、『東京視点』についての問い合せの他、「何事においても、見ても聞いてもいない事には、下手なこ とは言えませんね。目を覚まされた気が致しました」「反日活動の日本側報道として、活字を含めても他に類を見ない出色な奥行の深さを感じました」等の感想 メールが寄せられた。
 しかし、可越さん自身からの評価は、極めて厳しかった。「VTRに登場した中国人は皆、反日運動《そのもの》に批判的なように描かれていた。私達は《暴 力行為》に反対しているだけなのに。」 …つまり、前述の【A】の要素ばかりで、日本人側に再考を促す【B】の要素がすっかり抜け落ちている、というの が、彼女の感想だった。大メディアの取材を受けるかどうか迷っていた時の懸念がズバリ的中した、というわけだ。

 う~む、残念。彼女の指摘は、おっしゃる通りではある。日本を愛してくれている在日の中国人達の胸中に沈殿する、この問題について真剣に考えようとしな い日本人の鈍感ぶりへの《もどかしさ》。確かにその要素を、僕等は結局VTRに盛り込まなかった。そのことは、本当に申し訳ないとは思う。
 しかし僕等としては、金曜夜からの徹夜編集の段階で、確信犯的に話を平明にした、という思いがある。「石を投げている中国人ばかりではないんだよ」とい う極めて当然の"ステップ1"を視覚化して伝えることが、2005年4月16日午前7時という時点の日本社会にとっては最も緊要だ、と僕等は判断したの だ。可越さんが指摘する「でも、日本人の皆さん…」という"ステップ2"の部分まで一気に盛り込むと、消化不良で"ステップ1"まで伝わらなくなってしま うことを、僕等は恐れた。
 こういう書き方をすると、「マスコミは傲慢だ。視聴者をバカ扱いするな」と、お叱りを受けるかもしれない。確かに僕自身、「複眼思考を忘れるな、話を単純化するな」というメディア批判は色々な場で繰り返し行っている。しかし同時に、小下村塾などでは、「情報伝導率を上げるため、話を複雑化するな」とも繰り返し言っている。この矛盾の狭間で、現実の表現活動をどう行なっていくか? このジレンマについて考察を深めるために、可越さんとの"バトル"は、もうしばらく続けていこうと思っている。